この記事のポイント
- TikTok Shopにおける大手ブランド(年商3,000万ドル以上)の売上が前年比97%増を記録
- ソーシャルコマースが「安売りプラットフォーム」から本格的な小売チャネルへ転換
- EC事業者はクリエイターアフィリエイト戦略とTikTok Shop専任体制の構築を検討すべき
大手ブランドのTikTok Shop売上が前年比97%増

TikTok Shop logged more than 103 billion U.S. searches with e-commerce intent in 2025 as the platform attracts bigger players.
www.modernretail.coModern Retailの報道によると、TikTok Shopにおける「主要ブランド」(年商3,000万ドル以上の企業)の売上が、2025年に前年比97%増とほぼ倍増しました。プラットフォーム全体の取引量も前年比約80%増加し、EC目的の米国内検索は1,030億回を超えています。
Ulta BeautyやSally Beautyといった大手マルチブランドリテーラーが相次いでTikTok Shopへの出店を発表したほか、Samsung、Ralph Lauren、Disneyなどの有名ブランドも2025年中にプラットフォームに参入しました。TikTok Shopの戦略イニシアティブ責任者であるPatrick Nommensen氏は、「6桁(10万ドル)以上の売上を生み出すクリエイターが16,000人を超えた」と述べ、エコシステムの成熟を強調しています。
背景と業界動向
TikTok Shopが米国でローンチしたのは2023年9月です。当初は大幅な補助金で低価格商品を集客し、「安売りプラットフォーム」というイメージが定着していました。しかし、この2年間で状況は大きく変わっています。
EC情報分析企業Charmの調査によると、TikTok Shopの平均販売単価は主要カテゴリで軒並み上昇しています。Modern Retailが報じたデータでは、フットウェアカテゴリの平均単価は2024年4月〜10月の14.06ドルから、2025年同期間には28.64ドルへと103%上昇しました。スポーツ・アウトドア用品は54%、バッグ・ラゲージは43%、ファッションアクセサリーは42%の上昇です。Charmの CEO Alex Nisenzon氏は「確立されたブランドが増えれば、そのカテゴリ全体の価格が上がる」と分析しています。
一方で、2023年に浮上した米国でのTikTok禁止懸念は徐々に後退し、大手ブランドがプラットフォームへの投資をためらう要因が薄れてきました。規制リスクの低下と売上成長の実績が、大手ブランドの参入を加速させた格好です。
クリエイターエコノミーと大手ブランドの融合が加速
TikTok Shopの成長を支える最大の柱は、「クリエイターアフィリエイト」の仕組みです。TikTok Shopを通じてコミッションを得るクリエイター数は前年比146%増加しました。これは単なるインフルエンサーマーケティングではなく、販売成果に直結するアフィリエイト型の仕組みが機能していることを示しています。
大手ブランドはこのクリエイターネットワークを活用し、多角的なマーケティングを展開しています。Hershey'sは冬季オリンピックに合わせたゴールドメダルバーのプロモーションで、サイクリスト、育児ブロガー、パティシエといった異なるジャンルのクリエイターを起用し、多様なコミュニティへ同時リーチしました。
PepsiCoは2026年2月、クリエイター主導の新商品「Flavor Swaps」をTikTok Shopで初めてローンチしました。歌手のMadison Beer、配信者のiShowSpeed、スポーツエンタメグループのDude Perfectとコラボし、Gen Zをターゲットにしたスナック菓子をプラットフォーム限定で展開。これは食品・飲料大手がTikTok Shopをプロダクトローンチの場として活用する先駆的な事例です。
さらに注目すべきは、TikTok Shop専任の人材採用が進んでいる点です。SharkNinjaは「TikTok Shop Manager」ポジションに年収最大15万4,000ドルを提示。Kenvue(Neutrogena、Aveeno等を展開するJ&J系企業)もソーシャルコマースマネージャーを募集しています。10年前にAmazonマーケットプレイス専門チームが各社に生まれたのと同じ流れが、TikTok Shopでも起きています。
マルチブランドリテーラーの参入が新たな転換点に
特に注目すべきは、マルチブランドリテーラーの参入です。Ulta BeautyのCEO Kecia Steelman氏は2026年3月の決算発表で、TikTok Shopへの出店を発表しました。まずはUlta限定ブランドを厳選して展開する方針で、「ソーシャルコマースとAI強化型コマースの両方で、Ulta Beautyの体験を届ける」と語っています。Ulta Beautyは同四半期で前年比11.8%の売上成長を記録しており、デジタルチャネル強化の一環としてTikTok Shopを位置づけています。
アパレルチェーンのPacsunも先行事例として存在感を示しています。Modern Retailによると、わずか5,000フォロワーのクリエイターの投稿をきっかけに48時間で11,000本のジーンズが売れ、2024年にはTikTok Shop経由で2,000万ドルの売上を達成しました。TikTok ShopはPacsunのECビジネスの10%を占めるまでに成長しています。
EC事業者への影響と活用法
TikTok Shopの急成長は、EC事業者にとって以下の実務的な示唆を持ちます。
クリエイターアフィリエイトの活用が必須に。 16,000人以上のクリエイターが6桁以上の売上を生み出すエコシステムが形成されています。自社商品に合ったクリエイターとのマッチングが、プラットフォームでの成功の鍵です。TikTok Shopのアフィリエイトプログラムに登録し、成果報酬型でクリエイターネットワークを構築することが第一歩となります。
専任体制の検討を。 SharkNinjaやKenvueが専任マネージャーを採用しているように、TikTok Shopは片手間で運用するチャネルではなくなっています。商品登録、クリエイター管理、ライブコマース運営を一元的に担う担当者の配置が差別化要因になります。
ショート動画が主戦場。 米国ではライブコマースよりもショート動画経由の購入が主流です。商品紹介動画の制作ノウハウを蓄積し、クリエイターへの素材提供体制を整えることが重要です。
価格戦略の見直しを。 平均販売単価の上昇は、TikTok Shopが「安かろう」の市場ではなくなっていることを意味します。適正価格での出品がブランド価値を毀損しない形で可能になっています。
まとめ
TikTok Shopは米国ローンチからわずか2年半で、大手ブランドが本格参入する小売チャネルへと進化しました。主要ブランド売上の97%増、取引量の80%増、クリエイター数の146%増という数字は、プラットフォームが「実験的なチャネル」から「事業計画に組み込むべきチャネル」へ移行したことを示しています。
今後の注目ポイントは、Ulta Beautyをはじめとするマルチブランドリテーラーの出店がもたらすプラットフォームの変化です。品揃えの拡充と顧客体験の向上が進めば、TikTok ShopはAmazonに次ぐ米国ECマーケットプレイスとしてのポジションを固める可能性があります。ソーシャルコマースへの対応は、もはや「検討」ではなく「実行」のフェーズに入っています。




