この記事のポイント
- SephoraがChatGPTアプリを、ShopifyがAgentic Storefrontsを同日に発表
- AIチャットがEC購買の起点となる時代が本格到来
- EC事業者はAIチャネル対応と顧客データ管理の両立が急務に
SephoraとShopifyが3月24日に相次いで発表

On March 24th, two major announcements involving agentic commerce were communicated, signaling how e-commerce really is slowly moving into a new era.
www.forbes.com2026年3月24日、エージェンティックコマースの領域で2つの大型発表がありました。美容小売の世界的リーダーであるSephoraはChatGPT上にSephoraアプリを展開すると発表。同日、Shopifyは全米の加盟店がChatGPT経由で販売可能になる「Agentic Storefronts」の本格稼働を宣言しました。
両社の発表に共通するのは、「AIチャットが買い物の起点になる」という明確なビジョンです。そしてもう一つの共通点は、決済とチェックアウトはブランド側に残すという設計思想にあります。
エージェンティックコマースの急速な実用化
エージェンティックコマース(AIエージェントが商品発見から購買までを支援する新しい商取引の形)は、2026年に入り急速に実用段階へ移行しています。Shopifyによれば、AIからのトラフィックは2025年1月比で7倍に増加し、AI経由の注文は同期間で11倍に成長しています。
OpenAIは当初、ChatGPT内で独自のチェックアウト機能を計画していましたが、この方針を撤回し、加盟店のストアフロントを尊重するモデルへと方向転換しました。これにより、AIプラットフォームは「発見の場」、ブランドは「購買の場」という役割分担が明確になっています。
GoogleとShopifyが共同開発したUniversal Commerce Protocol(UCP)には、Walmart、Target、Etsy、American Express、Mastercard、Stripe、Visaなど20社以上が賛同しています。AIエージェントと加盟店をつなぐオープン標準として、業界全体のインフラが整いつつあります。
SephoraのBeauty InsiderをChatGPTに持ち込む戦略
Sephoraの発表で注目すべきは、単なる商品検索ではなく「パーソナライゼーション」を軸に据えている点です。ユーザーがChatGPT上で「乾燥肌向けのファンデーションを探して」と入力すると、Sephoraアプリが起動し、Beauty Insiderアカウントの情報に基づいたおすすめ商品を提示します。
ロイヤリティプログラムとの連携も特徴的です。ポイントの利用、無料サンプル、送料無料といった会員特典をChatGPT上で活用できます。決済とチェックアウトは現時点ではSephoraのインターフェースへリダイレクトされますが、将来的にはアプリ内決済にも対応する予定です。
SephoraのグローバルCDOであるAnca Marola氏は、「ChatGPTのような新しいインテリジェントチャネルでSephoraアプリをパイロット展開する。米国市場から開始し、グローバル展開を目指す」と述べています。Sephoraは世界8,000万人以上のアクティブ会員を擁しており、このデータ基盤がAIコマースにおける競争優位になります。
数百万の加盟店をAIチャネルに一斉接続するShopify
Shopifyの「Agentic Storefronts」は、加盟店にとってより構造的なインパクトを持ちます。全米のShopify加盟店が追加の設定やアプリのインストールなしで、ChatGPTでの商品販売に対応します。標準的な決済手数料以外に追加コストは発生しません。
対応するAIチャネルはChatGPTだけではありません。Microsoft Copilot、Google検索のAI Mode、Geminiアプリにも対応し、Shopify管理画面から一元管理できます。ユーザーがChatGPTで商品を見つけた場合、モバイルではアプリ内ブラウザ、デスクトップでは別タブで加盟店のストアフロントに遷移し、チェックアウトが完了します。
注目すべきは「Agentic Plan」の存在です。ShopifyをECプラットフォームとして利用していないブランドでも、Shopify Catalogに商品を登録するだけでAIチャネルでの販売が可能になります。Shopifyは自社加盟店に限らず、AIコマースのインフラプロバイダーとしてのポジションを確立しようとしています。
OpenAIのCommerce Product LeadであるNeel Ajjarapu氏は、「Shopifyの加盟店エコシステム全体の商品を統合することで、数百万の加盟店と数十億の商品が即座に発見可能になる」とコメントしています。
EC事業者への影響と活用法
今回の発表から、EC事業者が今すぐ検討すべきポイントは3つあります。
AIチャネルでの「発見可能性」の確保が最優先です。Shopify加盟店であれば、Agentic Storefrontsは自動的に有効化されます。非Shopify事業者はAgentic Planの活用を検討する価値があります。商品データの構造化(正確な属性情報、リアルタイムの在庫・価格連携)がAIでの表示順位に直結します。
顧客データとブランド体験の維持も重要です。現時点ではチェックアウトは加盟店のストアフロント上で行われます。Shopify VP ProductのMani Fazeli氏は「ブランドと顧客の関係は常にブランドのもの」という原則を明確にしています。ロイヤリティプログラムやブランド体験をAIチャネル上でも一貫して提供できるかが差別化要因になります。
AIアトリビューションへの対応も始めるべきです。ShopifyではChatGPTからの注文にリファラル属性が付与されます。AIチャネル経由の売上を正確に計測し、マーケティング戦略に組み込む準備が必要です。
まとめ
SephoraとShopifyの同日発表は、エージェンティックコマースが「構想段階」から「実装段階」へ移行したことを象徴しています。AIチャットが新しい店頭になり、検索・比較・推薦が一つの会話の中で完結する時代が到来しています。
一方で、今回の両社の設計が示すように、AIは「発見のレイヤー」であり、購買体験と顧客関係はブランドが維持するという構図が定着しつつあります。今後はUCPの普及やMeta体験との連携拡大が注目点です。EC事業者にとって、AIチャネル対応はもはや「先進的な取り組み」ではなく、チャネル戦略の基本要件になりつつあります。




