この記事のポイント
- eMarketerが引用したMod7 Research Strategyの2026年1月調査で、米国genAIアシスタント利用者の46%がAI広告とエージェンティックコマースの双方を拒否していると判明
- 「58%が開放的でも実行経験は6%」というRadial調査や、AI検索広告で63%の信頼が下がるとするIpsos調査と並び、楽観論への重要な反証データが揃いつつある
- EC事業者は「対応しないと取り残される」という焦りから、「いつ・どのセグメントから始めるか」へと戦略を切り替える局面に入っている
46%という数字が示す、楽観論の死角

46% of US genAI assistant users are resistant to both AI advertising and agentic AI commerce, more than the share open to either format, according to a January survey from Mod7 Research Strategy.
www.emarketer.com2026年5月20日、eMarketerが配信したチャート・オブ・ザ・デイは、エージェンティックコマースを推進する陣営にとって痛みを伴うものでした。米国のgenAIアシスタント利用者を対象にしたMod7 Research Strategyの調査で、46%が「AI広告」と「エージェンティックAIコマース」の両方に抵抗を示したというデータです。つまり、AI広告だけを受け入れる層やエージェンティックだけを受け入れる層よりも、両方とも拒否する層のほうが多かったことになります。
調査の出典は、2026年4月にMod7 Research Strategyが発表した『Beyond AI Adoption: Trust, Value Exchange, and the Limits of Growth』です。米国成人1,068名にオンライン調査を実施し、品質管理スクリーニング後の有効サンプルは881名。年齢・性別・所得・地域などで米国人口に合わせてウェイティングされており、サンプリングとしては手堅い設計になっています。eMarketerはこのチャートを「経営陣のAI収益化への熱気を冷ますために、AI戦略デッキにそのまま貼ってほしい」と推奨しています。
ここで重要なのは、調査対象が「genAIアシスタント利用者」である点です。AIに触れたことすらない一般層ではなく、すでにChatGPTやGeminiを日常的に使っている能動的なユーザー層──本来、エージェンティックコマースに最も近いはずの母集団──において、46%が拒否反応を示しています。
「開放的」と「実行」のあいだに広がるクレバス
Mod7の数字を一段深く理解するために、近い時期に出ているデータと並べて読む必要があります。
eMarketer自身が記事内で言及しているRadialの調査は、特に象徴的です。米国消費者1,000名を対象にした2025年12月〜2026年1月の調査によると、58%がAIアシスタント経由での注文に開放的と回答した一方、実際に体験した人はわずか6%にとどまりました。9倍以上の隔たりです。さらに同調査では、19%が「AIに決済情報を一切預けたくない」と答え、53%が「決済前の購入承認」を必須としています。「任せる気はある」と「実際に任せる」のあいだに、深いクレバスがあることが見えてきます。
サードパーティの数字もこの傾向を補強します。Ipsosが2026年1月に実施したコンシューマートラッカー調査では、AI検索結果に広告が入ると信頼度が下がると答えた米国成人が63%に達しました。Bain & CompanyがROI Rocketと共同で実施した2,016名規模の調査でも、AI購入に開放的な層は64%にのぼる一方、実際に購入した経験を持つ消費者は10%──しかも小額の食料品や日用品が中心です。
PYMNTS Intelligenceのデータは、さらに踏み込んだ温度感を示しています。95%の消費者がエージェンティックコマースに何らかの懸念を持ち、41%は「全く信頼しない」と回答したというものです。完全に信頼すると答えたのはわずか4%にすぎませんでした。
楽観論側の数字も嘘ではない、という難しさ
ここで誤解を避けたいのは、エージェンティックコマースに対する楽観論側のデータが「間違っている」わけではない点です。
Visaが2026年2月に発表したアジア太平洋地域のState of Digital Commerce調査では、14市場14,764名のうち74%が「AI関連ツールを商品の発見・追跡・学習に利用している」と回答しました。ただし、その同じ調査で32%が「個人情報や決済情報をAIに渡したくない」と答えています。インドやベトナムでは購入用途への開放度が42%に達する一方、ニュージーランドではわずか16%という地域差も顕著です。
Capgeminiの調査では71%の消費者がショッピング体験にgenAIの統合を望むとされ、ホリデー2025のAIチャット経由トラフィックは前年比で倍増したというAdobeの数字もあります。これらは確かに事実です。
つまり、市場には「上流のディスカバリーや比較検討にはAIを使いたい」「ただし最後の決済と意思決定は自分で握りたい」という、極めて条件付きの肯定が広がっているということです。Mod7調査の46%は、この条件のうち「広告」と「自動購買」という二つの収益化の要を同時に拒否した層の大きさを可視化しました。
| 調査 | 時期 | サンプル | 示す方向 | 代表的な数字 |
|---|---|---|---|---|
| Mod7 Research Strategy | 2026年1月 | 米国成人881名 | 慎重 | genAI利用者の46%が広告とエージェンティックの双方を拒否 |
| Radial / Dynata | 2025年12月〜2026年1月 | 米国消費者1,000名×2 | 慎重 | 58%が開放的だが、実行経験者は6% |
| Ipsos Consumer Tracker | 2026年1月 | 米国成人1,085名 | 慎重 | AI検索結果に広告が入ると63%が信頼を下げる |
| Bain AI Payments Consumer Survey | 2025年3月 | 米国消費者2,016名 | 条件付き肯定 | 64%は購入用途に開放的だが購入経験は10% |
| Visa State of Digital Commerce APAC | 2026年2月 | APAC14市場 14,764名 | 肯定 | APACの74%がAIをショッピングに利用 |
| PYMNTS Intelligence | 2026年初頭 | 米国消費者 | 慎重 | 95%が何らかの懸念、41%は「全く信頼しない」 |
なぜ慎重なのか──「コントロール」と「透明性」という共通項
複数の調査を読み合わせると、消費者の懸念は技術への漠然とした不安というより、極めて具体的なポイントに集中しています。
Radial調査では、34%が「AIの各アクションごとに事前承認を要求」、41%が「取引ごとの二要素認証を要求」、39%が「ペナルティなしで取消・キャンセルできること」を必須条件として挙げました。Bainの調査でも、消費者がAIに任せたいのは「自動的なクーポン適用」「タイムリーなオファー」「素早いチェックアウト」といった具体的なベネフィットであり、決済意思決定そのものの放棄ではありませんでした。
別の角度から見ると、エージェンティックコマースに最も馴染みやすいユースケースは、消費者がコントロールを失うリスクが小さい場面に集中していることが分かります。Radial調査では「配送モニタリングと問題解決」というポストパーチェス領域で54%が利用意向を示し、購入前後のいずれのフェーズよりも高い数字でした。「いつ・どこで・なぜ買うか」という主体性は手放さず、買った後の煩雑なオペレーションだけを任せたい、という構図です。
UK Retailers側でも揺らぐ「実装の前提」
消費者側だけではありません。前日の5月20日、Retail Gazetteは英国の小売決済関係者100名を対象にしたPayments Associationの調査を報じました。58%の英国EC事業者が「自社プラットフォームにAI発の取引がすでに到達している」と認識する一方、現行の責任分担の枠組みに「非常に自信がある」と答えたのは41%にとどまっています。
2,000ポンドの紛争取引が発生した場合の責任主体について、24%が「状況次第」、21%が「責任シェアモデル」、18%が「AIベンダーが負うべき」と回答が割れました。Payments AssociationのCEOは「事業者は適切な統制・責任明確化・取引可視性なしにAI由来の取引をすでに処理している」と警告しています。
ベンダー側ではGoogleのUniversal Cart拡張、VisaのIntelligent Commerceパイロット、StripeとOpenAIのAgentic Commerce Protocolなど、実装フェーズに入った発表が連日続いています。消費者の慎重さ、現場の不安、ベンダーの前進──この三層の温度差こそ、いま現場が直面している本当のギャップです。
EC事業者にとっての示唆──「いつ・どこから」始めるか
これらのデータを踏まえると、EC事業者の意思決定は単純な「対応する/しない」から、より粒度の細かい問いへと移ります。どのセグメント・どのフェーズで、消費者が委ねたいと感じる範囲だけにエージェンティックを差し込むかという設計問題です。
最初に検討すべきは、ポストパーチェス領域です。配送状況のプロアクティブな通知、遅延時の自動補償提案、返品プロセスのAI誘導など、消費者が「コントロールを失わずに楽になる」と感じやすい領域は、Radial調査でも50%超の利用意向が出ています。ここから入れば、最初の体験で「AIに任せても安全だ」という小さな信頼を積み上げられます。
次に、ディスカバリーと比較検討。Capgeminiが示すように、ここはすでに消費者側の利用意向が極めて高い領域です。AI Engine Optimizationに代表される、ChatGPTやPerplexityでの商品可視性を高める打ち手は、46%の拒否層にも届く可能性があります。なぜなら、彼らが拒否しているのは「広告」と「自動購買」であって、AIを使った情報探索そのものではないからです。
最後に、決済そのものの自動化。Mod7・Radial・Bain・PYMNTSのすべての調査が、ここに最も強い消費者抵抗があると示しています。この領域での展開は、Visa Intelligent CommerceやACPなどの認証・取消フレームに完全に乗り、消費者側の承認操作を必ず挟む実装が現実解になります。
受容度を上げるための打ち手
消費者調査が一致して指し示す「受容度を上げる三点セット」は、透明性・コントロール・信頼の可視化です。
透明性については、AIが何の情報を見て、なぜその商品を勧めたかを開示する「ソースの提示」が機能します。Rye調査では88%の消費者が明確なソース提示を、87%が検証済みレビューを、75%がAI回答の生成方法の説明を求めています。
コントロールについては、決済直前の人間承認ステップ、ワンクリックでのキャンセル権、取引ログの可視化が鍵となります。Radial調査で「Approve all AI actions」を求めた34%は、技術的に対応可能な領域です。
信頼の可視化については、Apple Pay・PayPal・Amazonといった既存の信頼ブランドの後ろ盾を活用する設計が有効だと、Bainの調査が示唆しています。新しい技術スタックを、すでに信頼されている決済ブランドの傘の下で提供することで、消費者の認知的なハードルを下げられます。
まとめ
Mod7 Research Strategyの「46%が拒否」というデータは、エージェンティックコマースの未来を否定するものではありません。むしろ、業界が直面している「声の大きい技術楽観論」と「サイレントマジョリティの慎重さ」のギャップを正確に測定したマイルストーンとして読むべきデータです。
今後注目すべきは、Mod7のような慎重論調査が増えるか、それともAdobeやCapgeminiが示す前向きな数字が消費者の実行体験を伴って追いついてくるかという、二つの曲線の収束点です。EC事業者にとって今やるべきは、最も抵抗の小さいユースケースから着実に体験を積み上げ、46%の拒否層を3年後にどう動かすかを設計することにほかなりません。





