この記事のポイント
- WayfairのNiraj Shah CEOがQ1 2026決算で「全プラットフォームに早期から関与し、方向性を共に形作る」というエージェンティックコマース戦略を明言
- Perplexity・OpenAI・Googleの3社と並行して連携し、Google GeminiではUniversal Commerce Protocol(UCP)経由のチェックアウトをすでに稼働
- 広告(Meta・Pinterest・Google)と購買体験(ChatGPT・Gemini)を分けた「二正面作戦」と、社内のAI活用が同時並行で進む構造
Wayfair CEOが語った「to be everywhere」戦略

Its CEO said Wayfair is working with Perplexity, OpenAI and Google on agentic commerce in addition to other AI offerings.
www.digitalcommerce360.com2026年5月5日にDigital Commerce 360が報じたQ1 2026決算カンファレンスコールで、共同創業者兼CEOのNiraj Shah氏は、エージェンティックコマースに対するWayfairの基本姿勢を明確に示しました。「私たちはどこにでも存在したい。早期から関与し、その方向性を共に形作りたい。それがエージェンティックコマースに対する考え方だ」――この発言が、家具・インテリアECのトッププレイヤーが描く未来像を端的に表しています。
同社はTop 2000 Databaseで北米EC事業者の第11位、ハウスウェア・ホームファニッシング部門では首位という位置にあります。北米のECを語るうえで欠かせないこのプレイヤーが、すべての主要AIプラットフォームと「二人三脚」で標準を作っていく姿勢を打ち出した意義は小さくありません。
注目すべきは、Shah氏の戦略が単一プラットフォーム依存を避けたうえで、広告と購買体験を意識的に分けて設計している点です。同氏は「広告側ではMeta、Google、Pinterestの初期パートナーとして広告ユニットを開発しており、まだベータの段階だ」と述べました。一方で購買体験側はChatGPTなどの外部プラットフォームへの統合と、自社サイト内でのファーストパーティAIの両輪で進めている構造です。
Perplexity・OpenAI・Googleの3連携、それぞれの中身
WayfairがCEO自ら名指しした3つのAIプラットフォームには、それぞれ性質の異なる役割が与えられています。
最も具体的に進んでいるのはGoogleとの連携です。2026年1月11日のNRFカンファレンスでSundar Pichai氏が発表したUniversal Commerce Protocol(UCP)に、WayfairはShopify・Etsy・Target・Walmartとともに共同開発者として参画しました。UCPはGoogleとShopifyが主導するオープンソース標準で、AIエージェントとECプラットフォームの相互作用を定義するものです。商品発見から決済、注文後のハンドオフまでの4段階を共通仕様で結ぶ設計になっています。
そして2026年2月、UCPに基づくチェックアウトがGoogleのAI ModeとGeminiアプリで実稼働を開始し、Wayfairの商品はGoogleを離れずに購入できるようになりました。「Geminiを使ったショッピング」という形で、Wayfairの商品はAI検索の結果画面の中で完結するトランザクションへと姿を変えています。
OpenAI連携は、ChatGPTを購買接点として活用するアプローチです。CFO兼CAOのKate Gulliver氏は「ChatGPTのようなプラットフォームとの最近の小売統合を通じたオフサイトショッピング」と表現しており、これはOpenAIが提唱するAgentic Commerce Protocol(ACP)に対応した形でのディスカバリー統合だと業界では理解されています。Stripeとの共同開発で生まれたACPは、Shared Payment Token(SPT)の仕組みで決済情報を露出せずにチャット内取引を完結させる枠組みです。
Perplexityとの連携は、3社の中でもっとも初期段階にありますが、性格の違いが際立ちます。PerplexityはAI検索における「リサーチからレコメンドまで」を強みとしており、PayPalとの提携で2024年11月から「Buy with Pro」機能を提供しています。Wayfairにとっては、ユーザーがインテリアコーディネートを比較検討するフェーズで存在感を確保する戦略的意味があります。
広告と購買体験、二正面作戦の構造
Shah氏のコメントを丁寧に読み解くと、Wayfairのエージェンティック戦略は明確な二正面作戦になっています。
広告側はMeta、Google、Pinterestと組んで「AIエージェント時代の広告ユニット」を共同開発する位置づけです。ここでの主目的は、AIが顧客の意図を解釈する瞬間に、Wayfairの商品が候補として浮上するための「アドサーフェスの確保」と整理できます。Pinterestとの協業はショッパブルTV、Googleとの連携はUlta Beautyも採用したGemini agentic commerceと類似の方向性です。
購買体験側はChatGPTやGeminiといった「AIプラットフォームそのもの」が顧客接点となる前提で、商品カタログをAIに対してverifiable・discoverable・transactableな状態に保つことに投資しています。換言すれば、ユーザーがどのAIサーフェスにいても、Wayfairの商品が選択肢として正確に提示され、その場で購入完了まで進めるようにすることが狙いです。
そして第三の層として、自社サイト内でのファーストパーティAI活用があります。Gulliver氏は「商品のマーチャンダイジングをAIで改善する」と述べ、ソフトウェアエンジニアが「何年も様々な機械学習を使ってきた」歴史を踏まえ、AIが顧客の発見・エンゲージメントを「加速」させると説明しました。外部AIへの露出と自社体験の磨き込みが、片方だけでは不十分なのです。
Shah氏のエージェンティック市場観──効くカテゴリと効かないカテゴリ
決算コールで興味深かったのは、Shah氏がエージェンティックコマースの「効く領域」と「効きにくい領域」を明確に切り分けた点です。
同氏が想定する「エージェントが影響を与える3カテゴリ」は次の通りです。AIエージェントが容易に補充できる定期消費財(ペーパータオルや食器用洗剤を例示)、コモディティ(フォンチャージャーのように安価で品質さえ満たせばよい商品)、そしてテクニカル商品(高機能テレビのように仕様で比較しやすく、ブランドへのこだわりが薄い商品)です。これらは「価格・スペック・配送」という客観評価軸でAIが優劣を比較しやすい領域だと言えます。
一方で、ファッション・ビューティ・ホームの3領域については、消費者が「買い物の過程で学ぶ」性質を持ち、感情的な要素が大きいため、エージェントによる代替が難しいと指摘しています。「これらの分野には多くの感情があり、消費者は実際には他人と同じものを所有したくない」というShah氏の言葉は、家具・インテリアという自社カテゴリの本質を捉えた発言です。
ただし同氏は、家具のなかでも「安価な家具」――例えばバースツール――については、AmazonやWalmart、Target、Temu、TikTok Shopとの競合領域でエージェント経由の購買が起きうると認めています。そのうえで「そこにマージンはなく、リテイラーが差別化する領域でもない」と切り捨て、上位カテゴリでの体験設計に集中する意思を明確にしました。
EC事業者が学べる4つの実装上の教訓
Wayfairの動きは、規模も投資余力も異なる多くのEC事業者にとっても参考になる構造化された示唆を含んでいます。
第一に、マルチプラットフォーム前提のカタログ整備が出発点になります。WayfairはGoogleのUCPとOpenAIのACP、そしてPerplexityという性格の異なるサーフェスに同じ商品データで対応しています。これを可能にするのは、商品属性・在庫・価格・配送条件の構造化データを一次情報の単一ソースとして整備し、各プロトコルへ正規化して送り出せる土台です。Wayfair自身、英国市場でエージェンティックAIによる商品属性の自動エンリッチメントを稼働させており、数万SKU規模で属性の補正を進めています。
第二に、広告と購買のサーフェスを分けて評価する視点です。AIエージェント時代の広告ユニットはまだベータが多く、計測モデルも従来のCPCとは異なります。Wayfairは「広告側はMeta・Pinterest・Googleと初期パートナーとしてベータ」と明言しており、この段階では学習投資としてポジションを取り、収益貢献は購買体験側で取り戻す構造設計が現実的です。広告と購買を一体で議論しないことが、投資判断を歪ませない鍵になります。
第三に、カテゴリ特性に応じた優先順位付けです。Shah氏が示した「定期消費財・コモディティ・テクニカル商品」という3カテゴリは、エージェンティックコマースが最初に普及する領域です。自社の主力カテゴリがここに該当する事業者は、UCPやACPへの対応を急ぐ価値が高くなります。一方でファッション・ビューティ・高単価ホームを扱う事業者は、AI上での「比較できない感情価値」をどう表現するか――ブランドストーリー・スタイリング・コーディネート提案――が差別化のレバーになります。
第四に、ロイヤリティとMerchant of Record(MoR)の維持です。Shah氏はサプライヤーが直接消費者に向かう未来像について、「ホームファニッシングのような物流が複雑なカテゴリでは、サプライヤー直販は経済的に成立しない」と否定的でした。これは家具・インテリアに固有の議論にも見えますが、本質はもっと普遍的です。エージェント経由で取引が増えても、カスタマーサービスと物流の質でリテイラーが差別化できる構造が残るかぎり、リテイラーの存在意義は維持されるという論理です。さらにロイヤリティプログラムは「広告コストの再支払いを避けるための仕組み」と明確に位置づけ、CRMによる直接関係の構築を強化する方向性を示しました。
まとめ
Wayfairが描く「to be everywhere」戦略は、単一AIプラットフォームへのベットを避け、Perplexity・OpenAI・Googleという主要3社それぞれと並行して関係を築き、各サーフェスでの存在感を確保する設計です。Google GeminiではUCP経由のチェックアウトが稼働し、ChatGPTではACPでのディスカバリー統合が進み、Perplexityでも初期パートナーとして関与する――この三層構造はエージェンティックコマースの標準化競争が決着していない現状において、もっともリスクヘッジされたアプローチと言えます。
同時に、社内では英国でのカタログ自動エンリッチメントやカナダ向け仏語ローカライゼーションといった「AIによる業務生産性の引き上げ」が並行して進んでおり、外向きと内向きのAI投資が分離せず統合されている点も重要です。Q1 2026の総売上は29億ドル、前年比7.4%増、調整後EBITDAマージンは5年ぶりの高水準と、ファンダメンタルが回復している局面で打ち出されたこの戦略は、AIプラットフォーム側の標準化競争が落ち着く前に「形を作る側」に回るという強い意思の表れでもあります。
EC事業者にとっての示唆はシンプルです。エージェンティックコマースの本格普及はまだ始まったばかりであり、Shah氏が語ったように現在のトラフィックは「非常に小さい」段階にあります。しかし、このフェーズで構造化データ・マルチプロトコル対応・カテゴリ別優先度設計に投資した事業者だけが、トラフィックが本格化したときに「AIに選ばれる側」のポジションを取れるはずです。




