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2026年2月5日

OpenAI vs. Google――エージェンティック購買の覇権を握るのはどちらか? ACPとUCP、2つのプロトコルが描くコマースの未来

目次
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この記事のポイント

  1. OpenAI+Stripeの「ACP」とGoogle+Shopifyの「UCP」が、AIエージェントによる購買体験の基盤として競合している
  2. ACPは会話ベースの購買に特化し、UCPは検索・発見からアフターサポートまでの全購買ジャーニーをカバー
  3. EC事業者は両方への対応が必要であり、構造化された商品データの整備とAEO(エージェント最適化)が急務

OpenAIとGoogle、エージェンティックコマースの「標準」を巡る競争が本格化

2026年2月4日、CMSWireにてPerficient社のプリンシパル・ストラテジストであるJustin Racine氏が「OpenAI vs. Google: Two Visions for the Future of Agentic Commerce」と題した分析記事を公開しました。AIエージェントが消費者の代わりに商品を発見・比較・購入する「エージェンティックコマース」の未来を巡り、OpenAI陣営のACPとGoogle陣営のUCPが、それぞれ異なるアプローチで業界標準の座を争っている現状を詳細に分析しています。

業界動向

エージェンティックコマースとは、AIエージェントが人間の意図を理解し、商品の検索・比較・購入までを自律的に実行する新しい購買モデルです。この概念が急速に具体化した背景には、2025年後半から2026年初頭にかけて立て続けに発表されたプロトコルの存在があります。

2025年9月、OpenAIはChatGPTに「Instant Checkout」機能を導入し、Stripeと共同開発したACPを公開しました。週7億人以上が利用するChatGPT上で、会話の中から直接商品を購入できるこの機能は、まずEtsyの米国セラーからスタートし、GlossierやSKIMSなど100万以上のShopifyマーチャントへの拡大が進んでいます。同年10月にはPayPalもACPへの対応を発表し、11月にはCheckout.comもエンタープライズ向けにACP対応を表明するなど、決済エコシステムが急速に拡大しています。

一方、2026年1月11日、GoogleはNRF(全米小売業協会)の年次カンファレンスでUCPを正式に発表しました。Shopify、Etsy、Wayfair、Target、Walmartと共同開発され、Adyen、American Express、Mastercard、Visa、Stripeなど20社以上がパートナーとして名を連ねています。Google CEOのSundar Pichai氏は「AIエージェントは、そう遠くない未来にショッピングの大きな部分を担うようになる」と述べています。

ACP vs. UCP――2つのプロトコルの根本的な違い

ACP:「会話から購買へ」

ACPは、Stripeが公式ブログで詳述している通り、AIエージェントと事業者間のプログラマティックな商取引フローを可能にするオープン標準です。その核心は「会話の中で購買を完結させる」ことにあります。

ユーザーがChatGPTに「予算1万円以内のランニングシューズを探して」と話しかけると、エージェントがフォローアップの質問をしながら選択肢を絞り込み、最適な商品を提案します。購入決定後はチャット画面上で数タップで決済が完了します。商品の検索結果はオーガニックかつスポンサーなしで、純粋な関連性でランキングされる点が特徴です。

技術的には、Apache 2.0ライセンスのオープンソースで公開されており、既存の決済インフラとの連携が容易です。Stripeを利用している事業者であれば、わずか1行のコード変更でエージェンティック決済を有効化できます。ACPの仕様は継続的に進化しており、2025年9月の初回リリース以降、フルフィルメント強化(12月)、機能ネゴシエーション(2026年1月)、エクステンション・割引・決済ハンドラ(同年1月)と、頻繁にアップデートされています。

UCP:「発見から購買へ」

UCPは、商品の発見からチェックアウト、アフターサポートまでの購買ジャーニー全体をカバーする、より広範なプロトコルです。Google公式ブログによると、UCPはAgent2Agent(A2A)、Agent Payments Protocol(AP2)、Model Context Protocol(MCP)といった既存のプロトコルとの互換性を持ちます。

注目すべきは、UCP上で展開される新機能群です。「Business Agent」は、小売業者がGoogle検索上でブランド独自のAIチャットエージェントを公開できる機能で、Lowe'sやMichael's、Poshmarkなどが先行ローンチしています。さらに「Direct Offers」は、AI Modeでの検索結果に小売業者が限定ディスカウントを表示できる広告パイロットで、PetcoやSamsoniteなどが参加しています。

Shopify CEO Tobi Lutke氏はXで「ShopifyはUCPを共同開発し、エージェンティックコマースの基盤を構築している。オープンバイデフォルトであり、プラットフォームやエージェントは即座に取引を開始できる」と投稿しています。ShopifyマーチャントはGoogle AI ModeやGeminiアプリでの直接販売が可能になり、Microsoft Copilotとの統合もアップデートされました。

比較表

「第三の巨人」Amazonの不在と業界への影響

CMSWireの記事でRacine氏が指摘している通り、Amazonは現在ACPにもUCPにも参加していません。GeekWireの調査報道によると、AmazonはAIクローラーをブロックし、6億件の商品リストをAI検索結果から除外しています。その結果、ChatGPTからAmazonへのリファラルトラフィックは月間18%減少し、3%未満に落ち込みました。

Amazon CEOのAndy Jassy氏は直近の決算説明会で、エージェンティックコマースが「Eコマースにとって非常に良い可能性がある」と認めつつも、現在のエージェントは「パーソナライゼーションが得意ではなく、価格や配送の見積もりが不正確なことが多い」と指摘しています。

対照的に、Walmartは両方のプロトコルを積極的に採用し、ChatGPT Instant CheckoutとGemini統合の両方に対応しています。GeekWireによると、WalmartへのChatGPTからのリファラルトラフィックは7月比で15%増加し、全体の20%を占めるまでに成長しています。

ただし、ForresterのプリンシパルアナリストであるEmily Pfeiffer氏は「まだ非常に初期段階であり、体験は貧弱で、普及率は非常に低い」と慎重な見方を示しています。独立系アナリストのJuozas Kaziukenas氏も、OpenAIの自社調査でChatGPTのショッピング結果の関連性がわずか37%であることを指摘し、「驚くほど低い」と評価しています。

EC事業者への影響と活用法

Racine氏は記事の中で「Big C Commerce」という概念を提唱しています。これは、特定のチャネルやデバイスに縛られず、あらゆる顧客タッチポイントで一貫した購買体験を提供する思想です。エージェンティックコマース時代において、EC事業者は以下の対応が求められます。

  1. 二重プロトコル戦略の構築 ACP向けにはエージェントとの直接連携統合を、UCP向けにはGoogle Merchant Centerへの構造化データ登録を並行して進める必要があります。ShopifyマーチャントであればAgentic Storefrontsの管理画面から一元的に管理可能ですが、それ以外のプラットフォームでは個別の対応が必要です。

  2. SEOからAEO(Agentic Engine Optimization)への転換 GoogleがMerchant Centerに導入する新しいデータ属性は、従来のキーワードを超えて「よくある商品質問への回答」「互換アクセサリー」「代替品情報」などを含みます。AIエージェントに選ばれるために、商品データの品質と網羅性がこれまで以上に重要になります。

  3. ポスト購買体験の強化 両プロトコルとも、事業者が「マーチャント・オブ・レコード(販売者としての主体)」を維持する設計です。フルフィルメント、返品、カスタマーサポートの品質が、エージェントによる次回の推薦に直結します。

  4. 決済インフラの対応 Stripeを利用中であればACPへの対応は最小限のコード変更で済みます。UCPはGoogle Payを初期の決済手段として採用し、PayPal対応も予定されています。複数の決済プロバイダーへの対応準備が推奨されます。

まとめ

OpenAIのACPが「ランボルギーニのディーラーで、販売スタッフとの対話を通じて最適な一台を見つける体験」だとすれば、GoogleのUCPは「Targetの店舗で、店員に商品の場所を尋ねる体験」に近い――Racine氏はこう例えています。どちらも「購買」という同じゴールに向かっていますが、想定する意図の深さと複雑さが異なります。

Checkout.comの調査によれば、今後5年以内にエージェンティックコマースが月間家計支出の21%を占める可能性があるとされています。EC事業者にとって、ACP・UCPの両方に対応する二重戦略は避けられないコストではなく、次世代の顧客接点を確保するための投資と捉えるべきでしょう。エージェンティックコマースのレースは始まったばかりですが、スタートラインに立っていない事業者は、すでに遅れをとりつつあります。