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2026年3月16日

EC事業者の96%がAIに投資済み、エージェンティックコマースへの大型投資が加速

目次
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この記事のポイント

  1. LogicBrokerの調査で600社超のEC企業の47%が今後12カ月で100万ドル以上のエージェンティックコマース投資を計画
  2. AI商品発見・チャットボット・パーソナライズが主要投資先だが、ROIの不確実性やAI対人間のハンドオフ課題も浮上
  3. EC事業者はバックエンド最適化とフロントエンド体験の両軸で段階的にAI導入を検討すべき

EC企業の大半がエージェンティックコマースに本格投資へ

2026年3月16日、EC業界の顧客体験メディアCX Diveは、コマースプラットフォーム企業LogicBrokerが実施した大規模調査の結果を報じました。600社超のエンタープライズEC事業者を対象とした「The State of Agentic Commerce Adoption」レポートによると、回答企業の96%近くがすでに何らかのAI機能に投資済みであり、47%が今後12カ月で100万ドル(約1.5億円)以上をエージェンティックコマースに投じる計画です。さらに、そのうち21%は500万ドル(約7.5億円)超の投資を見込んでいます。

業界動向

エージェンティックコマースとは、AIエージェントが商品の検索・比較・推薦から購買までを自律的に実行するコマースの新形態です。これまでAIは主にバックエンドの業務効率化に活用されてきましたが、現在はその活用領域が顧客接点へと急速に広がっています。

LogicBrokerのCEOであるOmar Qari氏は、BusinessWireのプレスリリースで「AIに関する議論はこれまで検索やレコメンドといった『発見』に集中してきたが、データが示しているのは、AIが取引そのものの奥深くに入り込みつつあるということだ」と指摘しています。ソフトウェアエージェントが何を購入し、どこから調達するかを判断し始めると、デジタルコマースの構造そのものが変わるとの見方です。

市場規模も急拡大しています。sanbi.aiの市場レポートによると、エージェンティックコマース市場は2025年末の5.47億ドルから今後数年で52億ドル規模への成長が見込まれています。McKinseyは2030年までに世界全体で最大5兆ドルのエージェンティックコマース取引量を予測しています。

投資先はAI商品発見とチャットボットが中心、だが課題も

LogicBrokerの調査によると、EC事業者のAI投資先として最も多いのはAI搭載の商品発見機能AIチャットボットパーソナライズドレコメンデーションの3領域です。いずれも顧客接点のフロントエンド機能であり、EC事業者が顧客体験の向上を最優先に位置づけていることがわかります。

一方、バックエンド投資も進んでいます。44%が価格最適化、43%が自動在庫管理に投資しており、Info-Tech Research GroupのJulie Geller氏は「価格最適化や需要予測は変数が定量化でき、フィードバックが即座に得られ、モデルが誤っても顧客との直接的な関係に影響しないため、うまく機能する」とCX Diveの取材で分析しています。

しかし、顧客対応のAIチャットボットには課題が残ります。CX Diveの関連報道によると、AIチャットボットは複雑な問い合わせへの対応で一貫して失敗しており、Pegasystems社がYouGovに委託した調査では消費者の3分の2が人間との対話を好むという結果が出ています。

Geller氏はこの点について「多くのAIエージェントは、人間としても機械としても中途半端な位置にある。レスポンスは空疎で意味不明、あるいはタイミングが遅すぎることがあり、それはブランドを傷つける」と警告しています。さらに「顧客がAIとのやり取りの後にオペレーターにつながった際、状況説明の負担が顧客に転嫁されるべきではない。引き継ぎは透明でなければならないが、現状ではそうなっていることは稀だ」と指摘しています。

ROIへの期待とコストの現実

投資に対するリターンへの期待は高く、LogicBrokerの調査では4分の3の企業が24カ月以内のROI実現を見込んでおり、半数近くは1年以内のリターンを期待しています。また、半数超の企業が今後6カ月以内にAIショッピングエージェントを展開する計画です。

しかし、コスト面では注意が必要です。Gartnerの2026年1月の予測では、生成AIによるカスタマーサービスの1件あたり解決コストが2030年までに3ドルを超え、多くのオフショア人間エージェントより高くなるとされています。データセンターコストの上昇、AIベンダーの価格戦略転換、複雑なユースケースによるトークン消費増が主因です。

つまり、AIを「コスト削減ツール」としてのみ位置づけると、期待と現実のギャップに直面する可能性があります。

EC事業者への影響と活用法

今回の調査結果は、EC事業者にとって明確なシグナルを発しています。エージェンティックコマースは実験段階を超え、本格的な投資フェーズに入っています。ただし、成功には段階的なアプローチが不可欠です。

まず、バックエンドから着手することが有効です。価格最適化や在庫管理などの領域は、変数が明確でリスクが限定的なため、ROIを検証しやすい出発点になります。顧客対応のAIチャットボットを導入する場合は、人間のオペレーターへのスムーズな引き継ぎ設計が成否を分けます。

商品発見機能については、検索キーワードだけでなく行動シグナルに基づくAI活用が有望です。Geller氏が述べるように「同じ商品を3回見て購入しない顧客は何かを伝えている。AIはキーワードロジックよりもそれを的確に読み取る」のです。

さらに、LogicBrokerの調査でB2BとB2Cのハイブリッドモデル企業が市場の45%を占めることが明らかになっており、エージェンティックコマースはB2C小売に限らず、B2B取引の効率化にも大きな可能性を持っています。

まとめ

EC事業者の96%がAIに投資済みという現実は、もはやAI導入が競争優位ではなく「参加条件」になりつつあることを示しています。今後12カ月で47%が100万ドル以上を投じる計画であり、業界全体の投資規模は加速する一方です。

ただし、Gartnerが警告するROIの不確実性や、消費者が依然として人間対応を好むという事実を踏まえると、「AIでコスト削減」という単純な方程式では成功は難しいでしょう。Geller氏が強調するように、AIの最も強力な活用法は「バックグラウンドで静かに動作する」場面にあります。EC事業者は顧客体験の向上と業務効率化の両軸で、自社に最適な投資配分を見極めることが求められています。