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2026年4月2日

Visa・Mastercard、エージェンティックコマースへの本格参入を加速

目次
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この記事のポイント

  1. VisaがB2AIレポートを発表、米国企業の53%がAIエージェント同士の価格交渉を容認する意向を示す
  2. Mastercardは香港で初のライブ・エージェンティック決済を完了し、アジア太平洋を中心にグローバル展開を加速
  3. 両社ともStripe・Google・OpenAIなど共通パートナーと連携し、認証・不正防止の標準化で競合しつつ協調

カードネットワーク2社がAIエージェント決済の主導権を争う

2026年4月第1週、VisaとMastercardがそれぞれエージェンティックコマース関連の新施策を発表しました。Visaは「B2AI(Business-to-AI)」レポートの公開とAI紛争解決ツールのリリース、Mastercardは香港での初ライブ・エージェンティック決済の完了を発表しています。

McKinsey & Companyは、2030年までにAIエージェントが米国だけで1兆ドルの取引を担うと予測しています。この巨大市場を前に、決済ネットワーク2大巨頭が本格的な陣取り合戦を始めた構図です。

Visaの戦略:Intelligent CommerceとB2AI構想

Visaのアプローチは「インフラ提供者」としてのポジション確立に重点を置いています。2025年4月に発表したVisa Intelligent Commerceは、トークナイゼーション・認証・決済指示・取引シグナルを統合したAPIスイートとパートナープログラムです。Anthropic、OpenAI、Microsoft、Stripe、Samsungなど主要AI・決済企業と提携し、開発者がVisa上でAIコマース機能を安全に構築できる環境を整えました。

1990年代後半から2000年代初頭のEコマース黎明期以来、これほどのものは見たことがない

2026年4月に公開されたB2AIレポートでは、AIが「アシスタント」から「経済的代理人」へ移行しつつある実態が明らかになりました。米国企業の53%がAIエージェント同士の価格交渉を許容し、88%が自社の価格・在庫データをAIシステムに提供する意向を示しています。消費者側でも58%がAIによる価格比較に、55%がAI割引適用に快適さを感じていますが、承認なしの自律的支出を許容するのはわずか27%にとどまります。

さらにVisaは、Akamaiとの提携でAIエージェントのID検証・認証・不正防止に取り組み、Trusted Agent ProtocolをOpenAIのAgentic Commerce Protocolと整合させています。Rampとの新たな提携では、5万社以上の法人顧客向けにAIエージェントによる経費管理・請求書払い・出張予約の自動化プラットフォームも発表しました。

Mastercardの戦略:ライブ取引の実績で先行

一方のMastercardは「実証の速度」で差別化を図っています。2025年にAgent Payを発表し、同年10月にはネットワーク上で初のエージェンティック取引を完了。2026年3月末には香港で初のライブ・エージェンティック決済を実施しました。HSBCとDBS香港が発行銀行として参加し、AIエージェントが空港タクシーの予約から決済までを自律的に処理しています。

Mastercardの技術基盤は「Agentic Token」によるトークナイゼーション、生体認証パスキー、そして取引意図を改ざん不可能な記録として残す「Verifiable Intent」の3層構造です。「Know Your Agent」プロセスにより、登録済みエージェントのみが取引を実行できる仕組みも導入しています。

展開速度も目を見張るものがあります。香港に加えて、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、マレーシア、インド、韓国、台湾のアジア太平洋9市場で認証済み取引が完了済みです。パートナーにはMicrosoft、PayPal、IBM、Adyenなどが名を連ね、2026年第2四半期にはMastercard Agent Suiteの提供開始が予定されています。

共通する戦略と競合のポイント

両社の戦略には重要な共通点があります。第一に、Stripeとの連携です。Stripeが3月に発表したShared Payment Tokens(SPT)の拡張では、Visa Intelligent CommerceとMastercard Agent Payの両方が対応対象に含まれています。第二に、GoogleのUniversal Commerce Protocol(UCP)にも両社が参加しています。第三に、CloudflareのWeb Bot Auth技術を両社が採用し、正規のAIエージェントと悪意あるボットの識別に活用しています。

差別化のポイントは明確です。Visaは開発者向けAPIとインフラ整備を重視し、B2AIという新概念でAI同士の商取引時代を先取りしています。Mastercardはライブ取引の実績とグローバル展開の速度で先行し、実用段階での信頼構築を進めています。

EC事業者への影響と活用法

今回の動きは、EC事業者にとって3つの示唆を持ちます。

「信頼」が最重要インフラになる: Visaの調査では、銀行系AIシステムへの信頼度(36%)が独立系AIエージェント(28%)を上回りました。カードネットワーク経由のAIエージェント決済は、消費者に安心感を提供する手段として機能します。決済パートナーのエージェンティックコマース対応状況を確認することが急務です。

AIエージェント向けの商品情報最適化が必要: Visaの調査で71%の企業がAIエージェント向けに商品・オファー・体験を最適化する意向を示しています。人間が閲覧するページだけでなく、AIエージェントが解釈しやすい構造化データの提供が差別化要因となります。

世代間ギャップへの対応: Gen Zの48%が決済ネットワーク型AIを信頼する一方、ベビーブーマー世代はわずか20%です。ターゲット顧客層に応じて、AIエージェント経由の購入体験と従来型UIの両方を維持する戦略が求められます。

まとめ

VisaとMastercardのエージェンティックコマース戦略は、AIエージェントが商取引の「参加者」となる時代が到来したことを示しています。Visaは開発者エコシステムとB2AI構想で市場を定義し、Mastercardはライブ取引の実績でグローバル展開を推進しています。両社がStripe、Google、OpenAI、Cloudflareといった共通パートナーと連携していることは、エージェンティックコマースのインフラが急速に標準化に向かっていることを意味します。

EC事業者にとっては、自社の決済インフラがAIエージェント取引に対応可能かどうか、そしてAIエージェントが自社商品を適切に発見・評価できる環境が整っているかどうかを検証する段階に入っています。