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2026年4月1日

Best BuyがFirmlyのエージェンティックコマース基盤を採用、ノーコードで45分のAIチャネル接続が現実に

目次
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この記事のポイント

  1. Best BuyとBackcountryがFirmlyの「Firmly Connect」を採用し、ノーコードで45分でエージェンティックコマースを実装
  2. MCP・UCP・ACP等のプロトコル乱立問題を「プロトコル抽象化」で解決する新たなミドルウェア層が登場
  3. 決済基盤Aurusとの提携により、既存の決済インフラを変更せずにAIコマースチャネルを追加可能に

Best BuyがFirmlyのエージェンティックコマース基盤を採用

エージェンティックコマースの技術プロバイダーであるFirmlyは2026年3月24日、ノーコードのオンボーディングプラットフォーム「Firmly Connect」を発表しました。その初期採用企業として、家電大手のBest Buyとアウトドアスポーツ用品のBackcountryが名を連ねています。

Firmly ConnectはEC事業者の既存サイトやコマースインフラに自律的に統合し、自動テストで接続を検証するプラットフォームです。従来、エージェンティックコマースのチャネル統合には3〜12ヶ月の期間、12〜18名のチーム、そして1チャネルあたり25万〜50万ドルのコストがかかっていました。Firmly Connectはこのプロセスを約45分のマーチャント作業時間に短縮し、統合コストを推定95%削減します。

BackcountryのKevin Lenau氏(ブランドファミリー社長)は、プレスリリースの中で次のように述べています。

エンジニアリングリソースゼロで立ち上げられるとは信じていませんでしたが、実際にそれが証明されました。これはエージェンティックコマースの可能性を大規模に解放するための大きな前進です。

プロトコル乱立時代の「抽象化レイヤー」

Firmly Connectが注目される最大の理由は、現在急増しているエージェンティックコマースのプロトコルを横断的に抽象化する点にあります。

2026年現在、AIエージェントとコマースシステムを接続するプロトコルは乱立状態です。Googleが主導するUCP(Universal Commerce Protocol)、OpenAIとStripeが共同開発したACP(Agentic Commerce Protocol)、AnthropicのMCP(Model Context Protocol)、さらにA2A、AP2、KYAなど複数の規格が存在します。小売企業にとっては、どのプロトコルに対応すべきか判断が難しく、個別に統合を構築するコストも膨大です。

Firmlyはこの問題に対し、3つのコア機能で対応しています。

プロトコル抽象化:MCP、AP2、ACP、UCP、A2A、KYAなど複数のプロトコルを抽象化し、マーチャントが各エコシステムに個別のインテグレーションを構築する必要をなくします。

水平インフラレイヤー:既存のコマースプラットフォームの上位レイヤーとして機能し、一度の接続であらゆるAIチャネルへの配信を可能にします。

マーチャント・オブ・レコードモデル:マーチャントが販売主体を維持し、ブランド、顧客関係、ファーストパーティデータ、価格・在庫のコントロールを保持できます。

Best Buyのエージェンティック戦略との整合性

Best Buyにとって、Firmly Connectの採用は同社のAI戦略の延長線上にあります。2026年3月のQ4決算説明会では、CEO Corie Barry氏がbestbuy.comを「AIエージェントが閲覧・発見しやすいサイト」に進化させると宣言しています。OpenAIのChatGPT上への商品カタログ展開やGoogleのUCP対応と並行して、Firmlyのような統合ミドルウェアを活用することで、複数のAIチャネルへの同時対応を効率的に実現する狙いがあると考えられます。

Best BuyはDigital Commerce 360のTop 2000データベースで第8位にランクされる北米最大級のオンラインリテーラーであり、同じく採用企業のBackcountryは第91位に位置しています。大手企業がFirmly Connectを選んだという事実は、エージェンティックコマースが実験段階から実装段階へ移行していることを示す重要なシグナルです。

Aurusとの戦略的提携が示す決済統合の方向性

Firmlyは同時に、25カ国以上で大手小売企業やスーパーマーケットにサービスを提供するエンタープライズ決済プラットフォームAurusとの戦略的提携も発表しました。これにより、Aurusはネイティブなエージェンティックコマース機能を持つ初のオムニコマースゲートウェイとなります。

Aurus CEOのRahul Mutha氏は、この提携の価値を3つに整理しています。既存のデジタルコマースのユースケースと決済マトリクスを完全に維持できること、数ヶ月ではなく数週間でエージェンティックコマースを導入できること、そして他の社内プロジェクトの優先度を変更せずにエージェンティックコマースの学習体験を得られることです。

この提携は、エージェンティックコマースの普及には決済インフラとのシームレスな統合が不可欠であることを裏付けています。

EC事業者への示唆

Firmly Connectの登場は、エージェンティックコマースの導入障壁が急速に下がっていることを意味します。

プロトコル選択の悩みが解消される:UCP、ACP、MCPのどれに対応すべきかという問いに対し、Firmlyのような抽象化レイヤーは「すべてに対応する」という回答を提供します。プロトコル規格が定まるのを待つ必要がなくなります。

エンジニアリングコストの壁が低下:Backcountryの事例が示すように、エンジニアリングリソースゼロでの導入が可能になれば、中堅EC事業者にとってもエージェンティックコマースが現実的な選択肢になります。

ブランドコントロールの維持が鍵:Firmlyのマーチャント・オブ・レコードモデルは、AIチャネル経由の販売でもブランドと顧客関係を事業者側が保持できることを保証します。これは、AIプラットフォームに顧客接点を奪われるリスクへの重要な対策です。

Firmlyは2025年にMastercardのStart Path Emerging Fintechプログラムに選出されており、決済大手からの評価も得ています。エージェンティックコマースの3〜5兆ドル市場が今後5年で形成されると予測される中、Firmly Connectのようなミドルウェアの役割はますます重要になるでしょう。

まとめ

Best BuyとBackcountryのFirmly Connect採用は、エージェンティックコマースが概念実証から本番実装のフェーズに入ったことを示しています。プロトコル乱立という課題に対してFirmlyが提示した「抽象化レイヤー」という解法は、かつてのPayment Service Providerが決済手段の乱立を統合したのと同じ構造的役割を果たす可能性があります。今後注目すべきは、Firmly Connectの採用企業がどこまで拡大するか、そしてAurus提携を通じた決済統合がエージェンティックコマースの実取引量をどこまで押し上げるかです。