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2026年3月2日

Netcoreが「エージェンティックコマースはECの新しいOS」と提言 ── 2026年を定義する6つの構造的シフトとは

目次
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この記事のポイント

  1. Netcore Cloudが「Agentic Commerce Shift Report 2026」を公開、EC成長を左右する6つの実行シフトを特定
  2. 2025年にAI導入が加速したものの、予算やツールではなく「実行の仕組み」を変えたブランドだけが成果を出した
  3. EC事業者はキャンペーン主導型から常時稼働型のAIエージェント実行モデルへの移行を検討すべき

Netcore Cloudがエージェンティックコマースの包括レポートを発表

インドのマーテックプラットフォーム大手Netcore Cloudが、2026年2月26日に「Agentic Commerce Shift Report 2026」を発表しました。Walmart、Unilever、Tommy Hilfiger、Crocs、McDonald'sなど6,500以上のブランドを顧客に持つ同社が、大手小売企業やD2Cブランドの実績パターンから導き出したレポートです。

レポートの核心メッセージは明確です。2025年はAI導入が急加速した年でしたが、予算を増やしツールを追加しただけのブランドでは成果が伴いませんでした。成果を出したのは「実行の仕組み」そのものを再設計したブランドだけだったと分析しています。

背景と業界動向

エージェンティックコマースへの注目は、2025年後半から急速に高まっています。Gartnerの予測では、2030年までにAIエージェントがEC取引の20%に影響を及ぼし、2028年には33%の企業がエージェンティックAIを採用するとされています。また同じくGartnerは、マルチエージェントシステム関連の問い合わせが2024年から2025年にかけて1,445%急増したと報告しています。

一方、Anthropicの2025年調査では、マルチエージェントシステムが単一エージェント構成を複雑なタスクで90.2%上回るという結果が出ています。Forresterの同年の調査でも56%の企業がマルチエージェント採用後にスケーラビリティが改善したと回答しました。

こうした環境の中で、Walmartは2025年にエージェンティックAI戦略を本格始動させています。同社は特定タスクに特化したエージェントを複数構築し、それらを「スーパーエージェント」として連携させるアプローチを採用しました。開発者向けのエージェント統合ツール「Wibey」は200以上のエージェントを一元管理し、顧客向けにはAIショッピングアシスタント「Sparky」を展開しています。

Netcoreのレポートは、こうした先進事例を体系的に整理し、EC業界全体に適用可能な「構造的シフト」として抽出した点に価値があります。

レポートが特定した6つの構造的シフト

Netcoreのレポートが示す6つのシフトは、EC業界のリーダーと出遅れ組の間でパフォーマンスが大きく分かれている理由を説明しています。

シフト1:赤字ECは「ツールの問題」ではなく「システムの問題」。 AIのコパイロット機能を増やしても収益性は改善しません。バラバラのツールを少数の統制されたAIエージェントに統合し、共有データと利益指標に紐づく明確なオーナーシップを持たせたブランドが成果を出しています。Walmartの初期実験から得られた教訓でもあります。

シフト2:ECの最大の漏れは「チェックアウト」ではなく「ディスカバリー」。 従来のEC最適化はカート離脱率の改善に注力してきましたが、実際には商品が「見つかる前」に最大の売上機会が失われています。業務用厨房機器を扱うRestaurant Equippersは、検索・ディスカバリーを会話型AIに転換し、1分以内に顧客の意図を理解するガイド付き体験を構築しました。広告費を増やさずにカート追加率とコンバージョンの改善に成功しています。

シフト3:生鮮値引きが「利益の流出」から「利益のレバー」に転換。 賞味期限の短いカテゴリーでは、需要変動よりも人手による値引き判断のほうがマージン侵食の原因でした。英国の大手スーパーMorrisonsは、人手の値引きラウンドをAIによる店舗レベルの意思決定ループに置き換え、価格設定を予測可能で管理可能な利益エンジンに変革しています。

シフト4:言語は「ローカライゼーション」から「インフラ」に格上げ。 インドのソーシャルコマース大手Meeshoは現地語とボイスファーストのカスタマージャーニーを、閲覧・決済・サポートの全レイヤーに導入しました。Tier II以下の都市に住む初回利用者のコンバージョンを引き上げ、同時にサービス提供コストの削減も実現しています。2025年にMeeshoの売上の87%がインド上位8都市以外から生まれている事実は、言語対応がオペレーションの基盤になりうることを示しています。

シフト5:「ショッピングミッション」がチャネルよりも行動を正確に説明する。 チャネル別のレポーティングでは、ロイヤルティや客単価の真の要因が見えません。「まとめ買い」「補充」「急ぎ」といったショッピングミッション単位で戦略を組み立てることで、品揃え・価格設定・ジャーニーをより的確に最適化できます。チャネルは計画の起点ではなく、実行のレイヤーとして位置づけるべきだとレポートは指摘しています。

シフト6:常時稼働型ジャーニーがキャンペーンカレンダーを静かに上回る。 キャンペーンは可視性と測定しやすさで優れています。しかしレポートによると、最大の増分利益はキャンペーンの「間」に発生するリアルタイムの購買意図への対応から生まれています。Fabindia、Crocs、Andamenなどのブランドは、閲覧・カート・離脱のすべてを「回収可能な価値」として扱うAIドリブンのトリガージャーニーを構築し、メッセージ量を増やさずにキャンペーン主導型を上回る成果を出しています。

EC事業者への影響と活用法

Netcoreのレポートが投げかける最大の問いは「実行を変えたか」です。6つのシフトは、個別のAI機能の導入ではなく、EC運営の「オペレーティングシステム」そのものの再設計を求めています。

まずディスカバリー体験を見直してください。 検索結果ページの改善だけでなく、顧客の意図を会話的に理解し、能動的に適切な商品を提案する仕組みへの転換が必要です。これは必ずしも大規模投資を意味しません。Restaurant Equippersの事例が示すように、広告費を増やさずとも実行の仕組みを変えることで成果は改善します。

キャンペーン偏重の運用モデルを見直してください。 キャンペーンのない「空白期間」にこそ、閲覧・カート放棄・離脱といったシグナルに自動対応するトリガーベースのジャーニーを稼働させるべきです。Netcoreの創業者Rajesh Jain氏はMarTechCubeの取材に対し、2026年はAIが成果を出すことを証明する年になると述べています。

AIエージェントの統制モデルを設計してください。 バラバラのAIツールを増やすのではなく、共有コンテキストと利益指標に紐づく少数のAIエージェントに統合する方向を検討すべきです。Walmartが200以上のエージェントを統合管理するプラットフォームを構築した背景には、エージェントの統制なくして成果は出ないという実証知見があります。

まとめ

Netcoreの「Agentic Commerce Shift Report 2026」は、2025年にEC業界が経験した「AI導入したのに成果が出ない」というギャップの原因を、技術力やツール数の不足ではなく「実行アーキテクチャの欠陥」に求めた点で価値があります。レポート全文はNetcore Cloud公式サイトで公開されています。

2026年のEC業界は、AIエージェントの導入フェーズから「AIエージェントで成果を出す」フェーズに移行します。その成否を分けるのは、キャンペーンの量やツールの数ではなく、常時稼働する実行システムの構築です。まずは自社のEC運営において、6つのシフトのうちどこに最大のギャップがあるかを点検することから始めてみてはいかがでしょうか。