この記事のポイント
- CoupangがNVIDIAと提携し、EC物流全体を支える「AIファクトリー」を構築
- GPU稼働率が65%→95%に向上し、フルフィルメント効率が大幅改善
- EC事業者にとってAIインフラ投資が物流競争力の決定的差別化要因に
CoupangとNVIDIAがAIファクトリー構想を発表

Coupang and NVIDIA highlight new AI innovations
www.businesswire.com2026年3月17日、韓国EC最大手のCoupangはNVIDIA AI Conference & Expoにおいて、NVIDIAとの提携により構築した「AIファクトリー」の成果を発表しました。Coupangのエンジニアリング担当VPであるAshish Suryavanshi氏が登壇し、同社のEC物流・配送サービス全体にわたるAIイノベーションの加速について説明しています。
このAIファクトリーは、2025年7月に立ち上げたCoupang Intelligent Cloud(CIC)とNVIDIA DGX SuperPODを組み合わせたセルフサービス型のAIエコシステムです。シアトルやマウンテンビューなど、グローバルに分散するエンジニアリングチームが、新しいAIモデルを迅速にテスト・構築できる環境を提供しています。
業界動向
EC業界では、フルフィルメントセンターの在庫配置から配送ルートの最適化まで、AIの活用が競争力を左右する時代に入っています。Coupangは2010年の創業以来、数十億ドル規模の投資をエンドツーエンドのテクノロジー・物流インフラに注ぎ込んできました。AI、カスタムロボティクス、最先端テクノロジーを統合し、米国を含む190の国と地域に「Rocket Delivery」と呼ばれる即日配送サービスを展開しています。
NVIDIAにとっても、EC物流は「AIファクトリー」の重要なユースケースです。同社は2025年3月のGTCで推論フレームワーク「NVIDIA Dynamo」を発表し、2026年3月にはDynamo 1.0として本番環境向けの正式版をリリースしました。Coupangはこのオープンソースソフトウェアのローンチパートナーとして参画しており、両社の提携はEC領域におけるAIインフラの最前線を象徴するものです。
Coupangの技術革新は外部からも高く評価されています。2026年3月にはLexisNexisの「2026年グローバルイノベーター Top 100」に2年連続で選出されました。累計特許数は2015年の91件から2025年には3,919件へと急増し、年平均成長率45%という驚異的なペースで知的財産ポートフォリオを拡大しています。
「AIファクトリー」の技術アーキテクチャと成果
Suryavanshi氏のチームが構築したCICは、「舗装された道(Paved Road)」という設計思想に基づいています。データサイエンティストやMLエンジニアがインフラの複雑さに悩むことなく、モデル開発に集中できる環境を目指したものです。
AIファクトリーは3層構造のセルフサービスプラットフォームで構成されています。開発者が操作する最上層にはCLI(コマンドラインインターフェース)、API、UIが用意されており、直感的にモデルの開発・テスト・デプロイが可能です。インフラの抽象化により、開発者はGPUクラスターの管理ではなく、ビジネス課題の解決に注力できます。
具体的な成果として、CICで構築されたAIモデルにより、フルフィルメントセンターのスケジューリングとビンパッキング(商品の箱詰め最適化)が大幅に改善されました。GPU稼働率は65%から95%へと約46%向上しています。これは単なるインフラ効率化にとどまらず、配送予測精度や在庫配置の最適化を通じて、顧客体験の向上に直結する改善です。
さらに、CoupangがNVIDIA Dynamoのローンチパートナーに名を連ねている点も注目に値します。Dynamoはエージェンティック推論に特化したオープンソースフレームワークで、数千のGPUにまたがる推論ワークロードを効率的にオーケストレーションします。KVキャッシュの分散管理やリクエストのスマートルーティングにより、推論コストを削減しながらスループットを向上させる技術です。EC物流におけるリアルタイム意思決定(需要予測、ルート最適化、在庫補充など)で、この推論性能の向上が直接的な競争優位につながります。
EC事業者への影響と活用法
CoupangとNVIDIAの提携が示すのは、EC物流におけるAIの活用がもはや「あれば良い」ではなく「なければ戦えない」段階に入ったという現実です。
インフラ投資の方向性が変わる。 GPUクラスターの自社運用は大手だけの選択肢ではなくなりつつあります。CICのようなGPU-as-a-Service(GPUaaS)モデルが広がることで、中堅EC事業者にもAIインフラへのアクセスが開かれます。CICはソウル近郊のデータセンターを拠点に、外部へのGPUaaS提供も行っています。
物流最適化の精度が桁違いに向上する。 ビンパッキングやルート最適化は、従来のルールベースから機械学習ベースへと移行が進んでいます。Coupangの事例が示すGPU稼働率65%→95%の改善は、同じハードウェア投資でより多くの推論処理を実行できることを意味します。物流コスト削減に直結する指標です。
エージェンティックAIとの融合が始まる。 NVIDIA Dynamoの登場により、AIエージェントがリアルタイムで物流判断を下す「エージェンティックロジスティクス」の基盤が整いつつあります。Coupangのローンチパートナー参画は、EC物流がこの技術の最初の大規模適用先になることを示唆しています。
まとめ
CoupangとNVIDIAの「AIファクトリー」は、EC物流におけるAI活用の新たなベンチマークとなります。自社クラウド基盤(CIC)とNVIDIAの最先端GPU・推論フレームワークの組み合わせにより、フルフィルメントから配送までのオペレーション全体をAIで最適化する体制が確立されました。
今後注目すべきは、Dynamoの本番運用がEC物流の意思決定速度をどこまで向上させるか、そしてCICのGPUaaS提供が他のEC事業者にどの程度開放されるかです。韓国発のこの動きは、グローバルEC業界全体のAIインフラ競争を加速させることになるでしょう。




