この記事のポイント
- DoorDashとUberがGoogle Geminiアプリ上でAIエージェントによる自動注文機能のベータテストを開始
- AIが複数ステップの操作を自律的に実行する「真のエージェンティック体験」が消費者向けに初めて実現
- フードデリバリー・食品ECにおけるAIエージェント対応が、プラットフォーム選定の新たな競争軸に
Google Geminiが実現する「おまかせ注文」の衝撃

DoorDash is among the first to test a new agentic ordering experience in Google Gemini, alongside Uber and other similar companies.
www.retailtouchpoints.com2026年3月3日、Retail TouchPointsが報じたところによると、DoorDash、Uber、Grubhubなどのフードデリバリー・配車大手が、GoogleのGeminiアプリ上でマルチステップタスクの自動化機能をテストしています。
ユーザーは電源ボタンを長押ししてGeminiを起動し、「前回の食事をDoorDashで再注文して」「自宅までの配車を予約して」と話しかけるだけで、AIエージェントがアプリ内の複数の操作を自律的に実行します。対応デバイスはPixel 10、Pixel 10 Pro、Samsung Galaxy S26シリーズで、米国と韓国で先行提供されます。
これまで「エージェンティックコマース」という言葉は業界で頻繁に使われてきましたが、AIが注文プロセスの複数ステップをユーザーの介入なしに実行する「真のエージェンティック体験」は、ようやく消費者の手元に届き始めたと言えます。
背景と業界動向
フードデリバリーおよび食品EC領域では、AIエージェントの導入競争が急速に加速しています。
DoorDashは2025年12月にChatGPT内でのグロサリーショッピング機能をOpenAIと共同で開始しました。ユーザーがChatGPTにレシピを相談すると、必要な食材がDoorDashの買い物リストに変換され、近隣店舗から最短1時間で配達されます。KrogerやSafewayなど全国チェーンが参加しています。
さらにDoorDashは、AIを活用したレストラン発見アプリ「Zesty」もサンフランシスコとニューヨークでテスト中です。DoorDash、Google Maps、TikTokなどの情報を横断的に集約し、パーソナライズされたレストラン提案を行います。
一方、Uber Eatsも2026年2月にAIカートアシスタントを米国で開始しました。テキストや写真(手書きの買い物リストやレシピのスクリーンショットを含む)からグロサリーの買い物カートを自動作成する機能です。Instacartも2024年11月に同様のカートアシスタントを先行投入しており、AIによる食品購買の自動化は業界全体のトレンドとなっています。
Geminiエージェントの技術的仕組みとセキュリティ設計
今回のGemini自動化機能で注目すべきは、その技術アーキテクチャです。9to5Googleの報道によると、Geminiはデバイス上の「セキュアな仮想ウィンドウ」内で対象アプリを起動し、操作を実行します。
具体的な仕組みは以下の通りです。
- Geminiがアプリをバックグラウンドの仮想環境で起動し、スクロール、タップ、テキスト入力を自動実行
- 仮想ウィンドウ内の画面処理はクラウド上で行われる
- Geminiはデバイス全体にはアクセスできず、対象アプリのみに限定される
- ユーザーはリアルタイム通知でGeminiの進行状況を監視し、いつでも介入・停止が可能
特に重要なセキュリティ上の設計として、「最終的な注文確定ボタンはユーザー自身がタップする」というルールが設けられています。Geminiがメニュー選択、住所入力、配車タイプの設定などを自動化した後、最後の購入・注文ボタンだけはユーザーに委ねられます。これにより、誤発注のリスクを抑えつつ、面倒な中間ステップを省略するバランスが実現されています。
Chain Store Ageの報道では、DoorDashの広報担当者が「GeminiとのDoorDash統合は、消費者・加盟店・ダッシャー(配達員)にとって最も価値のある場所にAIを組み込む取り組みの一環」とコメントしています。
他のAIコマース連携との違い
今回のGemini統合が従来のAIコマース連携と大きく異なる点は、「アプリ操作そのものの自動化」にあります。
DoorDashのChatGPT連携は、会話を通じてレシピから食材リストを生成し、DoorDashアプリに引き渡すという「対話型コマース」でした。ユーザーはChatGPTとの会話の中で商品を選び、最終的にDoorDashアプリで注文を完了する必要があります。
一方、Geminiの自動化機能は、アプリのUI操作そのものをAIが代行します。ユーザーはGeminiに一言指示を出すだけで、アプリの起動からメニュー選択、住所入力、カート作成までの一連の操作がバックグラウンドで完了します。これは「対話型」から「自律実行型」への明確なステップアップです。
韓国ではBaemin(配達の民族)やKakao Tなどのローカルアプリにも対応予定で、グローバル展開を見据えた設計となっています。Galaxy S26シリーズの発売日である3月11日から利用可能になり、Pixel 10シリーズにも3月中に順次展開される予定です。
EC事業者への影響と活用法
今回のGemini自動化機能は、フードデリバリーや食品EC事業者に対して以下の示唆を与えます。
AIエージェント経由の注文チャネルへの対応が急務です。 DoorDash、Uber、Grubhubがいち早くGeminiの自動化パートナーに選ばれたことは、AIプラットフォームとの連携がユーザー獲得の新たな競争軸になることを示しています。Googleは今後、対応カテゴリーを食品・グロサリー・配車以外にも拡大する方針を明らかにしており、小売EC全般への波及は時間の問題です。
リピート注文の最適化が鍵となります。 Geminiの初期ユースケースは「前回の食事を再注文」「いつものグロサリーカートを作成」といったリピート系タスクが中心です。ユーザーの注文履歴データの充実度が、AIエージェント経由での再注文率を左右します。過去の注文データを構造化し、パーソナライゼーションの精度を高めておくことが重要です。
アプリUIの「エージェント対応」も求められます。 GeminiはアプリのUIを視覚的に認識して操作を行うため、一貫性のあるUI設計、明確なラベル付け、安定したナビゲーション構造がAIエージェントの操作精度を高めます。将来的には、AIエージェント向けのAPI連携やアプリ内構造化データの提供も重要になるでしょう。
まとめ
GoogleのGeminiによるマルチステップタスク自動化は、エージェンティックコマースが概念から実装フェーズに移行したことを象徴する動きです。DoorDash、Uber、Grubhubといったフードデリバリー大手がいち早くパートナーに名を連ねたことで、AIエージェントが消費者の日常的な購買行動を代行する時代が現実のものとなりつつあります。
Googleは2026年を通じてこの自動化機能を拡充し、対応アプリやタスクの種類を増やしていく方針です。EC事業者にとっては、AIエージェントからの注文を受け入れるための技術的・運用的な準備を今から進めることが、次の競争優位につながります。




