この記事のポイント
- RazorpayがAnthropicのClaude SDKを基盤とした世界初の決済特化型AIエージェントプラットフォーム「Agent Studio」を発表
- 決済インフラに直接組み込まれたAIエージェントにより、カゴ落ち回収・チャージバック対応・入金消込などを自動化
- EC事業者は決済周辺のオペレーション業務をAIに委任できる時代が到来、特に中小事業者への恩恵が大きい
Razorpayが「FTX 2026」で新プラットフォームを発表

Razorpay unveils the world's first Agent Studio to automate payments using AI agents built on payment infrastructure.
razorpay.comインドの決済プラットフォーム大手Razorpayは2026年3月12日、自社イベント「FTX 2026」において、AIエージェントによる決済自動化プラットフォーム「Agent Studio」を発表しました。同社はこれを「世界初の決済インフラ上に構築されたAIエージェントプラットフォーム」と位置づけています。
同時に発表された「Agentic Experience Platform」と合わせ、Razorpayは決済処理企業から「ビジネスの金融オペレーティングシステム」への進化を宣言しました。共同創業者兼CEOのHarshil Mathur氏はBusiness Todayのインタビューで「単なる決済プロバイダーから、ビジネスの金融オペレーティングシステムへと進化したい。決済だけでなく、ビジネス管理そのものがRazorpay上で動く世界を目指す」と語っています。
背景と業界動向
決済業界ではここ数年、AIの活用が急速に進んでいます。不正検知やリスクスコアリングといった領域では既にAIが標準的な技術となっていますが、決済周辺の「オペレーション業務」には依然として多くの手作業が残されています。
カゴ落ちフォロー、チャージバック(不正利用による支払い取消し)への対応、入金消込、サブスクリプションの失敗リトライなど、これらの業務はそれぞれ異なるシステムにまたがり、専任チームによる継続的な監視が必要です。特に中小規模のEC事業者にとって、こうした業務は大きな負担となっています。
Razorpayは四半期あたり約10億件のトランザクションを処理し、総決済額は450億ドルに達しています。この膨大な決済データの上にAIエージェントを直接構築するというアプローチは、汎用的なAIプラットフォームとは一線を画すものです。Mathur氏は「エージェンティックなプラットフォームは独立して存在しているが、決済インフラの上に直接構築したものはまだ誰もいない」と差別化のポイントを強調しています。
Agent Studioの全容 ── 8種類のAIエージェントを搭載
Agent Studioは、AnthropicのClaude Agent SDKを基盤に構築されたB2B向けAIエージェントのマーケットプレイス兼ビルダープラットフォームです。企業はワンクリックでAIエージェントをデプロイし、決済および決済後のオペレーションを自動化できます。
初期リリースで提供される主要エージェントは以下の通りです。
カゴ落ちコンバージョンエージェント:チェックアウト中に離脱した顧客を検知し、WhatsAppやメールでパーソナライズされたフォローアップを実行します。Zomato傘下のNuggetおよびSuperUとの提携により、音声対話を含むリエンゲージメントが可能です。
チャージバック対応エージェント(Dispute Responder):チャージバックに対して最適化されたエビデンスを自動生成し、勝率の向上を図ります。
サブスクリプション回収エージェント:失敗したサブスクリプション決済を分析し、スマートなリトライロジックと顧客への通知を実行します。ElevenLabsの音声AI技術を活用しています。
キャッシュフロー予測エージェント:3〜7日先のキャッシュポジションを予測し、給与支払いリスクや資金ショートのアラートを発信します。
RTO Shield / RTO Insights:COD(代引き)注文の配送前リスク判定や、返品パターンの分析による返品率の低減を支援します。
入金サマリーエージェント(Settlement Insights):毎日の入金状況をWhatsApp経由で通知し、ダッシュボードを確認する手間を省きます。
さらに注目すべきは「Build Your Agent」機能です。これはノーコードのエージェントビルダー(ベータ版)で、企業がプレーンな英語でタスクを記述するだけでカスタムAIエージェントを作成できます。エンジニアリングリソースなしで、自社の業務ロジックに合ったエージェントの構築が可能です。
統合面では、Shopify、Shiprocket、WhatsApp、Slack、Tally、QuickBooksなど主要なプラットフォームとの連携が提供されており、エージェントがシステム横断的にデータを取得して判断を行えます。
Agentic Experience Platform ── もう一つの柱
Agent Studioと並んで発表された「Agentic Experience Platform」は、Razorpayへのオンボーディング、決済統合、運用管理を会話型AIで簡素化するレイヤーです。
「Agentic Onboarding」では、PANやウェブサイト情報を共有するだけで5分以内にオンボーディングが完了します。「Agentic Dashboard」では、自然言語コマンドで決済管理が可能になり、例えば銀行明細をアップロードしてRazorpayの入金と照合する作業を数秒で処理できます。「Agentic Integration」では、Claude CodeやReplit、EmergentといったAIコーディング環境を使い、10分以内にRazorpayの決済インフラを統合できます。
EC事業者への影響と活用法
今回の発表がEC事業者に示唆するポイントは3つあります。
第一に、決済周辺オペレーションの自動化が現実のものになりつつあることです。カゴ落ちフォロー、チャージバック対応、サブスク回収といった業務は、これまで人手に頼らざるを得ませんでした。AIエージェントがリアルタイムで顧客行動を分析し、即座にアクションを起こせるようになれば、回収率の向上とコスト削減の両立が期待できます。
第二に、中小事業者への恩恵が特に大きいことです。専任のオペレーションチームを持たない事業者でも、エージェントを活用することで大企業並みの業務自動化を実現できる可能性があります。ローンチパートナーにはSwiggy、Zomato、Zepto、PVR INOX、mamaearth等の大手企業が名を連ねていますが、真のターゲットは数百万の中小加盟店です。
第三に、料金体系に注目が必要なことです。ベータ期間中は追加料金なしで提供されますが、将来的にはトークンベースの従量課金モデルへの移行が予定されています。AIプラットフォームと同様に、エージェントが処理するタスクの複雑さと規模に応じた課金となる見込みです。
なお、Mathur氏は「金融サービスでは小さなエラーでも大きな責任が生じる」と述べ、6カ月をかけてエージェントが定められた範囲内で動作するガードレールを構築したと説明しています。導入を検討する際は、エージェントの権限範囲と監視体制の確認が重要です。
まとめ
Razorpayの「Agent Studio」は、決済インフラの上にAIエージェントを直接組み込むという新しいアプローチを提示しました。汎用AIツールではなく、決済データとワークフローに深く統合されたエージェントが、これまで手作業だったオペレーション業務を代行する構想です。
現時点ではインド市場が主な対象ですが、「決済×AIエージェント」というコンセプトはグローバルに波及する可能性があります。StripeやAdyenといったグローバル決済プレイヤーが同様の動きを見せるかどうかが、次の注目ポイントです。今後、Razorpayが公開するエージェントの実績データ(カゴ落ち回収率、チャージバック勝率など)にも注目していく必要があります。



