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2026年3月17日

台湾OEN Technology、AIコマースの「ラストマイル」決済インフラを構築 ── 信頼経済がエージェント時代の鍵を握る

目次
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この記事のポイント

  1. 台湾のOEN Technologyが、AIエージェント時代に不可欠な決済インフラの構築を推進
  2. GoogleのAP2やVisaのTAPなど大手が参入する中、信頼ベースの非商業取引に特化した独自ポジション
  3. EC事業者はAIエージェント決済への対応準備と、決済インフラ選定の見直しが必要に

台湾発スタートアップが見据える「決済のラストマイル」

AIエージェントが商品を検索し、比較し、最適な選択肢を提案する時代はすでに到来しています。しかし、その先にある「実際にお金を動かす」というステップには、依然として大きな課題が残されています。台湾のスタートアップOEN Technology(応援科技)は、まさにこの「ラストマイル」に焦点を当てた決済インフラの構築を進めています。

OEN Technologyは2020年、創業者のHsiao Hsin-cheng(蕭信澄)氏によって設立されました。Hsiao氏はニューヨークのスタートアップエコシステムで活動した元ソフトウェアエンジニアで、2018年に台湾へ帰国後、市議会議員選挙に出馬した経験を持ちます。その選挙活動を通じて、NPO、宗教団体、政治団体など「信頼」に基づく組織が、デジタル決済ツールを十分に持っていないという構造的なギャップを発見しました。

業界動向

エージェンティックコマースにおける決済インフラの整備は、2025年後半から急速に進んでいます。

2025年9月、Google Cloudが「Agent Payments Protocol(AP2)」を発表しました。AP2は、AIエージェントが安全に決済を開始するためのオープンプロトコルです。Adyen、American Express、Mastercard、PayPalなど60以上の企業が参画しており、Agent2Agent(A2A)プロトコルやModel Context Protocol(MCP)の拡張として機能します。AP2の中核には「Mandate(マンデート)」と呼ばれる暗号署名付きの改ざん防止デジタル契約があり、ユーザーの意図が明示的に承認されたことを追跡可能な形で記録します。

同年10月には、Visaが「Trusted Agent Protocol(TAP)」を発表しました。TAPはHTTP Message Signature標準をベースに構築され、マーチャントとAIエージェントの間で信頼を確立するフレームワークです。Visaは2026年のホリデーシーズンまでに数百万人の消費者がAIエージェントを通じて購買を完了すると予測しています。

このように、グローバルな決済大手がAIエージェント対応を急ぐ中、OEN Technologyは独自の角度からこの市場に参入しています。

「応援経済」という独自の立ち位置

OEN Technologyが他の決済プロバイダーと異なるのは、「応援経済(oen economy)」と呼ばれる非商業的な取引領域に特化している点です。「oen」は日本語の「応援」に由来し、寄付、政治献金、宗教団体への奉納など、対価を伴わない「信頼ベース」の取引を意味します。

Hsiao氏はTaiwan Business TOPICSの取材で、「ほとんどのソフトウェアは商業取引のために作られています。しかし、人々に大義や候補者、コミュニティへの支援を求める場合、取引の本質は根本的に異なります」と述べています。

5年間の成長を経て、OENのプラットフォームは決済処理、支援者管理、コンプライアンスツール、アウトリーチ機能を統合したシステムへと進化しました。現在、政治団体、NPO、宗教機関、大学の同窓会寄付キャンペーン、音楽フェスティバル、独立系アーティストなどが利用しています。高雄のMegaport Festivalのような大規模イベントでも複数年にわたって採用されています。

セキュリティとガバナンスへの投資も重視しており、PCI DSS Level 1、ISO 27001、ISO 27701の認証を取得済みです。

AIエージェント時代に求められる決済の「信頼性」

AIエージェントが「何を買うか」「いつ買うか」「誰から買うか」を判断できるようになっても、台湾のような規制市場では法的にお金を動かすことはできません。Hsiao氏は「最終ステップには、現地規制の下で運営されるライセンスを持った決済事業者が必要です」と指摘しています。

この課題は、非商業取引においてさらに深刻です。「寄付の場合、支払いを正当化する市場取引が存在しません。規制の観点から見れば、コンプライアンスはさらに重要になります」とHsiao氏は説明しています。

GoogleのAP2が提供する「ユーザー意図の標準化された表現と検証」は、こうした高い透明性が求められる取引において特に重要です。政治献金や宗教的な奉納など、誤解が深刻な結果を招きかねない分野では、AIエージェントが「明示的に承認された」行動であることを証明する仕組みが不可欠だからです。

Hsiao氏は現在、台湾サードパーティ決済協会のイノベーション・セキュリティ委員会の委員長を務めており、AP2のようなプロトコルを実現可能にするため、民間セクター、規制当局、グローバルテクノロジー企業間の調整を進めています。

EC事業者への影響と活用法

AIエージェントによる決済は、EC事業者にとって無視できないトレンドになりつつあります。PYMNTS.comの報道によると、AIエージェント主導のコマースは実験段階から本格的な普及段階へ移行しています。エージェンティック経済は2030年までにグローバルで3兆〜5兆ドル規模に達するとの予測もあります。

EC事業者が今すぐ検討すべきポイントは以下の通りです。

決済インフラの見直し: AIエージェントが取引を開始する世界では、決済プロバイダーが対応するプロトコル(AP2、TAP等)が重要な選定基準になります。自社の決済パートナーがこれらの規格に対応しているか確認が必要です。

ボット対策との両立: Visaの調査では、AIによる小売サイトへのトラフィックが4,700%以上急増しています。正当なAIエージェント取引を悪意あるボットと区別する仕組みの整備が求められます。

非商業取引への視点: OENの事例は、EC以外の寄付やファンドレイジング領域でもAIエージェント決済のニーズが高まることを示しています。クラウドファンディングやサブスクリプション型の支援モデルを持つ事業者にとって、参考になる動きです。

まとめ

Hsiao氏は「スピードは重要ですが、安全性はもっと重要です。信頼ベースの経済において、慎重に進むことは弱さではなく、責任です」と述べています。

AIエージェントが自律的に行動する時代において、認可を受けた決済事業者は「置き換えられる中間業者」ではなく、自律性がアカウンタビリティ(説明責任)を損なわないことを保証する「必要不可欠なインフラ」です。台湾は強固な規制フレームワーク、成熟した決済エコシステム、高い信頼性と透明性を求めるユースケースを兼ね備えており、AIコマース次章のテストベッドとなる可能性を秘めています。

AIコマースの「ラストマイル」を誰が担うのか。この問いへの答えが、エージェント時代のコマースの形を決定づけることになるでしょう。