この記事のポイント
- Deloitte Digitalの調査でB2BサプライヤーのエージェンティックAI導入率は24%、バイヤー側の38%と大きな差
- 87%のサプライヤーがERP刷新の最中にあり、IT人材・予算がAI投資に回らない構造的課題が判明
- デジタル成熟度の高い企業は売上目標を110%上回り、AI導入の遅れが競争力格差に直結する
B2BサプライヤーのエージェンティックAI導入、期待を大きく下回る

B2B suppliers' agentic AI adoption is slower than many executives assume, according to research from Deloitte Digital.
www.digitalcommerce360.com2026年2月17日、コンサルティング大手Deloitteのデジタル部門であるDeloitte Digitalが、B2Bコマースにおけるデジタル成熟度とAI導入に関する大規模調査の結果を公開しました。米国のB2Bサプライヤー530社とB2Bバイヤー530社を対象に、2025年8月から9月にかけて実施されたものです。
調査の結果、B2Bサプライヤーの45%がセールスにAIを活用している一方、エージェンティックコマースの中核技術であるエージェンティックAI(自律的に判断・行動するAIエージェント)の導入率はわずか24%にとどまりました。Deloitte Digitalのマネージングディレクター Paul do Forno氏は、この数字について「期待を下回ったが、B2Bが常に新技術導入で遅れてきた歴史を考えれば驚きではない」と述べています。
業界動向
エージェンティックAIはコマース領域で急速に注目を集めています。AIエージェントが商品検索、価格交渉、発注、在庫管理といった業務プロセスを自律的に遂行する技術であり、SalesforceやAdobe、Mastercardなど大手各社が対応製品やサービスを相次ぎ投入しています。
Forresterの2026年予測では、B2B取引の3分の1がAIエージェントによる請求・照合・支出管理を含むものになり、B2B売り手の5社に1社がバイヤー側AIエージェントからの値引き交渉に対応を迫られると予測しています。バイヤー側はすでに動き出しているのです。
実際にDeloitteの調査でも、バイヤー側のAI導入はサプライヤーを大きくリードしています。B2Bバイヤーの61%が購買にAIを活用し、38%がエージェンティックAIを使用していると回答しました。サプライヤー側の24%との差は14ポイントに上ります。この「買い手と売り手のデジタルギャップ」は、商取引全体の効率を低下させる構造的な問題です。
ERP刷新がAI導入を阻む構造的ボトルネック
今回の調査で浮き彫りになった最大の課題は、ERP(基幹業務システム)の刷新がAI投資のリソースを食い潰しているという現実です。
Deloitteの調査によると、87%のサプライヤーがERPシステムの刷新中、または直近1年以内に着手予定と回答しています。Do Forno氏は「これらのアップグレードは数百万ドル規模で、企業の全プロセスに影響する」と指摘しました。
背景にはSAPのECC(旧型ERP)のサポート終了が2027年に迫っている事情があります。Computer Weeklyの報道によれば、SAP S/4HANAへの移行は12〜24カ月以上を要し、コンサルティング費用は2026〜27年に30〜50%上昇すると見込まれています。年商5億ドル規模の化学メーカーを例に挙げたDo Forno氏は「IT部門が少ない中、20年に一度のERP刷新のさなかにいる。AIに手が回らないのが実情だ」と語りました。
つまり問題の本質は、AIへの関心がないのではなく、限られたIT人材と予算がERP刷新に吸い上げられ、エージェンティックAIまでリソースが届かない「構造的なボトルネック」にあるということです。実際、エージェンティックAIを未導入のサプライヤーの約3分の2が「今後導入する計画がある」と回答しており、導入意欲自体は高いことがわかります。
デジタル成熟度の高い企業が圧倒的な成果を上げている
一方で、すでにデジタル変革を進めた企業は明確な成果を挙げています。Deloitteが「デジタル成熟度が高い」と分類したサプライヤーは、年間売上目標を低成熟度の競合より110%上回る水準で達成しました。高成熟度企業の平均売上成長率は6.1%、低成熟度企業は2.9%です。
さらに、高成熟度サプライヤーはAIを本格活用している確率が低成熟度企業の5倍、エージェンティックAIの導入率も5倍でした。デジタル化の先行者が「デジタル投資 → AI活用 → 売上成長」という好循環を生み出し、遅れた企業との差が拡大していく構図が鮮明です。
現在サプライヤーがAIを活用している領域は、サービスコスト削減のためのチャットボット、リード優先順位付け、アカウント調査、提案書の自動生成、需要予測などの実務的なユースケースが中心です。
EC事業者への影響と活用法
Deloitteの調査は、EC事業者、特にB2B領域で事業を展開する企業に対して明確なメッセージを発しています。
ERP刷新とAI戦略を分離して考えないこと。 ERPの刷新を「AIの前提条件」としてしまうと、数年間のAI空白期間が生まれます。Deloitteの調査でフロントオフィスとバックオフィスの統合を完了した企業は、売上目標の超過幅が未統合企業の約2倍でした。ERP刷新のプロセスにAI導入の設計を組み込むことが重要です。
バイヤー側のAI活用加速に備えること。 MITとケンブリッジ大学の研究者が公開した2025 AI Agent Indexは、AIエージェントがブラウザ操作や企業ソフトウェア上で自律的にアクションを実行し始めていると報告しています。バイヤー側のAI導入率がサプライヤーを上回っている現状を踏まえると、AIエージェントからの見積り依頼や発注に対応できない企業は商機を逃すリスクがあります。
小さなAI投資から始めること。 大規模なエージェンティックAI基盤の構築は不要です。サービス対応のチャットボット、見積り自動生成、リードスコアリングなど、ROIが見えやすい領域から着手し、成功体験を積むことが現実的なアプローチです。サプライヤーの62%が「テクノロジー投資の予算確保」を最大の課題に挙げている以上、小さな成果で経営層の投資判断を後押しする戦略が求められます。
まとめ
Deloitte Digitalの調査は、B2BサプライヤーのエージェンティックAI導入が「意志の問題」ではなく「リソースの問題」で遅れているという実態を数字で示しました。87%がERP刷新に追われ、62%が予算確保に苦しむ中、バイヤー側はすでにAI活用を進めており、対応の遅れは売上機会の損失に直結します。
注目すべきは、デジタル成熟度と業績の相関が極めて明確だったことです。今後のポイントは、ERP刷新を「AIの障壁」ではなく「AI統合の好機」と捉え直せるかどうかにあります。Forresterが予測する「AIエージェント同士が取引を行う世界」は目前に迫っており、B2Bサプライヤーにとって残された準備期間は決して長くありません。




