お問い合わせ
2026年4月9日

エージェンティックコマース、2030年に1.5兆ドル規模へ──Juniper Researchが予測、Mastercard・Visa・Stripeが主導

この記事のポイント

  1. Juniper Researchがエージェンティックコマースの取引額を2026年の80億ドルから2030年に1.5兆ドルへ拡大すると予測
  2. 決済インフラのリーダーボードではMastercard、Visa、Stripeがトップ3に選出され、初期プロトコル参画が競争優位を生んでいる
  3. 信頼の壁と分断された決済環境が普及の最大課題で、当面は既存チェックアウトを補完する形で共存する見通し

Juniper Researchが「2030年1.5兆ドル市場」の試算を公表

英国の調査会社Juniper Researchが、エージェンティックコマース分野の新たな市場予測を公表しました。AIエージェントが商品の発見から決済までを代行する取引の総額は、2026年の80億ドルから2030年には1.5兆ドル規模へ拡大すると試算しています。

同レポートは、2025年から2026年にかけての初期パイロット導入を起点とした成長シナリオを描いています。あわせて決済インフラ事業者14社を評価した「2026年版コンペティター・リーダーボード」も発表され、Mastercard、Visa、Stripeがトップ3に名を連ねました。

他の調査機関の予測と比較した位置づけ

エージェンティックコマースの市場規模については、主要調査機関から相次いで試算が出ています。McKinseyはAIエージェントが米国B2Cリテールで最大1兆ドルを動かし、グローバルでは3〜5兆ドル規模に達すると試算しており、Juniperの1.5兆ドルはこれら先行予測のちょうど中間に位置する堅実な数値です。

一方で、Bain & Companyは米国市場で2030年に3000〜5000億ドル、Morgan Stanleyは米国EC売上の10〜20%(1900〜3850億ドル)と見積もっており、地域や対象範囲によって試算には幅があります。共通しているのは、いずれの機関もエージェンティックコマースを「単発ブーム」ではなく、今後5年のリテール構造を塗り替える主要な成長ドライバーと位置づけている点です。

現時点での実取引はまだ80億ドル規模にとどまります。つまり、Juniperのシナリオでは約4年でおよそ190倍の拡大が必要になる計算です。これが実現するかどうかは、プロトコル標準化と消費者の信頼獲得のスピードに強く依存しています。

決済インフラ競争とプロトコル標準化の現在地

Juniperが発表したリーダーボードで特筆すべきは、評価基準が「エージェント主導の取引プロセスを可能にする能力」と「新興プロトコルへの関与度」に置かれた点です。単なる決済量やブランド認知ではなく、AIエージェント時代に向けた技術的な備えが重視されています。

トップ3に選ばれたMastercard、Visa、Stripeはいずれも新興プロトコルへの早期関与で先行しています。Mastercardは「Agent Pay」構想を通じてエージェント認証と取引トークン化を進め、Visaは「Intelligent Commerce」イニシアチブで消費者の委任枠組みを構築しています。StripeはOpenAIと共同で「Agentic Commerce Protocol」を開発し、ChatGPT内のInstant Checkoutを支えるインフラを提供しています。

同レポートが課題として挙げるのが、グローバル決済環境の分断です。ローカル決済手段が乱立する地域では、単一のエージェンティック基盤が機能しにくく、多様な決済方式を統合できる事業者に初期シェア獲得の機会があると指摘されています。日本でも、コンビニ決済やQRコード決済が混在する中、どのプロトコルが広く受け入れられるかが今後の論点になります。

EC事業者が直面する信頼の壁と現実的な準備

Juniperレポートが強調するもうひとつの論点が、「信頼」が普及の最大障壁だという事実です。消費者がAIエージェントに決済権限を委ねるには、誤発注・二重決済・意図しない購入といったリスクへの安心感が必要で、当面エージェンティックコマースは既存ECチェックアウトを置き換えるのではなく補完する形で広がると見られています。

実際、Inside Retailが紹介したScott Benedict氏の分析でも、消費者は複数サイトを閲覧する代わりに、ChatGPTやGemini、Perplexityに候補絞り込みまで任せる行動が広がっていると指摘されています。現在は「リサーチャーとしてのAI」が中心で、自律購買フェーズは次の段階という位置づけです。

EC事業者に求められる準備は明確です。第一に、AIエージェントが読み解ける構造化された商品データの整備が不可欠となります。Retailbizに掲載されたGlu社の記事は、カタログが機械可読でなければ「推薦の瞬間に不可視になる」と警告しています。第二に、決済プロバイダーの選定では、Juniperのリーダーボード上位各社がサポートする新興プロトコルへの対応状況を確認しておくべきです。

まとめ

Juniper Researchの1.5兆ドル予測は、エージェンティックコマースが実証フェーズから本格的な市場形成期へ移行しつつあることを示す象徴的な数値です。先行するMcKinsey、Bain、Morgan Stanleyらの試算と揃って、2030年という明確なターニングポイントが業界共通の前提になってきました。

注目すべきは、今後12か月でプロトコルの標準化と消費者信頼の両面がどこまで進むかです。Mastercard、Visa、Stripeによるインフラ整備と並行して、EC事業者側では商品データの機械可読化、AIエージェント向けの導線設計、そして信頼できる決済プロバイダーとの接続という3点が、現実的な備えとなります。80億ドルから1.5兆ドルへ至る成長曲線のどこに自社を位置づけるか、戦略判断の遅れは競争上の不利に直結します。