この記事のポイント
- AmazonがPerplexityのCometブラウザによるAIショッピングエージェントに対し仮差止命令を獲得
- AIエージェントが「ユーザーの許可」を得ていても「プラットフォームの承認」がなければ違法とする初の司法判断
- EC事業者はAIエージェント対応のアクセスポリシーとセキュリティ体制の整備が急務に
連邦裁判所がPerplexityのAIエージェントに仮差止命令

Amazon sued Perplexity in November, accusing the startup of concealing its AI shopping agents.
www.cnbc.com2026年3月10日(現地時間)、カリフォルニア北部地区連邦地方裁判所のMaxine Chesney判事が、PerplexityのAIブラウザ「Comet」がAmazonのウェブサイトにアクセスすることを一時的に禁止する仮差止命令を発出しました。Amazonが2025年11月に提訴した訴訟の中で、AIエージェントによるECプラットフォームへのアクセスをめぐる初めての本格的な司法判断となります。
Perplexityの「Comet」は、ユーザーがAIアシスタントにAmazon上の商品検索や購入を代行させることができるブラウザです。Amazonはこのツールが「AIエージェントの正体を隠し」、通常のGoogle Chromeセッションに偽装してサイトにアクセスしていたと訴状で主張しています。
背景と業界動向
この訴訟の根底には、エージェンティックコマース(AIエージェントが消費者に代わって商品の検索・比較・購入を行う仕組み)をめぐるプラットフォーム支配権の争いがあります。
Amazonは2024年11月以降、少なくとも5回にわたりPerplexityに対してCometのアクセス停止を警告しました。2025年8月にはCometをブロックする技術的な措置を講じましたが、Perplexityは24時間以内にソフトウェアアップデートでこれを回避したとされています。この「いたちごっこ」が、2025年11月の正式提訴につながりました。
一方で、AIエージェントによるショッピングは急速に広がっています。OpenAIのChatGPTを含む多くのAIエージェントがEC領域に進出する中、Amazonは自社のAIショッピングアシスタント「Rufus」や「Buy For Me」を展開しつつ、外部のAIエージェントを広くブロックする姿勢を取っています。Amazon CEOのAndy Jassy氏自身が「エージェンティックコマースはECにとって大きなチャンスになり得る」と認めつつも、現状のAIエージェントはパーソナライゼーションや価格精度の面で不十分だと述べています。
「ユーザーの許可」と「プラットフォームの承認」を分離した判決の核心
今回の判決で最も注目すべきは、Chesney判事が「ユーザーの許可」と「プラットフォームの承認」を明確に区別した点です。
判事は、PerplexityのCometブラウザが「Amazonユーザーの許可を得て、しかしAmazonの承認なく」パスワード保護されたアカウントにアクセスしている「強力な証拠」をAmazonが提示したと認定しました。つまり、消費者がAIエージェントに代行を依頼していても、プラットフォーム側がそのアクセスを認めていなければ、連邦コンピュータ詐欺・不正利用法(CFAA)およびカリフォルニア州のコンピュータ詐欺法に違反する可能性があるという判断です。
Amazonは訴状の中で、Perplexityのエージェントがもたらす複数のリスクを挙げています。まず、AIエージェントが「パスワードを必要とする非公開の顧客アカウント内で動作する」ことによるセキュリティリスクです。さらに、AIが生成する広告トラフィックを検出・除外するための新たなシステム開発が必要となり、広告主との契約義務の維持にもコストが発生するという点も主張されました。Amazonは対応に5,000ドル以上を費やし、従業員がCometのブロックと今後の不正アクセス防止のために「多大な時間」を投じたとしています。
一方のPerplexityは、この訴訟を「弱い者いじめの戦術」と反論しています。AIエージェントは広告をバイパスするため、Amazonの真の動機は自社のAIショッピングツールの競合排除と広告収入の保護にあると主張しました。Perplexityは「インターネットユーザーが自分の好きなAIを選ぶ権利のために戦い続ける」とコメントしています。
なお、判事はPerplexityが求めた10億ドルの保証金を却下しました。CometはAmazon以外のすべてのウェブサイトで引き続き利用可能であり、差止命令がPerplexityのビジネス全体を脅かすものではないと判断しています。差止命令には7日間の執行猶予が設けられ、Perplexityはすでに第9巡回区控訴裁判所へ控訴しています。
EC事業者への影響と活用法
今回の判決は、EC事業者にとって以下の重要な示唆を含んでいます。
AIエージェントアクセスポリシーの策定が必要です。 裁判所がプラットフォームの「承認権」を認めた以上、EC事業者は自社サイトにおけるAIエージェントのアクセスを明示的に許可または拒否するポリシーを整備すべきです。利用規約やrobots.txtの見直しが具体的な第一歩となります。
広告ビジネスモデルへの影響を見極める必要があります。 AIエージェントが広告を表示せずに購買を完了する場合、リテールメディア収益に直接的な影響が出ます。Amazonが訴状で広告システムへの影響を明示的に主張したことは、この問題の深刻さを示しています。
自社AIツールへの投資判断が問われます。 Amazonが外部エージェントをブロックしつつ自社のRufusやBuy For Meを強化する戦略は、大手プラットフォームの方向性を示唆しています。中小EC事業者は、自社でAIショッピング体験を提供するか、あるいはオープンなエージェントアクセスを差別化要因とするか、戦略的な判断が求められます。
セキュリティ対策の強化は不可欠です。 AIエージェントがユーザーの認証情報を使って自動操作を行う場合、不正アクセスの検知やボットトラフィックの識別がこれまで以上に重要になります。
まとめ
Amazon対Perplexityの判決は、エージェンティックコマースの法的フレームワークを形成する上で最初の重要な先例となる可能性があります。「ユーザーの許可があってもプラットフォームの承認がなければ違法」という判断は、AIエージェントの活動範囲に明確な制約を設けるものです。
Perplexityの控訴審の行方、そして本訴訟の最終判決が、今後のエージェンティックコマース全体のルール形成に大きな影響を与えることは間違いありません。EC事業者は、この判決を契機にAIエージェント時代のアクセスポリシー、セキュリティ体制、そしてビジネスモデルの再検討を始めるべきタイミングに来ています。




