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2026年4月21日

Mondelezがエージェンティックコマース専任リーダーを新設――「2028年にサイトトラフィックの30%がAIエージェント経由」に備える戦略

この記事のポイント

  1. Mondelezがエージェンティックコマース専任の「グローバルリード」ポストを新設し、AIショッピングボットへの全社的な戦略構築とパイロット運用を推進
  2. 同社の小売パートナーは2028年までにサイトトラフィックの30%がAIエージェント経由になると予測しており、McKinseyは2030年のエージェンティックコマース市場を3〜5兆ドルと試算
  3. ブランド側が今すぐ取り組むべきは、AIクローラー対応のサイト最適化、MCPサーバーによる構造化データの提供、そしてGEO戦略の整備

Mondelezが「AIエージェント時代」の専任ポストを新設

Oreo、Cadbury、Sour Patch Kidsを擁する菓子大手Mondelezが、エージェンティックコマース専任のグローバルリーダー職を新設しました。正式なタイトルは「Global Lead of Emerging Commerce Platforms」。2026年2月にLinkedInで公開された求人情報によると、グローバル戦略の策定、パイロット運用、そしてスケーラブルなプレイブックの構築が主な役割です。

この動きの背景には、同社のデジタルコマース部門を統括するAndrew Lederman VP(グローバルデジタルコマース担当バイスプレジデント)の強い危機感があります。35億ドル規模のデジタルコマース事業を率いるLedermanは、Digiday Podcastで次のように語っています。

起きるかどうかに疑問の余地はあまりありません。問題は「いつ」起きるかだけです。

単なるポスト新設にとどまらない点が重要です。Mondelezの小売パートナーは、2028年までにサイトトラフィックの30%がAIエージェント経由になると同社に伝えています。Lederman自身も、1〜2年以内にMondelez製品の購入の20〜30%がエージェント経由で行われると見込んでいます。これは遠い未来の話ではなく、すでに始まっているシフトへの対応です。

3〜5兆ドル市場のインパクト

エージェンティックコマースとは、AIエージェントが消費者に代わって商品を検索、比較、購入するコマースの形態です。従来の「検索してクリックして買う」という行動パターンが、「AIに指示して任せる」へと変わります。

McKinseyの試算によると、2030年のグローバル市場規模は3兆〜5兆ドル。米国の小売に限っても最大1兆ドルに達する見通しです。FlywheelのMike O'Donnell SVP(イノベーション・ビジネストランスフォーメーション担当)は、これを「モバイル以来、Eコマースで最も破壊的なシフト」と位置づけています。

すでにプラットフォーム側は動き始めています。Amazonの買い物アシスタント「Rufus」は2025年11月にAuto-Buy機能を追加し、ユーザーが設定した目標価格に達すると自動購入を実行します。月間利用者は2.5億人を超え、年間120億ドルの増分売上を生み出しました。Googleは2026年1月のNRFでUniversal Commerce Protocol(UCP)を発表し、Shopify、Target、Walmartを含む20社以上のパートナーとともにAIエージェントが決済まで完結できる共通基盤を構築しています。

一方で、すべてが順調に進んでいるわけではありません。OpenAIのInstant Checkout機能は2025年9月の提供開始からわずか半年で方向転換を余儀なくされ、WalmartではAIチェックアウト経由のコンバージョン率が自社サイトの3分の1に低迷しました。エージェントを通じた「発見」と「購入」は、まだ同じスピードでは進んでいません。

Mondelezが進める3つの技術対策

Mondelezのアプローチが注目に値するのは、バズワードへの便乗ではなく、具体的な技術インフラの整備から始めている点です。

第一に、AIクローラーへのサイト開放です。LedermanはDigiday Podcastで「AIクローラーがサイトをクロールできなければ、他の何をやっても意味がない」と断言しています。Mondelezはクリーンなサイトマップ、適切なrobots.txt、高速なページ読み込み、そして機械可読なコンテンツの整備を最優先で進めました。

第二の柱は、一貫した商品データの構築です。ブランドサイト、アーンドメディア、各オンラインチャネルにわたって、構造化された商品ナレッジを統一する作業に取り組んでいます。

人間がOreoやCadburyやMilkaを思い浮かべるときのイメージを、AIが同じように理解できるようにしなければなりません。これは簡単なことではありません。

第三に、AIネイティブコンテンツの拡充です。従来の「クッキー」というキーワード検索だけでなく、「スナック全般」という広いカテゴリでAIに発見されるためのコンテンツを拡大しています。実際、クッキー特化の検索ではOreoの出現率が約70%であるのに対し、より広い「スナック」クエリでは約30%にとどまっており、この差を埋めることが戦略の焦点です。

業界が直面する「ウォールドガーデン問題」

Mondelezの動きを業界全体のなかで捉えると、もう一つの構造的課題が浮かび上がります。エージェンティックコマースの世界は、統一されたオープンなエコシステムではなく、複数のウォールドガーデン(囲い込み型プラットフォーム)に分断されつつあるのです。

消費者の一部はAmazon Rufusで買い物をし、別の消費者はWalmartのSparkyを使い、さらに別のグループはChatGPTやGeminiのようなスタンドアロンAIを経由します。VMLのLeah Sallen マネージングディレクター(リテール・コマースメディア担当)は、Digidayで「ソーシャルコマースすらまだ解決していないのに、今度はソーシャルコマースにエージェンティックとAIが加わる」と指摘しています。

こうした分断に対して、業界からは2つのアプローチが生まれています。一つはGoogleのUCPのようなオープンプロトコルによる標準化。もう一つは、FlywheelのクライアントがOpenAIに対してMCP(Model Context Protocol)サーバー経由で商品データを直接供給する事例に見られるように、個別のAIプラットフォームとの直接接続です。MCPはAnthropicが策定したプロトコルで、LLMが外部のデータソースやAPIと安全に接続するための標準規格です。ブランド側がMCPサーバーを構築すると、在庫状況、価格、フルフィルメント情報をリアルタイムでAIに提供でき、エージェントの回答精度が向上します。

Mondelezが「専任リーダー」を置く意味は、こうした複数のプラットフォーム戦略を一元的にマネジメントする必要性そのものです。

EC事業者が今すぐ始めるべきこと

Mondelezのような大手CPGだけの話と思うのは早計です。エージェンティックコマースの波は、規模を問わずすべてのブランドに影響します。

まずはAIクローラーへの対応確認から始めてください。robots.txtでAIボットをブロックしていないか、構造化データ(JSON-LD)が正しく実装されているか、ページの読み込み速度は十分かを確認します。Mondelezが「他の何をやっても意味がない」と言い切った通り、これがすべての出発点です。

次に取り組むべきは、GEO(Generative Engine Optimization)戦略の策定です。従来のSEOがGoogleの検索結果での上位表示を目指したのに対し、GEOはAIエージェントの回答に自社ブランドが引用される確率を高めることを目指します。Mondelezが計測している「AIプラットフォームでの出現率」や「引用率」「センチメント」は、EC事業者にとっても今後の重要KPIになります。

中長期的には、UCPやMCPへの対応を視野に入れた技術ロードマップの整備が必要です。特にShopifyを利用している事業者にとっては、ShopifyがUCPに正式対応したことで、比較的早期にエージェンティックコマースのエコシステムに参加できる道が開けています。

まとめ

35億ドル規模のデジタルコマースを抱えるMondelezが、エージェンティックコマース専任のリーダーを置くという判断は、このシフトがもはや「検討段階」ではないことを示しています。FlywheelのO'Donnellが語った「今日の現実と、まだ見えていない明日の可能性がある」という言葉の通り、確実に来る変化に対して、今インフラを整える企業と待つ企業の差は、2028年に明確な結果として現れるでしょう。