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2026年4月28日

UCP技術評議会が10社体制へ──Amazon・Meta・Microsoft・Salesforce・Stripeが新規参加、エージェンティックコマース標準を巡る本格競争が開幕

この記事のポイント

  1. Google主導のオープンソース標準Universal Commerce Protocol(UCP)の技術評議会に、Amazon・Meta・Microsoft・Salesforce・Stripeが一斉参加し、創設メンバーと合わせて10社体制に拡大
  2. 評議会は議席を16まで広げており、Identity・支払い・ロイヤリティ・ローカル在庫・返品といった仕様改定を投票で決める「実質的な舵取り役」として機能
  3. OpenAIのAgentic Commerce Protocol(ACP)と並ぶ標準化競争が鮮明になり、EC事業者は両陣営への複線対応とカタログ・決済・Identity周りの整備が急務に

ビッグテック5社一斉参加の意味

GoogleがNRF(National Retail Federation)2026で発表したオープンソース標準Universal Commerce Protocol(UCP)の技術評議会に、Amazon・Meta・Microsoft・Salesforce・Stripeの5社が一斉に加わったことが、2026年4月27日にeCommerceNews Australiaなどで報じられました。創設メンバーであるGoogle・Shopify・Etsy・Target・Wayfairと合わせて、評議会は10社体制へと一気に拡大しています。

注目すべきは「誰が乗ったか」だけではなく、「どの層が乗ったか」です。世界最大のECであるAmazon、Instagramを擁する発見プラットフォームのMeta、Copilotで生成AIエージェントの主戦場を狙うMicrosoft、エンタープライズリテールSaaSのSalesforce、そしてオンライン決済の事実上の標準であるStripe。検索・広告・物流・SaaS・決済という、エージェンティックコマースの主要レイヤーがほぼ揃いました。これは単なる「業界団体への加入ラッシュ」ではなく、AIエージェントが消費者に代わって買い物をする時代のルール作りの主導権争いが新しい段階に入ったことを意味します。

UCPと技術評議会が握る権限

UCPは、AIエージェントが小売事業者と「商品検索・カゴ作成・決済・購入後サポート」までをやり取りするための共通仕様です。Googleが2026年初頭のNRFで初めて公開し、Shopify・Etsy・Target・Wayfairが当初から賛同しました。狙いは明快で、リテーラーごと、AIプラットフォームごとに個別連携を組まずに済むよう、「一つの標準で全方位に繋がる」世界を作ることにあります。

評議会の役割は飾り物ではありません。報道によれば、評議会は仕様への提案を審査し、Identity・支払い・ロイヤリティプログラム・ローカル在庫・返品といった改定案を投票で決定し、コードベースそのものを管理します。最新版では60件以上のプルリクエストがマージされ、launch以来最大のリリースとなりました。カゴ構築、カタログ検索とlookup、署名付きリクエスト/レスポンス、エラーハンドリングの刷新、決済前ディスカウント処理、不正・濫用対策のリスクシグナルなどが盛り込まれています。

公開された議事録には、AIエージェントがセッションやマーチャントを跨いで顧客を識別する「クロスセッションIdentity」の議論や、Metaの担当者がカード資格情報と決済コンプライアンスのドキュメント変更を提出した記録、Microsoftの担当者によるドキュメント修正コミットなどが残っています。新規メンバーは加入の発表前から実装に手を入れているということです。Googleが旗を振る一方で、MicrosoftはすでにMerchant CentreでUCPフィードを一般提供しており、CopilotがUCP経由で商品を表示する経路を整えています。標準は議論の段階から、現実のトラフィックを動かすインフラに移行しつつあります。

新規5社の戦略意図──最大の駒はAmazon

5社が一斉に乗ったとはいえ、各社の事情と狙いには明確な濃淡があります。

最大の意味を持つのがAmazonの参加です。Amazonは世界最大の小売であり、自社ECとAWSの両面でAIコマースの中核プレーヤーです。これまでAmazonは独自経済圏に閉じる傾向が強く、外部標準への関与に距離を置く時期もありました。そのAmazonがGoogle主導の評議会に席を取りに来たことは、「いずれ普及する標準を、外側から見るより内側から動かす」という判断が働いたと読むのが自然です。代表として送り込まれたGreg Smith氏の議席は、AIエージェントが将来Amazon商品にアクセスする際のIdentity・決済・カート操作の仕様に直接影響を及ぼせる位置にあります。

Metaの狙いは、Instagram・Facebookという発見プラットフォームの優位を維持することにあります。James Andersen氏が早速カード資格情報まわりのドキュメント変更を出している事実は、Meta Payやショップ機能をUCPの決済モデルに整合させようとする実装的な動きとして読めます。MicrosoftはすでにUCPフィードのMerchant Centre一般提供を済ませているため、評議会参加は実装の追認であり、Copilot経由のショッピング体験を磐石にする布石です。

Salesforce(Scot DeDeo氏)は、Commerce CloudやAgentforceを使う大規模リテーラーの代弁者として、エンタープライズ要件を仕様に反映させたい立場です。Stripe(Prasad Wangikar氏)の参加は、決済レイヤーの観点から特に重みがあります。StripeはOpenAIと組んでAgentic Commerce Protocol(ACP)を共同設計したPSPでもあり、両陣営の評議会に同時に関与する形になりました。決済が標準化競争の最大の摩擦点である以上、Stripeのデュアル・ポジションは「どの仕様が決済として通るか」を見定める上で象徴的です。

OpenAI ACPとの対立構図

UCPの拡大は、もう一つの標準であるOpenAIのAgentic Commerce Protocol(ACP)との競合関係をいっそう鮮明にしました。ACPはOpenAIとStripeが2025年に発表した仕様で、ChatGPT内のInstant Checkoutを支える土台として、Etsy・Walmart・Target・Sephoraなどが初期参加しています。

この構図で歪みを生んでいるのが、ShopifyとEtsyが両陣営に名を連ねている事実です。両社にとって標準化競争はゼロサムではなく、AIアシスタントごとに異なる仕様を全部受け入れる「複数プロトコル時代」が現実解になっています。一方のOpenAIは、2026年3月にChatGPT内のInstant Checkoutを大幅に縮小し、購入動線をマーチャント側のアプリ・サイトへ戻す方針転換を進めました。BTIGのアナリストMarvin Fong氏は、これによってEtsyのような「触れない商品を扱うマッチング型プラットフォーム」のディスインターミディエーションリスクが下がったと指摘しています(詳しくは弊誌のBTIG分析記事を参照)。

ACPが「AIネイティブの決済まで取り込む」設計だったのに対し、UCPは現時点でマーチャント側のチェックアウトを尊重しつつ、発見と比較を共通化する立て付けが強く出ています。OpenAIが半年で構想の重心を発見側に寄せたいま、両仕様の思想は意外なほど近づいてきました。とはいえ、Identity・支払い・ロイヤリティ・返品といった肝の領域では、どちらが現場に通る仕様を先に固められるかが勝負になります。

評議会は議席を16まで広げる方針を示しており、今後Apple Pay/Google Pay系の決済プレーヤーや、欧州・アジアの大手リテーラー、ロイヤリティ事業者の参加が想定されます。OpenAI側もChatGPTのShopping機能でMastercard、Visa、Block、PayPalなどとの連携を強化しており、両陣営とも「決済とIdentityをどこまで自陣営に取り込めるか」を競っています。

市場規模と「外されるリスク」

UCP陣営が引用している市場見通しでは、エージェンティックコマースは2030年までに米国EC支出のうち1,900億〜3,850億ドル、市場全体の10〜20%を占める可能性があるとされています。控えめに見ても、現在のSNSコマースに匹敵する規模が立ち上がる前提で、各社は標準化を急いでいます。

Amazon・Meta・Microsoftの3社が同時に評議会入りした背景には、「広く採用される標準から外れた状態にはなりたくない」という強い力学があります。仮にUCPが事実上のデファクトとして広がった場合、評議会の外側にいる事業者は仕様改定の意思決定から締め出され、自社サービスをUCPに後追いで合わせるしかなくなります。標準は中で作るほうが、外から追従するより遥かに安いという古典的な合理性が、ビッグテックの判断を駆動しています。

Googleの広告・コマース担当バイスプレジデントVidhya Srinivasan氏は「UCPはエージェンティックコマースの新しい時代への道を急速に切り拓いている。事業者と消費者の双方に恩恵をもたらす共有のオープン標準のもとに、業界が集結していることを誇りに思う」とコメントしています。Shopifyのプロダクト担当VPであるVanessa Lee氏は「AIによる新しい買い物のあり方が花開くには、リテーラー・ビジネス・アプリケーションのあいだに明確な標準が必要だ」と述べました。Shopifyの両陣営参加と整合する、現実主義的な発言です。

EC事業者が今やるべきこと

ビッグテック5社の評議会入りは、EC事業者にとって何を意味するのでしょうか。教訓は3つあります。

第一に、UCP・ACP双方に対応できる「複線戦略」を前提にすることです。どちらか一方に賭ける合理性はもうありません。Shopify・Etsyのように両陣営に名を連ねる事業者を起点に、自社のカタログ・決済・Identityのどの要素がプロトコル横断で再利用できるかを棚卸ししておく必要があります。とくにShopifyマーチャントの場合、UCPフィードへの対応はShopify側の機能更新に追随する形で吸収できる可能性が高い一方、ACP対応は決済処理がどのPSP経由で走るかに左右されます。

次に重要なのが、商品データの構造化です。AIエージェントは構造化された商品情報を起点に発見・比較・推薦を行います。タイトル・属性・在庫・価格・配送条件・返品ポリシー・ロイヤリティ会員限定価格などが機械可読の形で揃っていなければ、UCPフィードを出してもエージェントの選好順位で上位に来ません。Microsoft Merchant CentreがすでにUCPフィード一般提供を始めている事実は、フィード運用の品質がそのままCopilot上の露出に直結することを意味します。

最後に、PSP(決済サービスプロバイダ)の選定基準を見直すべき局面です。Stripeは両陣営に深く食い込んでおり、Adyen・Checkout.com・PayPalなどもエージェンティックコマース対応を急いでいます。AIエージェント経由の取引で、トークン化・3DS・ディスピュート対応・ロイヤリティ連携をどう担保するかは、単なる料率比較を超えた選定軸になります。

まとめ

UCP技術評議会の10社体制への拡大は、エージェンティックコマースの標準化競争が「未来の話」から「今期の意思決定マター」に変わったことを示すマイルストーンです。Googleの旗の下にAmazon・Meta・Microsoft・Salesforce・Stripeが揃ったことで、UCPは少なくとも実装層に十分な厚みを持つ標準として立ち上がりました。一方でOpenAIのACPは、Instant Checkoutの方針転換を経て発見側に重心を寄せ、UCPと共存しうる思想に近づいています。

EC事業者にとっての現実解は、どちらか一方を信奉することではなく、カタログ・決済・Identityのレイヤーごとに、両プロトコルへ自然に対応できる土台を整えることです。標準は決まってから動いても遅く、決まる前のテストネットの段階で自社オペレーションを慣らしておくことが、AIエージェントが本格的に消費者の財布を預かる時代の競争優位を左右します。