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2026年1月21日

Home Depot、Wayfair、PayPalが語るエージェンティックAIの未来 ― NRF 2026パネルから読み解く小売変革

目次
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この記事のポイント

  1. Home Depot、Wayfair、PayPalの幹部がNRF 2026でエージェンティックAI戦略を公開
  2. AIエージェントが購買の20%に関与する時代、小売業の顧客体験が根本から変化
  3. EC事業者は「発見から決済」までの一貫したAI体験構築を今すぐ検討すべき

米小売大手3社がNRF 2026でエージェンティックAI戦略を公開

2026年1月12日、米国最大の小売業界イベント「NRF 2026: Retail's Big Show」において、Home Depot、Wayfair、PayPalの幹部が登壇し、エージェンティックAIへの取り組みを語りました。パネルディスカッション「The rise of agentic commerce: What AI means for the future of shopping」には、Home Depot CIOのAngie Brown氏、Wayfair CTOのFiona Tan氏、PayPal VP of Agentic CommerceのMike Edmonds氏が参加しています。

エージェンティックAI(自律型AI)とは、ユーザーに代わって「発見・比較・購入」までを自律的に実行できるAIエージェントのことです。2025年のサイバーウィークでは、AIエージェントが全注文の20%に関与し、世界で670億ドルの売上を創出しました。

背景と業界動向

エージェンティックコマースは、もはやバズワードではありません。IDCの予測によれば、2026年にはエージェンティックAIがIT支出の10〜15%を占め、2029年には26%(約1.3兆ドル)に達する見通しです。

NRF 2026では、Googleが「Universal Commerce Protocol(UCP)」を発表し、AIエージェントによるシームレスな購買体験の標準化を推進。Walmart、Target、Best Buy、Home Depot、Macy'sなど20社以上が参画を表明しています。一方、MicrosoftはCopilot Checkoutを発表し、会話インターフェース内での決済完結を実現しました。

こうした技術基盤の急速な整備を背景に、小売各社は「エージェンティックAIとどう向き合うか」という戦略的判断を迫られています。

3社のエージェンティックAI戦略

Home Depot:プロジェクト支援型AIの構築

Home Depot CIOのAngie Brown氏は、同社のエージェンティックAI戦略について次のように語りました。「目標は、顧客とアソシエイト(店舗スタッフ)の両方に響くエージェンティック体験を学ぶことです」。

同社が目指すのは、単なる商品検索を超えたAI体験です。顧客がDIYプロジェクトをより深く理解し、計画段階から完成までをAIがサポートする「プロジェクト支援型」の体験構築を進めています。例えば「バスルームのリフォーム」と伝えれば、必要な材料・工具のリストアップから作業手順の説明まで、一貫したガイダンスを提供する仕組みです。

Wayfair:会話型コマースへの転換

Wayfair CTOのFiona Tan氏は、「消費者と共に学ぶことに注力している」と述べました。1年前にはほぼ存在しなかったエージェンティックAIが、今では多くの顧客がサイト外でリサーチを完了し、取引まで行う状況を生み出しています。

Tan氏は検索体験の変革について言及しています。「過去20年間、検索体験は制約されてきました。検索バーに数語を入力し、フィルターをいくつか設定し、サイト内を数クリックするだけ。今では会話型インターフェースを通じて、商品発見を超えた体験が可能になっています」。

WayfairはGoogle Cloud Shopping Graphとの統合により、AIエージェントが同社の膨大な家具・インテリアカタログにアクセスし、顧客の好みに基づいたパーソナライズド提案を実現しています。

PayPal:「信頼」を軸にした決済インフラの提供

PayPal VP of Agentic CommerceのMike Edmonds氏は、エージェンティックAIが従来のデジタル体験を完全に置き換える可能性は低いとの見解を示しました。「最も煩わしい、または時間のかかる取引をエージェントが担当するかもしれませんが、ショッピングの大部分は人間の体験として残るでしょう」。

一方で、Edmonds氏は「発見からチェックアウトへの移行は全く別の課題」と指摘。PayPalは「信頼」を核心価値として、エージェンティックコマース時代の安全な決済基盤を提供する方針です。同社はMicrosoftのCopilot Checkoutと統合し、AIチャット内での決済完結を可能にしました。

さらにEdmonds氏は、「中小企業がエージェンティックAIにアクセスできるよう民主化する」ことの重要性を強調。大手小売が先行投資を進める中、人材と資本の不足で取り残されがちな中小事業者への支援を打ち出しています。

EC事業者への影響と活用法

今すぐ検討すべき3つのアクション

  1. 商品データの構造化とAPI対応

GoogleのUCPやMicrosoftのCopilot Checkoutへの対応には、商品データの構造化が必須です。Shopifyマーチャントは自動的にCopilot Checkout対応となる一方、独自ECサイトは早急な対応が求められます。商品属性(サイズ、色、素材、在庫状況)を機械可読形式で整備し、AIエージェントからのクエリに応答できる体制を構築してください。

  1. 会話型コマースへの導線設計

IBMの調査によれば、顧客の72%が依然として実店舗で買い物をし、45%がAIの支援を求めています。オムニチャネル戦略に会話型インターフェースを組み込み、「チャットで相談→店舗で確認→オンラインで購入」といったシームレスな体験を設計することが重要です。

  1. 信頼性の担保と人間対応の維持

PayPalのEdmonds氏が指摘するように、「ショッピングの多くは人間の体験として残る」のが現実です。AIと人間のハイブリッド対応体制を整え、複雑な問い合わせや感情的なケースには人間が対応できる仕組みを維持してください。

導入時期と市場予測

UCPは米国で先行導入が開始されており、国際展開は2026年後半の見込みです。McKinseyの予測では、エージェンティックコマースは2030年までに世界で5兆ドルの小売売上を牽引する可能性があります。

まとめ

Home Depot、Wayfair、PayPalの3社は、それぞれ異なるアプローチでエージェンティックAIに取り組んでいます。Home Depotはプロジェクト支援型体験、Wayfairは会話型コマースへの転換、PayPalは信頼を軸にした決済基盤の提供という戦略です。

共通しているのは、「AIが人間を完全に置き換えるのではなく、補完する」という現実的な視点です。Edmonds氏の言葉を借りれば、「ショッピングには人々が愛する部分が多くあり、当面はそれが続く」のです。

EC事業者にとって重要なのは、今すぐ商品データの構造化とAPI対応を進め、GoogleやMicrosoftのエージェンティックコマース基盤への接続準備を整えること。2026年は「準備の年」であり、対応の遅れは将来の競争優位性を大きく左右することになるでしょう。