この記事のポイント
- Google Marketing Live 2026で、Universal Commerce Protocol (UCP) が小売 EC を飛び出し、ホテル予約(Lodging)と食事デリバリー(Food)という2つの垂直産業に正式拡張されました。
developers.google.com/hotels/ucpとdevelopers.google.com/actions-center/verticals/ordering/ucpに専用仕様が用意され、業界別の co-developer も発表されています。 - Lodging パートナーは Amadeus・Booking.com・Expedia Group・Hilton・Marriott・Trip.com、Food パートナーは DoorDash・Uber Eats・Toast・Square。プロトコル本体は AP2・A2A・MCP の三本柱に乗りつつ、業界固有の課題(リアルタイム在庫、料金プラン、カスタマイズ、チップ、配送指示)に対応した拡張が組み込まれます。
- ホテルや飲食店は Merchant of Record を維持しながら AI Mode と Google Maps で予約・注文を受ける新しいチャネルを得ます。一方で、PMS/CRS・POS が構造化された機械可読データを外部公開できるかが、エージェンティック・コマース時代の生き残りラインになります。
Google Marketing Live 2026が示した「UCPの非小売進出」

New UCP-powered features and AI tools will create a more intuitive, agentic shopping experience for consumers and retailers.
blog.google2026年5月20日のGoogle Marketing Live 2026は、前日のI/Oで発表された Universal Cart と Universal Commerce Protocol(UCP)を、ホテル予約と食事デリバリーという「非小売」垂直産業へ広げる発表でした。広告・コマース担当VP/GMの Vidhya Srinivasan 氏は公式ブログで、UCPが「さらに多くの垂直産業へ広がる。手始めにホテル予約とローカルフードデリバリー」と明言しています (Google)。
I/Oが買い物体験のお披露目だったとすれば、Marketing Liveは UCPを「業界横断プロトコル」として正式に位置づけ直す発表でした。プロトコルの公式ポータル ucp.dev には、これまでの Shopping に加えて Lodging と Food のタブが追加され、それぞれに専用仕様の準備が告知されています。本記事では、この2つの拡張がプロトコル的に何を意味し、宿泊・飲食事業者にどう影響するのかを掘り下げます。
UCP for Lodging:ホテル予約プロトコルの中身
UCPの拡張で最も注目を集めたのが、developers.google.com/hotels/ucp に公開された UCP for Lodging です。ucp.dev の仕様概要には次のように記されています。
AI面の中で高品質な予約フローを実現する。リアルタイムの料金・在庫チェック、複雑なレートプランのスムーズな処理、容易なゲスト登録、そしてセキュアなチェックアウトを含む。
短い文章ですが、ここに「ホテル予約をプロトコル化する」というGoogleの設計思想が凝縮されています。Eコマースの商品在庫が「あるか/ないか」の二値で済むのに対し、ホテル在庫は「日付」「部屋タイプ」「人数」「キャンセルポリシー」「朝食付/なし」「会員ステータス」などの多次元なレート構造を扱う必要があります。UCP for Lodging はこの差を吸収するための拡張モジュールとして位置づけられました。
co-developer に並んだ Amadeus・Booking.com・Hilton・Marriott
ucp.dev の Lodging タブに掲載された co-developer は次の通りです。
- Amadeus(グローバル GDS/PMS/CRS の最大級プレイヤー)
- Booking.com(Booking Holdings 傘下、世界最大級OTA)
- Expedia Group(Expedia・Hotels.com・Vrbo を擁する OTA グループ)
- Hilton(直販を強化してきたグローバルチェーン)
- Marriott(世界最大のホテルチェーン)
- Trip.com(中国・APAC の主要 OTA)
GDSと巨大OTA、直販強化中のチェーンが 同じプロトコル仕様の策定テーブルに着いたこと自体が、ホテル流通史的に異例です。これまでは Booking や Expedia とチェーン直販が「在庫の取り合い」を演じてきましたが、UCPでは「AIエージェント経由の流入をどう公平に受けるか」という共通課題に向き合う構図になります。
Skift は「Googleは公然とエージェンティックな宿泊予約を目指していると認めた」と報じ、トラベルパッケージ(航空+ホテル)はUCPチェックアウトの対象外であることも明らかにしました。最初の AI 面は Google の Gemini Spark AI が想定されています。
「Merchant of Record はホテル側に残る」設計
技術的に重要なポイントは、Google の Lodging 向けデベロッパーページが明示する 「transparent accountability trail」です。事業者、クレデンシャル提供者、決済サービスの責任分界が明確化され、最終的な Merchant of Record(取引主体)はホテル側に残ります。
これは、AI 面が直接ホテルを「販売」してしまうと、宿泊体験で起きるトラブル責任の所在が不明確になる問題への明確な回答です。OTA経由の予約と同じく、宿泊提供責任・料金収納責任・キャンセル責任はホテル側、AIエージェントとGoogleはあくまでマッチメーカーという位置取りが、ホテル業界が安心して標準に乗るための前提条件になっています。
AI Mode in Search が「予約導線」になる
UCP for Lodging が動き始めると、ユーザーは Google 検索の AI Mode に対し「来週水曜の出張、羽田から近くて朝食付き、3万円以下、Marriott Bonvoy 会員特典使える宿」と話すだけで、結果一覧ではなく会話の中で予約と決済が完結する体験が現れます。
この体験の技術基盤は UCP の Catalog Search、Cart Building、Identity Linking(OAuth 2.0)、Checkout、Order Management に、Lodging 固有のレートプラン拡張を重ねた構造です。決済は AP2(Agent Payments Protocol)が担い、ホテルロイヤルティ会員のID連携は OAuth 2.0 標準が支えます。エージェントはユーザーに代わって認証スコープを取得し、会員番号・特典ステータス・予約履歴にアクセスできる設計です。
UCP for Food:会話のなかで完結する食事注文
もう一方の拡張、UCP for Food は developers.google.com/actions-center/verticals/ordering/ucp に専用ページが用意されました。ucp.dev には次のように記載されています。
AI面における会話型フード注文ジャーニーを支える。きめ細かな食事カスタマイズ、リアルタイムの在庫と特典、チップ、配送指示を、スケーラブルなチェックアウト体験で扱う。
ホテルが多次元レート構造に対応しているのに対し、フードでは 「カスタマイズの組合せ爆発」と「リアルタイム性」が拡張の中核です。ピザのトッピング選択、辛さレベル、サイドメニュー、配送先・配送時間指定、チップ、店舗ごとの特典クーポンといった要素を、エージェントが会話の中で扱えるようプロトコル化されます。
Uber Eats・DoorDash・Toast・Square という同卓
Food の co-developer も意外な顔ぶれです。
- DoorDash(米国シェアトップのデリバリー)
- Uber Eats(グローバル展開のデリバリー)
- Toast(レストラン向け POS/オンライン注文の大手)
- Square(Block 傘下、小規模店舗向け POS)
注目すべきは POS側の Toast と Square が co-developer に入ったこと。これは「デリバリープラットフォーム → エージェント」の経路だけでなく、「店舗POS → エージェント」の直結ルートも UCP の射程に入っていることを意味します。会員限定特典や、店舗が独自にやっている時間限定割引まで、AI Mode と Google Maps の会話画面で扱える可能性が出てきました。
Google Maps が注文導線になる
体験面では、Google Maps を眺めながら「ここから頼める辛い麺で、ピーナッツアレルギー対応のもの」と尋ねると、地図上のチャットがそのまま注文導線に切り替わる流れが想定されています。配達住所や配送時間、チップは Map 内のフローで完結し、決済は AP2 経由の Google Pay または店舗のチェックアウトに飛ぶ仕様です。
飲食・宿泊事業者が今すぐ整理すべき3つの論点
ここまでをホテル・飲食事業者の視点で整理すると、論点は3つに集約されます。
ひとつ目は PMS/CRS/POSの「機械可読データ公開」が競争前提に格上げされること。在庫・料金・特典・キャンセルポリシー・カスタマイズオプションを、構造化された API として外部に晒せる仕組みがないと、エージェント経由の流入を1件も受けられません。Amadeus と Booking.com が co-developer に入ったのは、レガシー PMS/CRS のリプレース需要が UCP 対応をきっかけに加速する可能性を示しています。
ふたつ目は OTA/デリバリーアプリ依存からの分散投資判断。AIエージェントが間に立つことで、ユーザーが Booking.com や Uber Eats のアプリを開かないルートが標準化されます。OTA/プラットフォームへのコミッション支払いを前提にしてきた事業者は、AI Mode 経由の直接受注をどう増やすかを早めに数字で追う必要があります。
3つ目は ロイヤリティ・会員 ID 連携の OAuth 2.0 化。UCP は Identity Linking に OAuth 2.0 標準を採用しています。Marriott Bonvoy や Hilton Honors のような会員プログラムを、AI エージェントから安全に呼び出せる設計が、ブランド直販と OTA 経由の差別化点になります。
運用側の Ask Advisor も「同じプロトコル世界」に乗る
買い手側のUCP拡張と同日に、売り手側の運用エージェント Ask Advisor も発表されました。Merchant Center に常駐し、Google Ads・Google Analytics を横断してインサイト提供・タスク実行を行います。AI Performance Insights(自社ブランドのAI面でのシェア・オブ・ボイス可視化)、Conversational Attributes(会話型クエリ向け商品属性)と組み合わせて、運用側を一段エージェント化する施策です (Search Engine Land)。
宿泊・飲食事業者にとっても、UCPで受けた注文・予約のパフォーマンスをAsk Advisor経由で分析・最適化する流れが整います。プロトコル(UCP)と運用エージェント(Ask Advisor)が 同じMerchant Centerを基点に統合されたことが、Marketing Live全体の構造的な意味です。
まとめ
UCPがLodgingとFoodに拡張されたことは、エージェンティック・コマースが 「商品の購入」から「サービスの予約」へ広がる転換点です。Amadeus・Booking.com・Hilton・Marriottが co-developer に並んだホテル業界、DoorDash・Uber Eats・Toast・Square が並んだ飲食業界、いずれもこれまで「業界専用プロトコル」で構築されてきた領域に、横断プロトコルが入り始めました。
次に注目すべきは、Lodging と Food の「Detailed specifications」がいつ公開されるか、最初の AI Mode 経由の宿泊予約・食事注文の事例がどのチェーンから出るか、そして PMS/CRS/POS ベンダーが UCP 対応をいつロードマップに載せてくるかの3点です。プロトコルが業界横断で1つに揃った世界は、もう旅行や飲食の現場にも近づきはじめています。





