この記事のポイント
- Twitch/Amazon幹部Sarah Iooss氏が米国ライブコマース成功の条件を提示
- 機能やUIではなく「クリエイターと視聴者の信頼関係」が購買を左右する
- EC事業者はコミュニティ構築とクリエイター連携を戦略の中核に据えるべき
Twitchが示す「ライブコマース×信頼」の方程式
While live shopping has long dominated Asian markets, its adoption in the United States has hinged less on functionality and more on the depth of viewer connection.
www.beet.tv2026年2月15日、Beet.TVのインタビューにおいて、AmazonのGlobal Agency & Global Twitch Ads部門ディレクターであるSarah Iooss氏が、米国のライブコマース市場について見解を示しました。Iooss氏の主張は明確です。アジアで年間1兆ドル規模にまで成長したライブショッピングを米国で普及させるには、「機能」よりも「信頼される声(Trusted Voices)」が決定的に重要だという点です。
この発言は、Twitchが2025年10月にAmazon Ads連携のショッパブル機能をローンチした流れの中で出てきたものです。コマース機能の整備が進む一方で、それを活かすための「人」の要素こそが本質的な課題であることを、プラットフォーム側の当事者が認めた格好になります。
業界動向
米国のライブコマース市場は急成長フェーズにあります。eMarketerの分析によれば、米国のライブストリームEC売上は2025年に前年比約50%増加し、2026年には350億ドルに達する見通しです。しかし、この数字は中国市場と比較すると桁違いに小さいのが現実です。
中国ではライブコマース市場が2026年に1.14兆ドルに達すると予測されており、EC全体の約20%をライブコマースが占めています。Douyinだけで年間GMVが3,750億ドル、Taobao Liveが5,500億ドルという規模です。一方、米国ではライブストリーム経由で購入した経験があるのは消費者のわずか12%にとどまります。
この差は機能面の問題ではありません。TikTok Shop、Amazon Live、YouTube Shoppingなど、米国でもプラットフォーム側のインフラは急速に整備されています。TikTok Shopは2026年に米国で200億ドル超のGMVを見込み、ソーシャルコマースの約20%を占める存在に成長しています。それでも中国との差が埋まらない最大の要因が、まさにIooss氏が指摘する「信頼のエコシステム」の成熟度なのです。
「パッションポイント」から購買へ -- Twitchの独自戦略
Iooss氏は、Twitchの強みを「パッションポイント(情熱の交差点)を中心にコミュニティが形成される場」と表現しています。ストリーマーが何時間にもわたって配信を行い、視聴者との間にラポール(信頼関係)を構築する。その結果、ストリーマーは視聴者にとっての「信頼される声」に変わるという構造です。
この関係性をコマースに転換するため、Amazonは具体的な仕組みを構築してきました。「Twitchのストリームから直接購入が完結するツールを開発した」とIooss氏は語っています。2025年10月には、e.l.f. Cosmeticsが最初のパートナーとして、Twitchのストリーム内ショッパブル機能をローンチしました。視聴者がストリームを離れることなく商品を購入できるこの仕組みは、「視聴体験を中断しない」という設計思想に基づいています。
さらにAmazonは、Amazon LiveのショッパブルストリームをPrime VideoやFreeveeにも拡大しています。ゲーム実況だけでなく、より広いエンターテインメント領域でも「ストリーム内購買」を実現する戦略です。Iooss氏はこれらのシグナル統合が「アカウンタビリティと効果の向上に不可欠」だと述べています。
注目すべきは、Iooss氏がマーケティングファネルの概念自体に疑問を呈している点です。「ファネルはもはや正しいメタファーではない。購買の意思決定はどこからでも生まれうる」と指摘し、Amazon Marketing Cloudを活用した計測の必要性を強調しました。ライブコマースにおいては、認知・検討・購入の境界が溶解しており、従来の線形的なファネルモデルでは効果を正しく捉えられないという認識です。
EC事業者への影響と活用法
Iooss氏の発言とライブコマース市場の動向は、EC事業者に対して明確な示唆を与えています。
コミュニティ・ファーストの設計が不可欠です。 ライブコマースのコンバージョン率は最大30%に達し、通常のECを大きく上回ります。しかしこの数字は、視聴者と配信者の間に信頼関係が存在する場合に限られます。単に配信機能を導入するだけでは成果は出ません。
マイクロインフルエンサーの活用が鍵を握ります。 調査によれば、消費者の69%がインフルエンサーの推薦をブランドからの直接情報より信頼するとされています。特にフォロワー数の少ないマイクロ・ナノクリエイターほど、エンゲージメントとコンバージョン効率で大型インフルエンサーを上回る傾向があります。規模よりも「信頼の密度」を重視したクリエイター選定が重要です。
プラットフォーム選択は多層的に行うべきです。 Twitchはゲーマーやホビー領域に強く、TikTok Shopは幅広い消費財に適しています。Amazon Liveはリテールデータとの連携という独自の強みがあります。自社の商材とターゲット層に合致するプラットフォームを選び、段階的に展開するアプローチが現実的です。
計測モデルの再構築が必要です。 Iooss氏が指摘するように、ライブコマースでは従来のファネル型計測が機能しません。上位ファネルのブランド体験が購買にどう結びつくかを追跡するため、Amazon Marketing Cloudのような統合的な計測ツールの活用を検討すべきです。
まとめ
米国のライブコマース市場は、インフラ整備のフェーズから「信頼構築」のフェーズへと移行しています。Twitch、TikTok Shop、Amazon Liveといったプラットフォームの機能は急速に充実していますが、それだけでは中国のような爆発的普及には至りません。
Iooss氏の言葉を借りれば、ライブストリームの視聴者は「コミュニティに能動的に参加している」存在です。受動的にコンテンツを消費するテレビ視聴者とは根本的に異なります。この能動性と信頼関係の上に商品を提示することで、高いコンバージョンが生まれます。
EC事業者にとって次に注目すべきポイントは、2026年後半にかけてのAmazonのライブコマース機能拡充の動向と、TikTok Shopが2026年に米国ソーシャルバイヤーの過半数を占めるとされるマイルストーンの実現状況です。「誰が語るか」が「何を売るか」と同等以上に重要になる時代に向け、クリエイターとの関係構築を今から戦略に組み込むことが求められています。




