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2026年4月28日

Riskified Q1 2026調査で露呈した信頼ギャップ──61.5%がAIで商品発見も、55%が代理購買を拒否、Q4から15ポイント後退

この記事のポイント

  1. RiskifiedのQ1 2026調査で、AIによる商品発見の利用は61.5%まで広がる一方、AIエージェントによる代理購買への不快感が55%に達し、Q4 2025の「快適」70%から大幅に後退しました。
  2. 不正購買の責任所在はAIプラットフォーム50.8%が筆頭で、73.9%が生体認証やOTPを毎回要求するなど、消費者の懸念が「漠然とした不安」から「具体的な要件」へ変質しています。
  3. AmEx ACEやJ.P. Morgan×Miraklなど決済インフラ側の信頼設計が前進する一方、EC事業者は購買限度額・責任の明示・段階的な権限委譲設計を急務として整備する必要があります。

「便利さ」と「委任拒否」のギャップが数字で可視化された

ECフラウド対策大手のRiskified(NYSE: RSKD)が2026年4月27日、四半期調査「Agentic Commerce Pulse」のQ1 2026版を公開しました。米英2,000人を対象にしたこの調査が示したのは、エージェンティックコマースの普及曲線が単純な右肩上がりではない、という事実です。

商品発見にAIを使う消費者は61.5%まで増えました。しかしAIエージェントが本人に代わって購買を完了することへの不快感は55%に達し、Q4 2025で「少なくとも多少は快適」と答えた70%から劇的に後退しています。

Riskifiedの最高マーケティング責任者であるJeff Otto氏は声明で「採用と信頼のギャップが拡大している」と述べました。便利さと個別最適化はAIに期待しつつ、コントロールと責任の手放しは拒む――この温度差が四半期単位で鮮明になったわけです。

Q4 2025からQ1 2026への変化を読み解く

調査の最大の発見は、わずか3か月で消費者心理が反転した点にあります。

指標Q4 2025Q1 2026変化
AIエージェントによる代理購買への姿勢70%が『少なくとも多少快適』55%が『不快』信頼が大きく後退
ショッピング過程でのAI利用全般73%が利用経験あり61.5%が商品発見・推薦で利用用途は限定方向へ
主な不安要素決済セキュリティ32%、プライバシー26%(漠然とした不安)オンライン詐欺リスク53.9%、強固な認証要求73.9%(具体化)懸念がより明確に
不正購買の責任所在Q4では未調査AIプラットフォーム50.8%、小売店23.2%、本人18.7%プラットフォーム責任論が主流

Q4 2025の調査では、AIエージェントの代理購買に対して70%が「少なくとも多少は快適」と回答していました。それがQ1 2026では55%が逆に「不快」と答え、ネガティブ側に振れています。同じ調査主体・同じ国・同じ手法での比較ですから、ノイズではなく実体験の蓄積が反映された数字と読むのが自然でしょう。

不安の質も変わりました。Q4では「決済セキュリティ32%」「プライバシー26%」といった漠然とした懸念が並んでいたのに対し、Q1では53.9%がAIによる詐欺リスク増大を具体的に指摘し、73.9%が生体認証やワンタイムパスワードを毎回求める水準まで具体化しています。

漠然とした不安が、明確な実装要件へと変質した――これが3か月の最大の差分です。

6つの数字が示す消費者の本音

Q1調査の核心となる数字を、もう少し丁寧に紐解いてみます。

数字内容
61.5%AIツールを商品発見・推薦に利用した経験がある
55.0%AIエージェントによる代理購買を『不快』と回答
46.5%いかなる企業にも購買管理を委ねたくない
53.9%AIによってオンライン詐欺リスクが増大すると認識
73.9%生体認証またはワンタイムパスワードを毎回要求
50.8%不正購買の責任はAIプラットフォームにあるべきと回答

注目すべきは「46.5%がいかなる企業にも購買を委ねたくない」と答えた点です。半数近くの消費者が、AIプラットフォームでも小売事業者でも銀行でもなく、誰にも委ねたくないと表明しているのは重い結果と言えます。「どこに任せるか」ではなく「そもそも任せない」という選択肢が、現時点では最も支持されているわけです。

不正購買の責任所在に関する回答も興味深い構造をしています。AIプラットフォーム50.8%、小売・ブランド23.2%、消費者本人18.7%という配分は、消費者がエージェンティックコマースを「自分が能動的に選んだ買い物」ではなく、「AIに代行させたサービス利用」として認識していることを示唆します。

つまり責任は提供者側にある、という法的フレーミングが先行しているのです。

なぜ短期間で信頼が後退したのか

3か月で15ポイントもの後退が起きた背景には、いくつかの要因が考えられます。

第一に、実体験の蓄積です。Q4 2025時点では「やってみたい」というポジティブな期待値で回答していた層が、Q1までの数か月で実際にChatGPTのInstant Checkoutやretailer発のAIエージェントを試し、誤発注・意図しない決済・キャンセル不可といった課題に直面した可能性があります。

第二に、AI関連の事故報道です。プロンプトインジェクションを使ったAIエージェントへの攻撃シナリオは、Palo Alto Networks Unit 42などのセキュリティベンダーが具体例とともに公表しており、消費者の警戒感を押し上げる方向に働いています。AIエージェントを悪用した小売詐欺の具体的シナリオに整理した通り、ギフトカード窃取や返品詐欺の自動化は理論ではなく実装可能な脅威となっています。

そして第三に、好みのプラットフォームが定まっていないことです。Q1調査では、エージェンティックコマースで使いたい場所として「ChatGPTやGeminiなど汎用AI」が31.2%、「小売事業者のサイト/アプリ」が27.0%、「使いたくない」が24.4%と、回答が分散しました。4人に1人は『使いたくない』と明確に答えている点は見逃せません。

業界の対応──AmEx ACEとJ.P. Morgan×Miraklの動き

信頼ギャップを埋めるための動きは、決済インフラ側で先行しています。

American Expressは2026年4月、エージェンティックコマース用の開発キット「ACE(Agentic Commerce Experiences)」を発表しました。AIエージェントを事前登録制で検証し、トークン化されたクレデンシャルでのみ決済を許可する仕組みです。同時にAgent Purchase Protectionという購買保護プログラムも開始し、登録済みエージェントによる誤購買の解決パスを用意しました。AmExが発行・ネットワーク・アクワイアラーを兼ねる強みを生かした、垂直統合型の信頼設計といえます。

J.P. Morgan PaymentsはMirakl SASと2026年3月に提携し、Miraklのエージェンティックコマースサービス「Nexus」にJ.P. Morganの決済処理・トークン化・不正対策を組み込みました。J.P. Morgan Paymentsの生体認証・ID担当エグゼクティブディレクターであるPrashant Sharma氏は、「検証済みエージェントID、ユーザー制御の権限設定、銀行品質のリスク管理を組み合わせて、信頼を維持しながらAIエージェントが取引できる環境を作る」と説明しています。

両者に共通するのは、『AIエージェントが勝手に決済する』のではなく『誰のどの権限で動いているかを明示・追跡できる』仕組みを土台に置いている点です。Riskifiedの調査でも73.9%が毎回の認証を求めていることを踏まえれば、こうした事前登録・トークン化・購買保護の三点セットは消費者期待と整合的です。

EC事業者が今すぐ整えるべき信頼設計

調査結果はEC事業者にとって、エージェンティックコマースを「導入するかどうか」ではなく「どう信頼を組み立てるか」の段階に入ったことを示します。優先順位の高い実装ポイントを整理します。

最も重要なのは段階的な権限委譲設計です。AIエージェントに購買を完全委任させるのではなく、「カート作成までは自動」「決済確定は人間が承認」「定期購買のみフル委任」といった粒度の細かい権限設計を提供する必要があります。Riskified調査の46.5%が「誰にも委ねたくない」と答えた現状では、フル委任を前提とした体験設計はむしろ顧客を遠ざけます。

次に毎回の本人認証の標準実装です。生体認証またはOTPを73.9%が要求しているのは、単なる希望ではなく事実上の前提条件と捉えるべき水準です。エージェント経由の決済フローでは、Passkey・FIDO2・OTPのいずれかをカートロック前に必ず差し挟む設計が現実解になります。

そして責任所在の明示と購買限度額の組み合わせです。50.8%が「不正購買はAIプラットフォーム責任」と考えていることを踏まえれば、自社サイトで動くエージェントについて「どこからどこまでが事業者責任か」を利用規約レベルで明文化する必要があります。AmExのAgent Purchase Protectionのような保護プログラムを、自社の購買規約・決済プロバイダー契約のどちらかでカバーする設計が望ましいでしょう。

加えて、エージェンティックコマースの信頼・セキュリティフレームワークの議論で扱った通り、エージェントID検証・トランザクションリミット・監査ログの三点は規模を問わず実装すべき最低ラインです。

まとめ──信頼ギャップは『商機』に転換できる

Riskified Q1 2026調査が突きつけたのは、エージェンティックコマースの普及が技術ではなく信頼の問題で律速される、という現実です。AIによる商品発見は確実に広がっています。しかし「カートに入れる」と「決済を完了する」の間に、消費者は明確な線を引きました。

この線引きは、EC事業者にとって障害ではなく差別化の余地でもあります。段階的な権限委譲、生体認証の標準化、責任所在の明示──この三点を先んじて実装した事業者は、信頼ギャップそのものを競争優位に変換できる立場にあります。

四半期ごとに更新されるこの調査は、消費者心理の変動を測る貴重な指標です。次回Q2 2026の発表時に、信頼の数字が再び反転するのか、それとも委任拒否がさらに固定化するのか――エージェンティックコマースに関わる全プレイヤーが注視すべき継続観測ポイントとなりました。