この記事のポイント
- GoogleはUniversal Cartを軸に、発見から購買までショッパーの旅全体をGeminiで囲い込む戦略を鮮明にし、エージェンティックコマースの覇権争いを一段と激化させている
- 競争の本質はGoogle対OpenAIではなく、自社エコシステムを横断する「水平型エージェント」と、特定の商域を握る「垂直型エージェント」の主導権争いにある
- EC事業者は単一プラットフォームへの最適化ではなく、複数のAI接点に分散して備える設計と、消費者の不信感を前提にした透明性の確保が求められる
Universal Cartが示すGoogleの本当の狙い

Google's aim to own the entire shopper journey is heating up the agentic commerce battle against Amazon's Alexa and rivals like TikTok Shop.
digiday.com先週Googleが発表したUniversal Cartは、小売店やサービスをまたいで機能する「インテリジェントなショッピングカート」です。検索でもGeminiでもYouTubeでもGmailでも、同じカートに商品を追加できます。機能の中身そのものは当サイトでもUniversal Commerce Protocol(UCP)の解説で触れてきたとおりですが、今回注目すべきは機能ではなく、その背後にある戦略の射程です。
匿名を条件にDigidayの取材に応じたあるコマース幹部は、この発表を「単なるエージェンティックコマースではなく、Googleの最も利用されている画面(YouTube、検索、広告、Gemini)に現れる新しいコマース体験だ」と評しています。つまりGoogleが描いているのは、特定の機能ではなくショッパーの旅全体を自社の画面の中で完結させる構造です。
Googleの商品ショッピング担当VP兼ゼネラルマネージャーであるAshish Gupta氏は、Google Marketing Liveに先立つラウンドテーブルで「我々は小売業者でもマーケットプレイスでもない。そのアプローチはエージェント時代でも変わらない」と語りました。Googleはあくまでショッパーとブランドをつなぐ「マッチメーカー」に徹するという立場です。VMLのエージェンティックコマース担当マネージングディレクターMolly Schonthal氏は、このロードマップを「AIエージェントとアシスタント主導の意思決定を軸にしたコマース再編の始まり」と位置づけています。
この「仲介役」という立ち位置は、検索広告で築いた収益構造の延長線上にあります。Googleは小売を自ら手がけるのではなく、膨大な発見データと購買意図データを資産として、ショッパーとブランドの間に立ち続けようとしています。だからこそ競合は、この仲介ポジションそのものを脅かす存在として浮かび上がってきます。
水平型エージェント対垂直型エージェントという対立軸
エージェンティックコマースの競争を「Google対OpenAI」という構図で捉えると、本質を見誤ります。前出の匿名幹部は、より的確な分け方を提示しています。GoogleやOpenAI、Anthropicのように自社エコシステムを横断して動く「水平型エージェント」と、AmazonやWalmartのように特定の商域の中で動く「垂直型エージェント」という二つの陣営の争いだ、という整理です。
水平型エージェントの強みは、購買だけでなく検索・動画・メールといった生活全体の接点を押さえている点にあります。Geminiは商品を探す前の「何を買うべきか」という曖昧な相談から入り込めます。Tinuitiのコマースメディア担当VP Elizabeth Marsten氏が「Googleが何よりやっていたのは、コンピューターとの会話に我々を慣れさせ、より速く答えにたどり着かせることだった」と述べたのは、この入口の広さを指しています。
一方の垂直型は、購買完結の確実性で勝負します。Amazonは今月、LLM搭載のAIアシスタントAlexa+を買い物体験に統合し、これまでの買い物特化アシスタントRufusをAlexa for Shoppingへと置き換えました。チャットウィンドウの中にいたエージェントが、Amazonが持つすべての検索窓の裏側に移ったことで、約3億人の米国ショッパーと6億を超えるAlexa端末に一気に接続されます。さらにAmazonの外部サイトでも購入を代行する「Buy for Me」を備え、垂直型でありながら水平型の領域にも手を伸ばし始めています。
両陣営の違いを最も端的に言えば、水平型は「意思決定の入口」を、垂直型は「取引の出口」を握ろうとしている、ということです。Googleが検索とGeminiで入口を押さえても、最後の決済と物流をAmazonが握っていれば、ショッパーの旅は途中で陣営をまたぐことになります。Universal Cartが「検索からGoogle Payでのチェックアウトまで」を一気通貫で設計しているのは、この出口をAmazonに渡さないための布石にほかなりません。
TikTok ShopとMetaが変えた競争の温度感
Googleがここまで動いた背景には、ソーシャルコマースからの圧力があります。パフォーマンス特化のデジタルエージェンシーMax Connect DigitalのPhil Case氏は、Googleの一連のUCP更新について「TikTok ShopやMetaから出てくる膨大な取引と買い物のボリュームを見て、『その一部が欲しい』と言っているのだ」と分析しています。
その数字は無視できる規模ではありません。TikTok Shopは2026年に米国EC売上で234億ドルを見込み、前年比48%の成長が予測されています。Wall Street Journalがe-commerceデータ企業Charm.ioを引用した報道では、すでに米国だけで49億ドルの売上を牽引しているとされます。TikTok Shopの強さは、クリエイターが商品を実演し、視聴者がタグをタップしてそのまま購入するという、発見から購買までの摩擦のなさにあります。
Metaも手をこまねいているわけではありません。2026年3月には、GeminiやChatGPTに対抗すべくAIチャットボットでショッピングリサーチ機能をテストしているとBloombergが報じました。かつてChatGPTのInstant Checkoutもウェブ横断の決済を試みましたが、加盟店手数料モデルが普及を阻み縮小に追い込まれています。各社が異なる強みと異なる収益モデルで参入してきた結果、エージェンティックコマースは特定の勝者が決まらないまま、接点の奪い合いが続く構造になっています。
EC事業者にとって重要なのは、この多極化が「どこか一社に賭ければよい」という選択肢を奪っている点です。発見はGoogleやTikTokで起こり、比較はGeminiやChatGPTで行われ、購買完結はAmazonや自社サイトで起こる。ショッパーの旅は複数の陣営をまたいで進むようになっています。
| 項目 | Google(Gemini) | Amazon(Alexa for Shopping) | TikTok Shop |
|---|---|---|---|
| エージェントの性格 | 水平型(横断的) | 垂直型(自社ドメイン内) | 垂直型(コンテンツ起点) |
| 主な接点 | 検索・YouTube・Gmail・Gemini | Amazon検索・Alexa端末 | 短尺動画・ライブ配信 |
| コマースプロトコル | UCP(Universal Commerce Protocol) | 独自エコシステム+Buy for Me | クローズドな自社基盤 |
| 事業者の立ち位置 | 仲介役の先にいる供給者 | マーケットプレイス出品者 | クリエイター連携の販売者 |
| 強み | 発見と購買意図のデータ量 | 購買完結率と物流 | 発見からの高い転換率 |
| 事業者のリスク | 仲介手数料と表示優先度の変動 | プラットフォーム依存 | アルゴリズムとトレンド依存 |
覇権を阻むのは技術ではなく消費者の不信
各社が「消費者の意思決定の管理人になりたい」と競い合う一方で、最大の障壁は技術でも競合でもなく、ショッパー自身の不信感です。Schonthal氏の言葉を借りれば、プラットフォームは取引の場であるだけでなく「消費者の意思決定のデジタルな執事」になろうとしています。しかしその執事に、消費者はまだ鍵を渡したがっていません。
QuadとThe Harris Pollの調査では、米国人の54%が「AIに買い物履歴へのアクセスを許すことに魅力を感じない」と回答し、73%が「AIが個人の買い物データをどう使うかに不安を感じる」と答えています。別の2026年の調査でも、自律的に購入まで行うAIエージェントに対して55%が不快感を示すという結果が出ており、消費者の心理的なハードルは下がるどころか、自律性が高まるほど上がる傾向すら見られます。
この不信は、水平型と垂直型のどちらに有利に働くのでしょうか。膨大な生活データを横断的に握る水平型ほど、プライバシー懸念の標的になりやすい構造があります。逆にAmazonのような垂直型は、すでに買い物の文脈に閉じた信頼を築いているぶん、データ利用への抵抗が相対的に小さい可能性があります。覇権争いの勝敗は、機能の優劣ではなく「どこまでショッパーに信頼を委ねてもらえるか」で決まる局面に入りつつあります。
EC事業者にとってこれは、プラットフォーム選定だけでなく自社の振る舞いにも直結する論点です。AIエージェント経由の取引が増えるほど、推薦が広告で買われたものなのか、データがどう扱われているのかという透明性への要求は強まります。プラットフォームの不信を、自社ブランドへの不信に転嫁させない設計が問われます。
EC事業者が今、設計すべき備え
この覇権争いに対して、特定のプラットフォームへ最適化を集中させるのは危険な賭けです。勝者が定まっていない以上、複数の接点に分散して備える設計が現実解になります。
最優先は、どのエージェントからも読み取られる構造化された商品データの整備です。価格、在庫、レビュー、配送条件を正確にマークアップしておけば、GoogleのUCPでもAmazonのアシスタントでも、推薦候補として拾われる確率が高まります。GoogleのUCPはAP2やA2A、MCPといった業界標準と相互運用できる設計になっており、標準に沿ったデータ整備は複数陣営への同時対応につながります。
次に、流入経路ごとの計測と評価を分離してください。GeminiからのリファラルとTikTok Shopからの売上では、ショッパーの意図も利益構造もまるで違います。AIチャネルを一括りにせず、GA4のカスタムチャネルなどで陣営別にROIを可視化することが、限られたリソースの配分判断を支えます。
そして仲介役への依存度を常に点検することが欠かせません。WHITE64のメディア戦略担当VP Alicia Gehring氏が懸念したのは、まさにチャレンジャーブランドが「採算の合うコストで関心の高いショッパーを引き寄せ続けられるか」という点でした。Googleが仲介手数料や表示優先度を握る以上、その条件変更が自社の採算を左右します。発見の入口を一社に握られた状態は、交渉力の喪失そのものです。
まとめ
GoogleのUniversal Cartは、単なる新機能ではなく、ショッパーの旅全体を囲い込もうとする宣言でした。しかしその試みは、AmazonのAlexa for Shopping、TikTok Shop、Metaという異なる強みを持つ陣営との多極的な争いの中にあります。競争の軸は水平型エージェントと垂直型エージェントの主導権争いであり、最後の関門は消費者の不信です。EC事業者に求められるのは、勝者を予測して賭けることではなく、どの陣営が伸びても拾われる構造化データと、陣営別の計測、そして仲介依存への警戒を組み合わせた、分散と透明性の設計です。





