2026年5月20日

Google I/O 2026でUniversal Cart発表――SearchもGeminiもYouTubeも横断する「エージェンティック・カート」の衝撃

この記事のポイント

  1. Googleは2026年5月19日のI/O 2026で、Search・Gemini・YouTube・Gmailを横断する新カート「Universal Cart」を発表。価格追跡・在庫アラート・互換性チェックまでをAIが自動で行う
  2. Universal Commerce Protocol(UCP)はカナダ・オーストラリアへ拡大、ホテル予約や宅配にも垂直展開。AP2(Agent Payments Protocol)はGemini Sparkから順次導入される
  3. EC事業者にとっては「ブランドがMerchant of Recordである」設計が維持される一方、Googleエコシステム内で購買が完結する流れは加速。UCP・ACP双方への対応が事実上必須となる

Universal Cartが切り開く「エージェンティック・ショッピング」の入口

2026年5月19日、Googleは年次開発者会議Google I/O 2026で、エージェンティックコマースの中核となる新機能「Universal Cart(ユニバーサル・カート)」を発表しました。Googleでは1日あたり10億回以上の買い物関連検索が行われ、その背後には600億点超の商品リスティングを抱えるShopping Graphが存在します。Universal Cartは、この膨大なグラフとGeminiモデルをつなぎ、「カート」というオブジェクト自体をAIに置き換える試みだといえます。

Googleの広告・コマース担当VP兼GMであるVidhya Srinivasan氏は公式ブログで「Universal Commerce Protocolという共通言語と、エージェンティック決済を滑らかにするインフラを土台に、それらをひとつにまとめる次のステップがUniversal Cartだ」と位置づけています。発表内容は単なる新機能というより、Googleがこの数年積み上げてきたUCP・AP2・Geminiの統合点であり、エージェンティックコマースの実装フェーズへの本格移行を意味するアナウンスです。

カート自体が「買い物の伴走者」に変わる

Universal Cartの最大の特徴は、特定のサイトやアプリに紐づかない横断型カートである点です。ユーザーはGoogle検索の結果画面、Geminiとのチャット、YouTubeで観ている動画、さらにはGmailで届いたニュースレターからも、同じカートに商品を追加できます。「複数デバイス・複数リテーラー・数日間にまたがる買い物」という現代の消費者行動を、ひとつのコンテナで受け止める設計です。

TechCrunchは、Universal Cartの本質を「AIアシスタントを受動的なレコメンダーから能動的なコマース参加者へ転換させる試み」と評しています。商品をカートに入れた瞬間からGeminiモデルがバックグラウンドで動き始め、値下げを検出し、価格履歴を提示し、在庫が戻れば通知する。さらに自作PCのパーツを複数の小売店から集めた場合には、CPUとマザーボードの互換性まで自動でチェックし、合わないパーツがあれば代替案を提示します。

決済面では、Universal CartはGoogle Walletの上に構築されており、ユーザーのクレジットカード特典・ロイヤルティ情報・マーチャント側オファーまで踏まえて、最も得な購入方法を提案します。会計はGoogle Payでそのままタップするか、マーチャントのサイトに商品ごと送って完了させるかを選択できますが、いずれの場合もブランドがMerchant of Record(取引の記録主体)であり続けることが明確に保証されています。

Chain Store Ageが報じているとおり、Nike、Sephora、Target、Ulta Beauty、Walmart、Wayfairに加え、Fenty・Steve MaddenといったShopifyマーチャントも初期からチェックアウト機能に対応します。米国でのSearch・Geminiアプリへのロールアウトは2026年夏から、YouTubeとGmailへの拡張はその後に続く予定です。

UCP拡張:地理的拡大と「ショッピング以外」への越境

I/O 2026のもう一つの目玉が、Universal Commerce Protocolの本格的な拡張です。2026年初頭にNRFで発表されたUCPは、Shopify、Etsy、Wayfair、Target、Walmartらと共同開発されたオープン標準で、Visa・Mastercard・American Express・Stripe・Adyenら20社以上の決済・小売プレイヤーがエンドーサーとして名を連ねています。

今回のI/Oで明らかになった更新は大きく3点あります。第一に、UCP対応のチェックアウト体験を米国に続いてカナダ・オーストラリアに数か月以内に展開し、英国にも順次拡大すること。第二に、米国のYouTubeにもUCPチェックアウトを持ち込むこと。そして第三に、これまで小売中心だったUCPの守備範囲をホテル予約とローカルフードデリバリーという新カテゴリにまで広げることです。

「コマース」を一般名詞のまま定義し直しに来ているのが見て取れます。Shopify Engineeringも解説しているとおり、UCPはTCP/IPと同様のレイヤードアーキテクチャを採用しており、Shopping Service、Capabilities、Extensionsの3層構造で責任を分離しています。この設計が今、宿泊や飲食のような「異なるドメイン」のスキーマを Extensions として吸収しはじめている、というのが今回の更新の本質的な意味です。

加えて、Tech Council(技術運営委員会)にはAmazon・Meta・Microsoft・Salesforce・Stripeが既に参画しており、UCPはもはやGoogleだけの仕様ではなく、検索・マーケットプレイス・SNS・エンタープライズSaaS・決済を横断する業界標準として固まり始めています。OpenAIとStripeが主導するAgentic Commerce Protocol(ACP)が「チャット内の即時購入」というレイヤーに最適化されているのに対し、UCPはよりインフラ層から商取引そのものを再定義するアプローチです。

AP2:エージェントに「財布」を渡すための安全装置

Universal Cartと並んで重要なのが、Agent Payments Protocol(AP2)のGoogleプロダクトへの統合計画です。AP2はGoogle Cloudが主導するエージェント決済プロトコルで、ユーザー・マーチャント・決済プロセッサーの三者間を、検証可能かつプライバシー保護に配慮した形で結びつけます。

ユーザーはエージェントに対して「このブランドのこの商品を、◯ドルまでなら自動で買って良い」といったガードレールを事前に設定します。条件が満たされたときだけエージェントは購入を実行し、その取引には改ざん不可能なデジタル・マンデート(digital mandate)が紐づきます。返品が必要になっても、ユーザー・マーチャント双方が同一の取引記録を参照できるため、責任の所在が明確になります。

I/Oでの発表によれば、AP2はまずGemini Sparkから段階的にGoogleプロダクトに組み込まれていきます。これは、ChatGPTのInstant CheckoutにおけるStripeのShared Payment Token(SPT)に相当する役割を、Googleエコシステム側で担う仕組みです。Grid Dynamicsなど複数のテクノロジー企業がACPとAP2を比較する解説を出し始めていますが、両者は競合というより異なる粒度の安全装置として共存していくことになりそうです。

競合プロトコルとの位置取り:UCP・ACP・MCPの三角形

エージェンティックコマースを巡る標準化競争は、いよいよ「どのレイヤーで戦うか」の地殻変動に入っています。

OpenAIとStripeのACPは、ChatGPTのInstant Checkoutを通じてEtsyやWalmart、約100万のShopifyマーチャントを取り込み始めており、「チャット内で完結する即時購入」というアプリケーション層に強みを持ちます。一方、AnthropicのModel Context Protocol(MCP)はエージェントとツール間のコンテキスト共有を担う基盤レイヤーで、コマース固有ではなく汎用です。

そしてUCPは、商品発見から決済、ポスト購入までを通貫するインフラ層のフレームワークとして、両者の真ん中を埋める位置に立っています。Checkout.comの整理によれば、ACPは「チェックアウトの会話」、UCPは「ショッピング・ジャーニー全体」を標準化する設計だとされます。実装難易度はACPの方が低く(数時間〜半日で接続可能)、UCPは設計を理解した上での実装が必要になりますが、その分カバレッジは広い、というトレードオフです。

paz.aiの調査では、両プロトコルに対応した「デュアル対応マーチャント」は、いずれか一方のみのマーチャントに比べ、エージェント由来トラフィックが最大40%多いとも報告されています。Walmart、Etsy、Shopifyのような有力プレイヤーが既にUCP・ACP双方に乗っているのは、こうした実利を計算してのことです。

EC事業者にとってのUniversal Cart:3つの論点

Universal Cartの登場は、日本のEC事業者にとっても他人事ではありません。UCPの本格展開は当面北米・豪・英中心ですが、Shopify経由でUCPに繋がる経路は、Shopifyを基盤に持つ国内マーチャントにも近い将来確実に降りてきます。今のうちに整理しておきたい論点は3つあります。

第一に、「カート」を自社の外に置かれることの意味です。Universal Cartでは、消費者はマーチャントのカートに入る前にGoogleのカートに商品を入れます。そこで価格・在庫・互換性・特典がGoogleのアルゴリズムによって比較されるため、自社サイトに来てから出される情報は「すでに比較された後の結果」になります。商品データの正確性、Merchant Centerでの構造化、リアルタイムな在庫・価格更新が、競争力そのものになります。

第二に、Merchant of Recordという立て付けは守られるが、顧客接点は薄まるという点です。Googleの設計上、購入後のCRMや配送体験はマーチャントの責任ですが、商品発見〜カート〜決済はGoogleのサーフェスで起きます。LTVを伸ばすためには、購入後の顧客接点で「Google経由で来た顧客とどう関係を再構築するか」を設計し直す必要があります。

第三に、マルチプロトコル戦略です。UCPだけ、あるいはACPだけに賭けるのは賢明ではありません。GoogleのUniversal CartはSearch・Gemini・YouTube・Gmail、ACPはChatGPTやその先のサードパーティアプリといったように、消費者の購買接点は分散しています。決済基盤としてStripeやAdyenを使い、Shopifyや独自カートでUCP・ACPのどちらにも接続できる体制を整えるのが現実解になります。

まとめ

Universal Cartは、Googleがこの数年積み上げてきたUCP・AP2・Geminiという要素を、ようやく消費者の手元にある「カート」という単純なオブジェクトに集約した発表でした。AIが商品を選び、価格を交渉し、決済までを安全に代行する世界の輪郭が、I/O 2026を境にかなりはっきりしてきたといえます。

EC事業者にとっての論点は、もはや「エージェンティックコマースに参入するかどうか」ではなく、「自社の商品データ・在庫・決済・CRMを、Universal CartとACPの両方から見られても破綻しない形に整えられるか」です。UCPとACPは競合しながら補完し合い、両者の上にAP2のようなエージェント決済プロトコルが乗っていく――そうした多層構造を前提に、自社のコマーススタックを設計し直す時期に入りました。「カートはもうマーチャントだけのものではない」という現実から、2026年下半期の事業計画は始まります。