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2026年4月22日

Visa「Intelligent Commerce Connect」が開くB2B向けAI購買 — 企業調達・請求支払いがエージェント化する

この記事のポイント

  1. Visaが企業向けAI購買のオンランプ「Intelligent Commerce Connect」を公表し、B2B調達・請求支払いの自動化までをエージェンティックコマースの射程に収めた
  2. Visa Acceptance Platformへの一度の統合で、Trusted Agent Protocol・ACP・MPP・UCPの4大プロトコルとVisa以外のカードまでカバーする中立的な設計を採用している
  3. Mastercard Agent Pay、American Express ACEとの三つ巴が鮮明になり、EC事業者は「誰のエージェントにどう見つけられ、誰のレールで決済されるか」を業務フロー側から設計し直す必要がある

消費者向けVisa Intelligent Commerceから、企業向けへ踏み出した意味

Visaは2026年4月8日、エージェンティックコマースに関する新プロダクト「Intelligent Commerce Connect」を発表しました。プレスリリースのタイトルは「Visa Opens the Door to AI-Driven Shopping for Businesses Worldwide」。ここで強調されている「Businesses」は、単にAIエージェント経由で買い物をする消費者向けサービスを提供する企業、という意味にとどまりません。AIエージェント自身が購買主体となる企業間取引や業務フローまでが、明確に対象に含まれています。

Visaはこれまで、消費者向けのAI購買基盤「Visa Intelligent Commerce」を2025年に投入し、エージェントがカード決済を代行するユースケースを積み上げてきました。今回のConnectはその上位層にあたり、加盟店・エージェント開発者・決済イネーブラーの三者を一本のレールに束ねるプラットフォームに位置づけられます。Visaのバリューアッドサービス部門プレジデントであるAndrew Torre氏は、公式発表で次のように述べています。

Intelligent Commerce Connectは、Visaが長年培ってきた信頼できる決済受入基盤を、AI駆動コマースという新しい世界にそのまま持ち込むものです。事業者は安全かつスケーラブルに、AIエージェントに消費者の代わりの買い物を任せられるようになります。

ここで見逃せないのが、四半期決算で露わになったCommercial & Money Movement Solutionsの急成長です。PYMNTSの報道によれば、同部門の売上は定常為替ベースで20%成長し、商業決済取扱高も10%伸びました。消費者EC以上に、B2Bこそがエージェンティックコマースの最大のフロンティアだとVisa自身が判断している、と読み解けます。

Intelligent Commerce Connectがカバーする4つのレイヤー

Connectの役割は、加盟店側とエージェント側の両方に散らばっていた実装コストを、Visa Acceptance Platform上の単一統合に畳み込むことにあります。公式発表とVisaのAcceptance Solutions部門のブログを突き合わせると、提供機能は次の4階層に整理できます。

項目Visa Intelligent Commerce ConnectMastercard Agent PayAmerican Express ACE
発表2026年4月8日2025年4月2026年4月
方針ネットワーク・プロトコル非依存のオンランプトークン化中心、B2B特化の提携を強調Amex網内のエージェント登録とカード連携
B2B訴求調達・請求支払い・サプライヤー連携を想定IBM watsonx Orchestrate等とB2B用途を拡張登録エージェントによる購買と保護
対応プロトコルTAP / MPP / ACP / UCPACP等(順次拡張)独自ACEフレームワーク
他社カード対応対応(非Visaカードも決済可)Mastercard中心Amex中心
独自機能AIプラットフォームでの商品カタログ露出支援IBMとのB2Bユースケース協業Agent Purchase Protection(誤購入補償)

ひとつ目はエージェント主導決済の受入です。加盟店は主要4プロトコル、すなわちVisa自身が先導するTrusted Agent Protocol(TAP)、OpenAI陣営のAgentic Commerce Protocol(ACP)、暗号資産系のMachine Payments Protocol(MPP)、そしてUniversal Commerce Protocol(UCP)を、自前でひとつずつ束ねる必要がなくなります。ConnectがVisa側で抽象化してくれるからです。

ふたつ目は商品カタログの露出支援。AIプラットフォーム上で自社商品が発見・比較・カート投入されるための商品データ連携を肩代わりします。三つ目はトークン化と支出制御、認証で、Visa Intelligent Commerce APIを通じた既存の決済資産をそのまま再利用できる設計です。そして四つ目がPCI準拠のオーケストレーションで、決済イネーブラーがそれぞれ個別に構築していた部分を共通基盤として提供します。

特筆すべきは、VisaカードだけでなくMastercardやAmerican Expressなど他社ネットワークのAPIも統合している点です。VisaはConnectを「ネットワーク、プロトコル、トークン保管庫に依存しないオンランプ」と繰り返し説明しており、エージェントが利用するカードの発行ブランドがVisa以外でも決済が通るようにしています。ネットワーク戦国時代で自陣に囲い込む戦略を取るのではなく、あえて中立的なハブとして振る舞う選択は、加盟店から見れば導入のハードルを一気に下げる動きです。

B2B調達と請求支払いが、エージェントの主戦場になる

消費者向けエージェンティックコマースの話題が先行しがちですが、Visaの公式見解は「B2Bこそ最大の近代化機会」という立場で一貫しています。Visaのコーポレートサイトでは、仕入先オンボーディング、請求書発行、消込、支払い実行といった多くの業務フローが今も手作業で非効率に回っているとし、エージェントがその摩擦を一気に取り除くと論じています(Agentic Commerce: The expanded payments economy)。

象徴的なのが、同じタイミングで公表されたVisaとRampの連携強化です。Rampは自社のFinOpsプラットフォームにVisa Intelligent Commerceを組み込み、法人向け請求書支払いをAIエージェントが自動で処理する仕組みを開発しています。Rampのエンタープライズ顧客は2025年通年で前年比133%増となり、従来型の請求支払いSaaSを置き換える動きが加速しています。

Rampの事例は、ConnectがB2Bで何を解くのかを具体的に示します。エージェントがサプライヤーのカタログを検索し、最適な条件で発注し、承認ワークフローを通過させ、請求書を消込み、商業カードで支払い、キャッシュバックまで回収する——この一連をVisaのレールと業務アプリケーションの横断接続で自動化するわけです。Ramp以外にも、Connectのパイロット参加企業としてAWS、Aldar、Diddo、Highnote、Mesh、Payabli、Sumvinの名前が挙がっており、Intelligent Fin.techの報道はVisa欧州のValue Added Services責任者Mandy Lamb氏の「商取引が急速に進化する中、信頼・安全・選択肢が成功に不可欠だ」という発言を紹介しています。

興味深いのは、B2B SaaS領域のイネーブラーがConnectのエコシステムに組み込まれている点です。カード発行プラットフォーム、API統合プロバイダー、Web3決済レール、商業不動産事業者まで幅広く、Visa単体ではなくパートナーと業務フローに入り込む体制を整えています。

三つ巴の競争と、EC・業務システム事業者の打ち手

Visaだけが走っているわけではありません。Mastercardは2025年4月にAgent Payを先行発表し、IBMのwatsonx Orchestrateと連携してB2Bのサプライヤー調達や物流管理の自動化を進めています。American Expressは2026年4月、Agentic Commerce Experiences(ACE)デベロッパーキットと、エージェントの誤購入を補償する業界初の「Agent Purchase Protection」を投入しています。

同じ「AIエージェントに決済を開放する」目的に対する三社の回答は、思想レベルで分かれています。Visaは中立ハブを志向し、他社カードもプロトコルも丸ごと受け止める設計。Mastercardはトークン化とB2B特化型の提携で陣取りを広げ、American Expressは会員資産を守るための「保護」と閉じた高信頼ネットワークを打ち出しています。McKinseyは2030年までにAIエージェントが米国内で1兆ドル規模の取引を担うと見積もっており、どの陣営も先手を取り合う構図です。

EC・業務システム事業者側から見ると、判断軸は3つあります。ひとつ目は「どのプロトコルで発見されるか」。Connect経由なら4プロトコルを一気に張れますが、AmexのACEに直接対応する場合は別の作りが必要です。ふたつ目は「どのエージェントから来る決済を優先するか」で、手数料体系・チャージバックリスク・補償の有無が陣営ごとに異なります。三つ目は「B2Bフローに食い込めるか」で、単なる購買フロントだけでなく、発注・請求・消込といった基幹業務にAIエージェントが入り込むことを前提にした設計が求められます。

日本のEC・SaaS事業者にとって直ちに影響が出るのは、おそらくB2Bの請求支払い周辺です。Rampのような米国FinOps系企業がVisa Intelligent Commerce経由で攻勢を強めれば、海外法人間の決済フローは短期間でエージェント主導に移行します。国内企業が自社のエージェント戦略で何に対応し、何をパートナーに任せるかを決める時間は、思ったより長く残されていません。

まとめ

「Visa Intelligent Commerce Connect」は、消費者向けに始まったエージェンティックコマースをB2Bに拡張するための、決済側の共通アダプタです。Mastercard、American Expressとの競争で標準化の動きはさらに加速し、加盟店・発行企業・業務システム事業者の全員が、自社フローのどこをエージェントに任せるかを決める局面に入っています。注目すべきは、今年後半にかけてのパイロット拡大と、Rampに続くB2B SaaSの対応事例です。