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2026年3月26日

AIがあなたの代わりに買い物する時代、本当に得をするのは誰か――Visa・Google・Yandexらがインフラ覇権を争う

目次
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この記事のポイント

  1. Visa・Google・OpenAI・Yandexらがエージェンティックコマースのインフラ整備に相次ぎ参入
  2. McKinseyは2030年までに米国だけで最大1兆ドル規模の市場と予測、決済インフラが新たな「通行料」に
  3. EC事業者はプロトコル対応と手数料構造の見極めが急務

Forbesが指摘する「デジタルコマースの新たな有料道路」

2026年3月25日、Forbesは「AI Wants To Shop For You. Here's Who That Really Benefits.」と題した記事を公開しました。AI競争の焦点が「どのモデルが賢いか」から「どのAIが購買の瞬間を支配するか」へと移行していると指摘しています。

Salesforceの調査によれば、2025年のサイバーウィークでは世界の注文の約5件に1件にAIエージェントが関与し、GMV(流通取引総額)は約700億ドルに達しました。そしていま、OpenAI、Google、Amazon、Yandexといったテック大手が、AIを通じた「チェックアウトの支配権」を争っています。

「モデル競争」から「インフラ覇権」へと移行するAIコマース

エージェンティックコマースとは、AIエージェントが消費者に代わって商品を発見し、比較し、購入まで完了する仕組みです。McKinseyの2025年10月のレポートは、2030年までに米国B2C小売市場だけで最大1兆ドル、グローバルでは3〜5兆ドルの取引規模に成長すると予測しています。

この市場を動かしているのは、各社が構築する「コマースプロトコル」です。Forbes記事が指摘するとおり、これらのプロトコルは華やかさには欠けるものの、精密さにおいて圧倒的です。OpenAIの「Agentic Commerce Protocol(ACP)」は認証と決済を、Googleの「Universal Commerce Protocol(UCP)」はリアルタイムデータ連携を、Yandexの「YCP」は取引履行をそれぞれ担当します。

Forbes記事はこれを「デジタルコマースの新たな有料道路」と表現しています。OpenAIはトランザクションあたり約4%の手数料を発表しており、1兆ドル規模の市場ではこれが単なるコストではなく「インフラ税」になると警鐘を鳴らしています。

三大プロトコルが描くインフラ覇権の構図

OpenAI × Stripe:ACP(Agentic Commerce Protocol)

OpenAIとStripeが共同開発したACPは、AIエージェントが商品発見から決済完了までをシームレスに実行するためのオープン標準です。ChatGPT上でEtsy出品者の商品を直接購入できる「Instant Checkout」として始まりましたが、2026年3月時点ではマーチャント側のチェックアウト体験を優先する方針に転換しています。PayPalも2025年10月にACPを採用し、グローバルな加盟店ネットワークとの接続を進めています。

Google:UCP(Universal Commerce Protocol)

GoogleのUCPは、AI Mode in SearchやGeminiを通じて消費者が直接商品を購入できるオープンソース標準です。Shopify、Etsy、Wayfair、Target、Walmartなど20社以上のパートナーが参画しており、Google Payを活用した決済により、消費者はマーチャントサイトを訪問せずに取引を完了できます。

Yandex:YCP(Yandex Commerce Protocol)

Yandexが2026年2月に発表したYCPは、ロシア初のエージェンティックコマースプロトコルです。AIアシスタント「Alice」との会話内で商品購入を可能にし、検索、マーケットプレイス、物流を統合した独自のエコシステムを構築しています。1C-Bitrix向けモジュールやAPI連携など4つの接続方式を提供し、中小事業者のハードルを下げています。

決済インフラの要:Visa

Visaは2025年にパートナー企業と数百件のAIエージェント決済を完了し、「Visa Intelligent Commerce(VIC)」プラットフォームを立ち上げました。100社以上のパートナーと連携し、30社以上がサンドボックスで開発を進めています。また、悪意のあるボットと正規のAIエージェントを識別する「Trusted Agent Protocol」も導入しています。Visaは2026年のホリデーシーズンまでに数百万人の消費者がAIエージェント経由で購入すると予測しています。

EC事業者への影響と活用法

Forbes記事が指摘する最大のジレンマは、事業者が「新たな手数料を吸収するか、消費者に転嫁するか、コンバージョン向上で相殺するか」の選択を迫られる点です。

各プロトコルへの対応準備が最優先です。特にShopifyを利用する事業者はGoogle UCPとの連携が比較的容易です。OpenAI ACPもオープンソースとしてGitHub上で公開されており、仕様の把握を進めるべきです。

手数料構造の精査が必要です。OpenAIの約4%という手数料水準が業界標準になるかどうかは未定です。プラットフォーム間の競争が続いている現段階で、各プロトコルの手数料体系を比較検討し、自社の利益率への影響をシミュレーションする必要があります。

消費者体験の再設計が求められます。AIエージェントが購買の意思決定を担う世界では、商品情報の構造化データ対応が不可欠です。AIが正確に商品を理解・推薦できるよう、メタデータの整備を進めるべきです。一方で、Forbes記事も指摘するとおり、AIが推薦する際に「最安値なのか、最速配送なのか、最大プラットフォーム手数料なのか」というアルゴリズムの透明性は現時点で確保されていません。

まとめ

エージェンティックコマースの主戦場は、AIモデルの性能競争からインフラ覇権の争いへと移行しています。Visa、Google、OpenAI、Yandexの各社が構築するプロトコルは、今後のデジタル商取引の「通行料」を決定づける可能性があります。

Forbes記事が警告するように、プラットフォーム間の競争が事業者や消費者に利益をもたらす「窓」は開いていますが、それがいつまで続くかは不透明です。EC事業者にとって重要なのは、この競争環境にあるうちに複数プロトコルへの対応を進め、特定プラットフォームへの依存を避けることです。次の注目ポイントは、2026年後半に予定されるVisa VICの本格展開と、OpenAI ACPの手数料体系の確定です。