この記事のポイント
- eBayが利用規約を更新しAI「Buy-for-me」エージェントを明示的に禁止、AmazonもPerplexity AIを提訴
- AIエージェントが商品検索から決済まで自律的に完結する世界では、従来のマーケットプレイスが「バックエンドのフルフィルメント業者」に格下げされるリスクがある
- EC事業者はエージェント経由の発見・購買に自社データをどう露出させるか、プロトコル対応とデータ構造化を早急に検討すべき段階
巨大マーケットプレイスに突きつけられた「AIコマースの脅威」

Agentic robots that shop and pay without human involvement could potentially render retail marketplaces obsolete – and big merchants are responding.
www.paymentsdive.com2026年2月4日、Payments Diveは、AIエージェントによる自律的な商取引(エージェンティックコマース)がAmazonやeBayといった巨大マーケットプレイスの存在意義を根本から揺るがしつつあると報じました。人間が関与せずにAIロボットが商品を検索し、比較し、決済まで完了する世界では、「巨大な消費者プールへのアクセス」を売りにしてきたマーケットプレイスのビジネスモデルが成立しなくなる可能性があります。
エージェンティックコマースツールを開発するNew Generationの CEO で元Stripe幹部のAdam Behrens氏は「ChatGPTやGoogleがやろうとしていることを見れば、LLMがマーケットプレイスそのものになる。サプライをLLMに接続し、消費者がそこでやり取りすれば、なぜAmazonに行く必要があるのか」と指摘しています。そのモデルでは、従来のECマーケットプレイスは「バックエンドのフルフィルメント業者」に過ぎなくなります。
業界動向
AIエージェントによるECへの影響は、もはや理論上の話ではありません。米国のオンライン小売サイトへのAIブラウザ・エージェント経由のトラフィックは前年比4,700%増を記録しています。Shopifyは2025年1月以降、AI駆動トラフィックが7倍、AI経由の注文が11倍に増加したと報告しています。Morgan Stanleyはエージェンティックショッピングが2030年までに米国EC支出の1,900億〜3,850億ドル規模に達すると予測しており、McKinseyは米国B2C小売だけでエージェンティックコマースによるオーケストレーション収益が2030年に最大1兆ドルに達する可能性があると分析しています。
現在のAIコマースの進化段階は、「商品リサーチはAIが行い、決済は人間が完了する」フェーズから、「検索から決済まで完全自律のエンドツーエンド取引」へ移行する過渡期にあります。Payments Diveの関連記事によれば、「ボットショッピング」と「自律的決済」の間にはまだ大きなギャップが存在しますが、そのギャップは急速に縮まりつつあります。
eBayとAmazon——「排除」と「取り込み」の二正面作戦
eBay: 利用規約でAIエージェントを明示禁止
eBayは2026年2月20日施行の利用規約更新で、「buy-for-meエージェント、LLM駆動ボット、または人間のレビューなしに注文を行おうとするエンドツーエンドのフロー」を、eBayの事前許可なしに禁止しました。EcommerceBytesによると、eBayは2025年12月にrobots.txtファイルも更新し、Perplexity、Anthropicなどを名指しでブロックしています(Googleのショッピングボットは例外的に許可)。
一方で、eBayは自社のAIエージェント戦略を着々と進めています。CEOのJamie Iannone氏は2025年10月の決算説明会で「自社開発のLLMをコマースに活用するパイロットを実施中」と述べ、「今後の四半期でeBayの主要検索体験にエージェンティック機能を段階的に導入する」と宣言しました。eBayのスポークスパーソンは、OpenAIなどのパートナーと協力し、管理配送や返金保証といったeBayの付加価値サービスを理解するサードパーティエージェントに在庫を公開する取り組みを進めていると説明しています。
つまりeBayの方針は「勝手に来るAIエージェントは排除するが、eBayのルールを理解し許可を得たエージェントは歓迎する」というものです。E-Commerce Timesはこれを「エージェンティックショッピングをいったん見送りつつ、自社の条件で受け入れる準備をしている」と評しています。
Amazon: 法的手段でPerplexityを排除、自前AIを推進
Amazonは2025年11月、サンフランシスコの連邦裁判所でPerplexity AIを提訴しました。Perplexityのエージェンティックショッピングツール「Comet」がAmazonの店舗と顧客データに無断アクセスしているとし、差止命令を求めています。
Amazonの訴状は「Perplexityは他の侵入者と同様、明確に立入禁止と告げられた場所に入ることは許されない。Perplexityの不法侵入がピッキングツールではなくコードによるものであっても、それが違法でなくなるわけではない」と主張しています。Perplexity CEO Aravind Srinivas氏は「競争を抑圧するいじめ戦術」と反発し、AIエージェントは人間ユーザーと同じ権利を持つべきだと主張しています。
Perplexityの法的チームが指摘した核心は広告収益の問題です。「AIエージェントには、Amazonがユーザーに浴びせる広告を見る目がない」——Cometがユーザーの代わりにAmazonで購入を完了すると、消費者は実際にはAmazonのサイトを訪問しないため、スポンサープロダクト表示やPrime会員勧誘、商業データ収集の機会が失われます。
しかし興味深いことに、Amazon自身も「Buy For Me」というAIエージェント機能をテスト中です。これは外部ブランドサイトの商品をAmazonアプリ内でAIが代理購入する仕組みで、批評家は「Amazonは自社のAIエージェントが他サイトで購入することは許可しつつ、他社のAIエージェントが自社で購入することは訴訟で阻止する」というダブルスタンダードを指摘しています。
決済ネットワークとテック企業の動き
この構造変化に対応して、決済インフラ企業も動き始めています。Mastercardは2026年1月27日、エージェンティックAIツールスイート「Mastercard Agent Suite」を発表し、2026年第2四半期末までに企業顧客へ提供する計画です。GoogleとのユニバーサルコマースプロトコルやOpenAIとのエージェンティックプロトコルを通じて、安全な認証情報と検証可能なエージェントIDによるクロスプラットフォーム取引を可能にします。
同様に、VisaもOpenAI、IBM、Anthropic、Microsoft等と連携してAIコマースのセキュリティ基盤を構築中であり、StripeはOpenAIと共同でChatGPT経由のEtsy・Shopifyマーチャント決済プロトコルを開発しています。
一方で、不正リスクへの懸念も高まっています。不正管理ソフトウェアを提供するRiskifiedのCMO Jeff Otto氏は「顧客関係の喪失と、決済の信頼判断を自社管理外のシステムに実質的にアウトソースすることによる不正増加リスクという、両方で負ける」と警告しています。Money 20/20 2025ではJPモルガン・チェースのMike Lozanoff氏が「AIエージェントが指示していない商品を買ってしまう幻覚」の可能性を問題提起しました。
EC事業者への影響と活用法
この激変の中で、EC事業者が取るべきアクションは3つに集約されます。
第一に、「エージェントに選ばれる」ためのデータ整備です。 AIエージェントは構造化されたデータとAPIを通じて商品を発見・比較します。New GenerationのBehrens氏が「商人にとっての至上命題は、自分のブランド、データ、商品をこのエコシステムにどう露出させるか」と述べるように、商品カタログ、在庫、価格、配送条件のデータをエージェントが読み取れる形で公開する準備が必要です。
第二に、マーケットプレイス依存からの分散戦略です。 AIエージェントがマーケットプレイスを迂回して直接ブランドサイトにアクセスする世界では、自社ECサイトのエージェント対応がマーケットプレイス手数料を回避する新たなチャネルになり得ます。MCP(Model Context Protocol)やGoogleのUCP(Universal Commerce Protocol)への対応を検討すべきです。
第三に、不正リスクへの備えです。 エージェント経由の取引では、従来の「人間が画面を見て操作する」前提のセキュリティモデルが通用しません。エージェント認証、取引監視、チャージバック対策の再設計が求められます。Mastercardの検証可能なエージェントIDのようなインフラ標準の動向を注視し、早期に対応体制を構築すべきです。
まとめ
eBayのAIエージェント禁止とAmazonのPerplexity提訴は、巨大マーケットプレイスが自らのビジネスモデルを守るための防衛行動であると同時に、「排除しつつ取り込む」という戦略の表裏でもあります。AIエージェントが商取引の新たなインターフェースになることは不可避であり、問題は「いつ」ではなく「誰の条件で」実現するかです。EC事業者にとって、この変革は脅威であると同時に、マーケットプレイス手数料に依存しない新しい顧客接点を構築する好機でもあります。2026年はそのルール策定が本格化する年になるでしょう。




