この記事のポイント
- Ant Groupのブロックチェーン部門が、AIエージェント専用の暗号資産プラットフォーム「Anvita」をカンヌのReal Upサミットで発表
- トークン化サービス「Anvita TaaS」とエージェント間決済基盤「Anvita Flow」の2製品で構成され、x402プロトコルとUSDCによるリアルタイム決済を実現
- Visa・Coinbase・Googleに続きAnt Groupも参入し、エージェンティックコマースの決済インフラ競争が本格化
Ant Groupが「エージェント・トゥ・エージェント経済」に本格参入

Anvita includes tokenization services and a platform for agents to coordinate tasks and settle payments in real time using stablecoins.
www.coindesk.comAliPayを運営する中国の巨大テック企業Ant Groupが、AIエージェント専用の暗号資産プラットフォーム「Anvita」を発表しました。2026年3月31日、カンヌで開催された同社の「Real Up」サミットでの披露です。
注目すべきは、Anvitaが単なるブロックチェーンサービスではない点です。「エージェント・トゥ・エージェント経済」と銘打たれたこのプラットフォームは、自律的なソフトウェアエージェントが人間の介在なしに資産を保有し、取引を実行し、決済まで完結させることを前提に設計されています。Ant Groupのブロックチェーン事業部門であるAnt Digital Technologiesのブロックチェーン事業プレジデントZhuoqun Bian氏は、CoinDeskの取材で次のように語っています。
純粋なRWA(実物資産のトークン化)は、デジタル資産の"静的インフラ"に過ぎない。真の変革は、オンチェーンのエージェンティック経済への移行にある。自律的なエージェントがデータを分析するだけでなく、資産を保有し、取引を実行し、ポートフォリオを最適化する未来だ。
Anvitaの2つの柱:TaaSとFlow
Anvitaは、性質の異なる2つのプロダクトで構成されています。
ひとつめがAnvita TaaS(Tokenization-as-a-Service)です。機関投資家向けに実物資産(RWA)のトークン化を提供するサービスで、カストディ(資産保管)やトレジャリー(資金管理)のツールを含みます。不動産、債券、ファンドといった従来型資産をブロックチェーン上でデジタル化し、AIエージェントが扱える形に変換する基盤です。
もうひとつがAnvita Flow。こちらがエージェンティックコマースの核となるプロダクトです。AIエージェントがプラットフォーム上で登録し、他のエージェントを発見し、タスクを連携させ、リアルタイムで決済を完了する仕組みを提供します。決済にはCoinbaseとCloudflareが開発したx402プロトコルを採用しており、ステーブルコイン「USDC」による即時マイクロペイメントが可能です。サブスクリプション契約や人間の承認は不要で、1セント以下の少額取引にも対応します。
さらに、Anvita Flowには「Agent Store」が併設されています。データ収集、金融分析、ゲーミングなどのモジュールが用意されており、開発者は自作のエージェントを登録・公開できます。OpenClawやClaude Codeといった主要フレームワークとの連携もサポートされています。
決済インフラをめぐる群雄割拠
Ant Groupの参入は、エージェンティックコマースの決済インフラをめぐる競争が新たな局面に入ったことを意味します。
すでにこの領域には複数の大手プレイヤーが名乗りを上げています。Visaは既存のカード決済網を活用した「Trusted Agent Protocol」を展開中で、AIエージェントがクレジットカードレールでチェックアウトする仕組みを構築しています。一方、Coinbaseはx402プロトコルでステーブルコインベースのマイクロペイメントを推進。2025年9月にはGoogleがAgent Payments Protocol(AP2)を発表し、60以上の組織がサポートを表明しました。
さらに直近では、Mastercardがステーブルコイン企業BVNKを18億ドルで買収し、ステーブルコインインフラ史上最大の取引を成立させています。伝統的な決済ネットワークもブロックチェーン決済を自社の将来に組み込み始めているのです。
では、なぜこれほど多くのプレイヤーがこの市場に殺到しているのか。McKinseyのレポートは、2030年までにAIエージェントが世界の消費者商取引の3兆〜5兆ドルを仲介すると予測しています。Solana Foundationはすでにネットワーク上で1,500万件以上のオンチェーンエージェントトランザクションが処理されたと報告しており、CoinbaseのBrian Armstrong CEOは「エージェントのトランザクション量が人間を上回る」と発言しています。
ただし、期待と現実にはまだ乖離があります。x402プロトコルの1日あたりの処理額は約2.8万ドルにとどまり、Artemisのアナリストは観測されたトランザクションの約半数がテスト的な活動だと指摘しています。
EC事業者にとっての意味
Anvitaが直接ターゲットとするのは機関投資家やブロックチェーン開発者ですが、EC事業者にとっても見過ごせない動きです。
Ant GroupはAliPayを通じて世界で13億人以上のユーザー基盤を持つ決済インフラ企業です。その企業がエージェンティックコマースの決済基盤を本格的に構築し始めたことは、AIエージェントが「実際に買い物をする」時代が近づいていることを示唆します。
特にAnvita Flowのx402プロトコル採用は、AWSのリファレンス実装やGoogleのAP2と合わせ、エージェント決済の業界標準が収斂しつつあることを意味します。EC事業者が自社のAPIや商品データをエージェント対応させる際の技術選択が、より明確になってきた段階です。
一方で、ステーブルコインによる決済は日本国内では暗号資産規制や会計処理の問題が残ります。現時点では、まず海外のエージェント決済動向を注視しつつ、自社のAPI設計にエージェントとの対話を想定した構造を組み込み始めることが現実的な一歩となるでしょう。
まとめ
AliPayの親会社がエージェンティックコマース専用プラットフォームを立ち上げたという事実は、この領域が実験段階から「インフラ構築競争」のフェーズに移行したことを物語っています。Visa、Coinbase、Google、Mastercard、そしてAnt Group。決済インフラの覇権をめぐる争いは、AIエージェントが経済活動の主体となる未来を前提に、急速に進んでいます。
次に注目すべきは、Anvita Flowの実際のトランザクション規模と、x402プロトコルエコシステム全体の商用利用がどの程度加速するかです。




