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2026年1月22日

SAPがエージェンティックAIによる商取引の変革を包括分析、「発見・決済・信頼」の3軸で小売業の未来を提示

目次
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この記事のポイント

  1. SAPがエージェンティックAIによる商取引変革の包括的分析を公開
  2. AIエージェントが消費者に代わり商品選定・購入を実行する時代が到来
  3. EC事業者はAIに「読み取られる」データ基盤整備が急務に

SAPがNRF 2026で新世代AIリテールソリューションを発表

2026年1月、SAPは世界最大の小売業界イベント「NRF 2026: Retail's Big Show」において、エージェンティックAIが商取引をどのように変革するかについて包括的な分析を公開しました。同社は「発見(Discovery)」「決済(Payments)」「信頼(Trust)」の3軸で整理し、小売業者が今すぐ取るべき実践的なステップを提示しています。

SAPの顧客体験・消費財部門 社長兼最高製品責任者であるBalaji Balasubramanian氏は「小売業者はAIがもはやオプションではない状況に直面している」と述べています。同氏は「SAPは計画・実行・エンゲージメントを統合した、一つの閉ループ型AI強化リテールオペレーティングシステムを提供する」と強調しました。

背景と業界動向

エージェンティックAIとは、単なる情報提供にとどまらず、ユーザーに代わって自律的に行動し、タスクを完遂するAIを指します。2025年がAIによる「商品説明」の年だったとすれば、2026年は「AIエージェントが購買を決定する年」になるとeMarketerは分析しています。

McKinseyの予測によれば、エージェンティックコマースは2030年までに世界の小売支出のうち3兆〜5兆ドルをリダイレクトする可能性があり、そのうち約1兆ドルは米国市場からとされています。すでに全検索の約6%がAIパワード検索エンジンを経由しており、小売業者へのAIソースからのトラフィックは前年比1,200%増加しています。

この変革は単なる技術トレンドではありません。Amazon、Google、Microsoft、OpenAIなど主要プレイヤーが相次いでエージェンティックコマース機能を発表しており、「誰のAIエージェントがショッピングのデフォルトインターフェースになるか」という激しい競争が始まっています。

SAPが提示する3つの変革軸

発見(Discovery)の変革

従来の商品検索は、消費者が複数のタブを開き、何十ものレビューを読む作業でした。エージェンティックAIの時代には、消費者はエージェントに「ニーズを理解し、市場をスキャンし、価格・配送・サステナビリティ・返品ポリシー・過去の購入履歴を考慮して、信頼できる推奨を返してほしい」と依頼するだけで済みます。

SAPはこの変化に対応するため、Commerce Cloudの一部として「Storefront Model Context Protocol(MCP)サーバー」を導入します。これにより、小売業者は商品・価格・在庫・プロモーション情報をAIシステムが直接理解できる形式で公開できます。ChatGPTなどのAIプラットフォーム上で、真の「チャネルレス・コマース体験」を実現する基盤となります。

決済(Payments)の変革

Mastercardのアジア太平洋コア決済担当EVPは「商取引の大きなシフトは、実店舗からeコマースへの移行で起きた。今、eコマースからエージェンティックコマースへの次のシフトが起きている。現金からデジタルへ、そしてデジタルからインテリジェントへ」とCNBCに語っています。

決済大手のVisaは「Intelligent Commerce」プラットフォームを通じて、AIエージェントによる安全な決済を実現します。48億の決済資格情報、1億5000万以上の加盟店ネットワークを活用し、トークン化・認証・モニタリングによる多層防御を実装。さらに「Trusted Agent Protocol」により、10社以上のパートナーと連携して正規のAIエージェントと不正ボットを識別します。

OpenAIもAgentic Commerce ProtocolをStripeと共同開発し、ChatGPT上でEtsyやShopify加盟店からの直接購入を可能にする「Instant Checkout」機能を米国で展開開始しました。

信頼(Trust)の構築

消費者調査によると、88%が明確なソーシング情報を、87%が検証済みレビューを、75%がAI回答の生成方法の理解を求めています。Forresterの調査では、AIアンサーエンジン経由での決済完了に同意する消費者は約3分の1にとどまり、データプライバシーへの懸念が主な理由です。

OpenAIは「エージェンティックコマースは信頼の上に構築されるべき」として、「ユーザーがコントロールを維持し、行動が実行される前に各ステップを明示的に確認する」設計を採用しています。GoogleのAP2(Agent Payments Protocol)は、暗号署名されたデジタル契約「マンデート」を導入し、ユーザー指示の改ざん防止と検証可能性を担保します。

EC事業者への影響と活用法

IDC Retail InsightsのVice President、Ananda Chakravarty氏は「SAPの差別化ポイントは、バックグラウンドで動作し、データを接続し、エージェントをオーケストレーションする包括的なエージェンティック・オペレーティングシステムを提供している点だ」と評価しています。

SAPが2026年にリリースする具体的なソリューションは以下の通りです。

Retail Intelligence Solution(2026年前半リリース予定) SAP Business Data Cloudの一部として提供されます。販売・在庫・顧客・サプライヤーからのリアルタイムデータを統合し、AIによるシミュレーションで需要予測の精度向上、在庫コスト削減、サービスレベル向上を実現します。

Order Reliability Agent(2026年Q2リリース予定) SAP Order Management Servicesの一部として提供されます。注文ステータス、在庫状況、フルフィルメントリスクに関する問題を事前に特定・解決し、顧客への影響を未然に防ぎます。

EC事業者が今すぐ取り組むべきことは「データ基盤の整備」です。Balasubramanian氏は「データ基盤こそがエージェント時代の勝利の鍵だ」と強調しています。AIエージェントに商品情報を正確に伝えるためには、構造化されたデータと、AIが読み取れる形式での公開が不可欠です。

まとめ

エージェンティックAIによる商取引の変革は、もはや将来の話ではありません。Visaは2026年のホリデーシーズンまでに数百万人の消費者がAIエージェントを使って購入を完了すると予測しています。

一方で、Amazon CEOのAndy Jassy氏が指摘するように「これらの体験を完璧にするには誰もが考えているより時間がかかる。2026年はゴールではなく、道のりの一歩だ」という現実もあります。

しかし、その「一歩」に備える事業者と、傍観する事業者の差は決定的なものになるでしょう。SAPが提示した「発見・決済・信頼」の3軸は、すべてのEC事業者がエージェンティックコマース時代への準備状況を点検するための重要なフレームワークといえます。今後はGoogleのUniversal Commerce Protocol(UCP)など、業界標準プロトコルの動向にも注目が必要です。