この記事のポイント
- IPGの調査により、Amazonマーケットプレイスの18カテゴリ中16カテゴリでチャレンジャーブランドがレガシーブランドに勝利していることが判明
- レガシーブランドの商品ページの最大90%が数ヶ月〜数年間未更新、ヘルスケア分野では勝率差が86ポイントに達する
- AIエージェントが消費者の購買行動を左右する時代に、「マシンスピード」でコンテンツを更新できるかが勝敗を分ける
IPGレポートが示すレガシーブランドの劣勢

IPG study reveals legacy brands are losing the agentic commerce war on Amazon marketplace.
www.mediapost.com世界最大級の広告グループであるInterpublic Group(IPG)の「Agentic Systems in Commerce」部門が、レポート「The Hidden Economy Taking Share from Big Brands」を発表しました。Amazonマーケットプレイスのデータを独自分析した結果、レガシーブランド(大手既存ブランド)がチャレンジャーブランド(新興ブランド)に対して、広範なカテゴリで大幅に劣勢であることが明らかになっています。
EC市場におけるサードパーティセラーの台頭
EC市場では近年、サードパーティセラーの存在感が急速に拡大しています。Adweekの報道によると、Amazonでは全販売数量の62%をサードパーティマーケットプレイスセラーが占めるまでに成長しており、大手CPGブランドにとって「ロングテール」の競合が無数に存在する状況が生まれています。
こうした環境の変化に対応するため、IPGは2025年7月に「Agentic Systems for Commerce(ASC)」を正式に立ち上げました。Marketing Diveの報道によると、ASCはAIエージェント技術を活用してEC運用を自動最適化するプラットフォームです。IPGが約1億ドルで買収したAIアナリティクス企業Intelligence Nodeのリアルタイムデータが基盤となっており、SKU・店舗レベルの詳細な競合分析を可能にしています。
Amazonマーケットプレイスの売上勝率分析
18カテゴリ中16カテゴリでチャレンジャーが勝利
今回のレポートの核心は、Amazonマーケットプレイスにおける「売上勝率」の比較です。分析対象となった18カテゴリのうち、チャレンジャーブランドが16カテゴリで勝利しており、そのうち15カテゴリでは勝率差が15ポイントを超える「支配的」な優位性を示しています。
特に顕著なのがヘルスケアカテゴリで、チャレンジャーブランドとレガシーブランドの勝率差は最大86ポイントにも達しています。
商品ページの「放置」が致命的
レポートが指摘する最大の問題は、レガシーブランドの商品ページの更新頻度です。大手ブランドの商品ページの最大90%が数ヶ月から数年間にわたって未更新の状態にあるとされています。さらに、adgullyの報道では、Amazonに出品するブランドの84%がトップ3の非ブランド検索キーワードを一つも獲得できていないことも指摘されています。
レポートは、大手CPGブランドが構造的なハンディキャップを抱えていると分析しています。「主要CPGブランドは数十のリテーラーにまたがり、リテーラーごとに数千のSKU、数百万のデジタルシェルフ配置を管理しなければならず、それぞれが異なるアルゴリズムに支配されている」というのです。
LLM時代の商品発見と「マシンスピード」
レポートが特に警鐘を鳴らしているのが、ChatGPTなどのLLMやAIアンサーエンジンが消費者の商品発見手段として台頭している点です。レポートは「LLMやアンサーエンジンが消費者の商品発見の主要な手段となるにつれ、コンテンツを継続的に更新するブランドが、これらのシステムが依拠する情報を形作ることになる」と述べています。
つまり、AIエージェントが消費者に代わって商品を選定・推薦する「エージェンティックコマース」の時代において、商品ページの鮮度はSEO以上の意味を持つようになります。AIが最新情報を優先的に参照するため、更新を怠ったブランドはAIの「視界」から消えるリスクがあるのです。
IPGのASCプラットフォームが示す解決策
IPG launches ASC to help brands accelerate and sustain profitable sales growth across channels.
www.globenewswire.comIPGのCEO Philippe Krakowsky氏は「ASCは、進化し要求の高いマーケットプレイスでブランドが競争し成功するのを助け、複雑なコマース環境に伴うコストカーブを平坦化できる」と述べています。
ASCは既に20以上のCPGブランドでパイロット導入されており、二桁の売上改善を実現しています。エージェンティック・システムの導入により、営業利益が9%以上改善する可能性があるとレポートは試算しています。
EC事業者への影響と活用法
この調査結果は、規模の大小を問わず、すべてのEC事業者にとって重要な示唆を含んでいます。
新興ブランド・D2C事業者にとっての追い風: デジタルネイティブなブランドは、少ないSKU数と機敏な意思決定で商品ページを高頻度に更新できます。これはAIエージェント時代において大きな構造的優位性です。特に、非ブランドキーワードの獲得に注力することで、AIによる商品推薦で上位に表示される可能性が高まります。
大手ブランドが取るべきアクション: レガシーブランドは「マシンスピード」でのコンテンツ運用体制の構築が急務です。具体的には、商品ページの定期的な更新サイクルの確立、AIを活用したコンテンツ最適化ツールの導入、そしてカテゴリごとの競合モニタリングの自動化が求められます。
日本のEC事業者への示唆: Amazon Japanでも同様の構造変化が進行していると考えられます。特にChatGPTやPerplexityなどのAIアシスタントが日本語でも商品推薦を行うようになる中、商品情報の鮮度と網羅性は、日本市場でも競争優位の源泉となるでしょう。
まとめ
IPGの調査は、「大手だから安泰」という時代が終わりつつあることを、データで明確に示しています。エージェンティックコマースの時代において、勝敗を分けるのはブランドの歴史や知名度ではなく、デジタルシェルフのコンテンツをいかに迅速かつ継続的に最適化できるかです。
AIエージェントが消費者の購買意思決定に深く関与するようになる今後、「マシンスピード」での運用を実現できないブランドは、カテゴリを問わず新興ブランドにシェアを奪われ続けるでしょう。EC事業者は今すぐ、自社の商品ページの更新頻度と品質を見直すべき時期に来ています。



