この記事のポイント
- GoogleとSea Ltdが覚書を締結し、Shopee・Garena・MoneeへのAI統合を3分野で推進
- 東南アジアEC市場シェア52%のShopeeにGoogleのエージェンティックAIが統合される影響は甚大
- EC事業者はエージェンティックコマース対応とAP2(Agent Payments Protocol)の動向を注視すべき
GoogleとSeaがAIイノベーションで戦略提携を発表

Alphabet Inc's Google and Southeast Asian technology conglomerate Sea Ltd announced a new tie-up on Thursday that will develop artificial intelligence tools for Sea's e-commerce and gaming products.
www.reuters.com2026年2月19日、Alphabet傘下のGoogleと東南アジアのテクノロジー大手Sea Limitedは、AIを活用したイノベーションの共同開発に関する覚書(MOU)を締結したと発表しました。対象はSeaの3つの中核事業、すなわちECプラットフォーム「Shopee」、ゲーム事業「Garena」、金融サービス「Monee」の全領域にわたります。
Sea会長兼CEOのForrest Li氏は「AIは次の大きな技術革命であり、私たちのビジネスをポジティブに変革する巨大なポテンシャルがある」と述べています。Google アジア太平洋社長のSanjay Gupta氏も「GoogleのAIリーダーシップとSeaの革新的なエコシステムを組み合わせることで、ゲーム、コマース、金融サービスの未来を定義する製品を構築する」と応じています。
業界動向と提携の背景
今回の提携が注目される最大の理由は、Shopeeの市場支配力にあります。コンサルティング会社Momentum Worksの調査によると、東南アジアのプラットフォームEC市場は2024年に前年比12%成長し、GMV(流通取引総額)は1,284億ドルに達しました。その中でShopeeのシェアは52%、GMVは約668億ドルと圧倒的です。TikTok Shop(約28%)やLazada(Alibaba傘下)を大きく引き離しています。
この巨大ECプラットフォームにGoogleのAI技術が本格統合されることの影響は、東南アジアにとどまりません。Google、Temasek、Bain & Companyが共同で発表したE-Conomy SEA 2025レポートは、「エージェンティックトランザクションの組織化は東南アジアでまだ未開拓の機会」であり、「アーリーアダプターの60%が3倍以上のリターンを報告している」と指摘しています。
世界的に見ても、GoogleはWalmartとのAIショッピング提携やUniversal Commerce Protocol(UCP)の策定など、エージェンティックコマースのインフラ構築を加速させています。Seaとの提携は、その東南アジア版として位置づけられます。
3つの柱 ── ゲーム・コマース・決済
今回の提携は、3つの戦略領域で構成されています。
第一の柱は「次世代ゲーミング体験」です。 GarenaとGoogleは、AIソリューションを活用してゲーム体験の向上とゲーム開発・運用の生産性改革を目指します。GarenaはGoogleの最新AI研究の初期パイロットにもアクセスできるとされています。両社はすでにGoogle Play上の「Free Fire League」で協力関係にあり、今回はその発展形です。
第二の柱は「エージェンティックコマース」です。 ShopeeとGoogleは、両プラットフォームを横断して動作する「AIエージェンティック・ショッピング・プロトタイプ」の共同開発を進めています。商品の発見(ディスカバリー)、エンゲージメント、トランザクションの各段階をAIエージェントがシームレスに支援する構想です。すでにShopeeはYouTube Shopping Affiliate Programに参加しており、GoogleのコンテンツプラットフォームとShopeeの商取引を接続する基盤は整いつつあります。
第三の柱は「エージェンティック決済」です。 Seaの金融サービス部門Moneeは、Googleが2025年9月に発表したAgent Payments Protocol(AP2)の開発に参画します。AP2は、AIエージェントが安全にオンライン決済を実行するためのオープンプロトコルで、Adobe、Mastercard、PayPalなど60社以上のパートナーが参加しています。Moneeは東南アジアの多様なデジタル金融環境でAP2が安全に機能するよう専門的なフィードバックを提供し、パイロット導入を進める計画です。
EC事業者への影響と活用法
今回の提携がEC事業者に与える影響は、主に3つの観点で整理できます。
東南アジア市場での競争環境が変わります。 Shopeeのシェア52%にGoogleのAI技術が統合されれば、検索・レコメンデーション・チェックアウトのすべてにAIエージェントが介在する環境が標準となります。東南アジア市場で販売するセラーは、AIエージェントに選ばれるための商品情報の最適化が不可欠になります。具体的には、構造化された商品データ、正確なカテゴリ分類、充実したレビュー情報の整備が優先課題です。
プラットフォーム横断のAIショッピングが現実化します。 YouTube上の動画コンテンツからShopeeでの購入までをAIエージェントがシームレスにつなぐモデルが具体化すれば、コンテンツマーケティングとECの融合がさらに深化します。クリエイターエコノミーとECの接点で事業を展開する事業者にとって、YouTube Shopping連携の動向は重要な指標です。
AP2対応の準備を始めるべきです。 AP2はオープンプロトコルとして設計されており、Shopee/Moneeでのパイロットが成功すれば東南アジア全域に展開される可能性があります。AP2は「Intent Mandate(意図マンデート)」と「Cart Mandate(カートマンデート)」という2層の暗号署名された承認構造を採用しており、GitHubでオープンソースとして公開されています。決済インフラの刷新を検討中の事業者は、AP2の仕様を今から把握しておくことが推奨されます。
ただし、提携は覚書の段階であり、具体的なサービス提供時期は明示されていません。プロトタイプの開発・検証を経て段階的に展開される見通しです。
まとめ
GoogleとSeaの戦略提携は、東南アジアEC市場の過半数を握るShopeeにエージェンティックコマースの基盤を実装するという、規模とインパクトの両面で注目すべき動きです。ゲーミング、コマース、決済の3領域を同時にカバーする包括的な枠組みは、単なる技術提供にとどまらず、東南アジアのデジタル経済全体のAI化を加速させる可能性があります。
今後注目すべきポイントは、AIエージェンティック・ショッピング・プロトタイプの具体的な機能と提供時期、MoneeによるAP2パイロットの進捗、そしてShopeeの検索・レコメンデーションにおけるAI統合がセラーのビジネスにどのような変化をもたらすかです。東南アジア市場で事業を展開するEC事業者にとって、「AIエージェントに最適化された販売戦略」への転換は、もはや先の話ではなくなっています。




