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2026年4月2日

Macy'sがGoogle Gemini搭載AIショッピングアシスタントを本格展開、利用者の購入額が約5倍に

目次
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この記事のポイント

  1. Macy'sがGoogle Geminiベースの会話型AIアシスタント「Ask Macy's」を全デジタルチャネルで展開
  2. テスト期間中、AI利用者の購入額が非利用者の約4.75倍に達し、具体的なROIを実証
  3. Gap、Wayfair、Walmartなど大手小売もGemini採用を加速、エージェンティックコマースが本格化

Macy'sが会話型AIショッピングアシスタントを正式展開

米百貨店大手Macy'sは2026年3月、Google Geminiを基盤とした会話型AIショッピングアシスタント「Ask Macy's」を全デジタルチャネルで正式展開しました。Shoptalk 2026の講演で、同社の最高顧客・デジタル責任者であるMax Magni氏が詳細を発表しています。

Ask Macy'sは2025年12月にパイロットを開始し、2026年3月にECサイトとアプリの両方で本格稼働しました。顧客は人間の販売員と会話するように、自然言語で商品を探したりスタイリングの提案を受けたりすることができます。

背景と業界動向

Macy'sがAIアシスタントを導入する背景には、小売業界全体で進む「エージェンティックコマース」の潮流があります。Googleは2026年1月のNRF(全米小売業協会)年次大会で、Gemini Enterprise for CXを発表しました。これは商品発見からカスタマーサービスまでを一元化するエージェンティックAIプラットフォームです。

同時に発表されたUniversal Commerce Protocol(UCP)は、Shopify、Etsy、Wayfair、Target、Walmartと共同開発されたオープン標準です。商品発見から購入、購入後対応まで、ショッピングの全工程をAI経由で完結させることを目指しています。Macy'sのAsk Macy'sは、この「AIが買い物を代行する時代」への具体的な一歩といえます。

Ask Macy'sの機能と驚異的な成果

主要機能

Ask Macy'sは単なる検索ツールではありません。Magni氏は「これは検索ではなく、キュレーションされた発見だ」と説明しています。顧客が「マイアミでの春の結婚式に着るドレスを150ドル以下で探している」と入力すると、AIが商品を提案し、アクセサリーや靴を含む「コーディネート提案」まで行います。

最も利用されている機能は、コーディネート提案(Complete the Look)とバーチャル試着です。バーチャル試着では、AIが顧客の体型に合わせて商品の着用イメージを生成します。Macy'sは2024年にニューヨーク旗艦店のディズニープリンセスショップでZero10のAR試着技術を導入しており、今回のデジタル試着はその延長線上にあります。

購入額4.75倍の衝撃

Bloombergの報道によると、テスト期間中にAsk Macy'sを利用した顧客の購入額は、非利用者の約4.75倍に達しました。約半数のWebサイト訪問者を対象にしたA/Bテストで得られたデータです。

Magni氏はこの結果について、「AIを使う顧客はイベント用の服など具体的な目的を持って訪問している場合が多い」と分析しています。ただし、コーディネート提案によるクロスセル効果も大きく寄与していると考えられます。

開発で得られた知見

開発には数千人の従業員が参加しました。当初のバージョンでは、地域ごとの気候差を考慮していなかったという課題がありました。フロリダの顧客とニューヨークの顧客に同じ提案をしてしまう問題です。こうしたフィードバックを反映し、パーソナライゼーションの精度を高めています。

Geminiを採用する小売大手の動向

Macy'sだけでなく、Google Geminiを活用する大手小売は急速に増えています。

Gapは2026年3月、Gemini上での直接チェックアウトを発表しました。Old Navy、Banana Republic、Athletaを含む全ブランドがUCPを採用し、Google Geminiから離脱せずに購入を完了できる仕組みを構築しています。大手ファッション企業として初の取り組みです。

WayfairはUCPの共同開発パートナーとして、Google AI Mode内での直接購入を実現しています。WalmartもGoogleと提携し、Geminiの知能とWalmartの品揃えを組み合わせた新しいショッピング体験を提供しています。DoorDashもGeminiアプリ内でのAI注文パイロットを開始しています。

EC事業者への影響と活用法

Ask Macy'sの成果は、AIアシスタントがECの「販売員」として機能し始めていることを示しています。EC事業者が注目すべきポイントは以下の3点です。

商品データの構造化が急務です。AIアシスタントが適切な提案を行うには、商品属性(カテゴリ、素材、用途、シーン)が整理されている必要があります。「春の結婚式向け」といった自然言語での検索に対応するには、従来のキーワード型SEOとは異なるデータ設計が求められます。

UCPへの対応を検討すべきです。GoogleのUniversal Commerce Protocolは、AIエージェント経由の購入を標準化するオープン規格です。Shopifyなど主要プラットフォームも対応を進めており、中小規模のEC事業者にとっても無視できない流れです。

クロスセル戦略の再設計が必要です。Macy'sの「コーディネート提案」が購入額を押し上げたように、AIによるコンテキストを理解した関連商品の提案は、従来のレコメンドエンジンよりも高い効果を発揮する可能性があります。

まとめ

Macy'sのAsk Macy'sは、エージェンティックコマースが「コンセプト」から「実証済みの収益ドライバー」へと進化したことを示す象徴的な事例です。購入額4.75倍という数字は、AIアシスタントが顧客体験と売上の両方を変革する力を持つことを証明しています。

今後注目すべきは、UCPの普及速度とAIチェックアウトの標準化です。Googleは「2026年、エージェンティックコマースはもはやコンセプトではなく現実だ」と宣言しています。自社のEC基盤がこの新しい購買チャネルに対応できるか、早期の検討が求められます。