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2026年4月29日

VisaがQ2 FY26決算で示した「エージェンティックコマースは長期成長エンジン」──$11.2B売上の裏側とIntelligent Commerceの本気度

この記事のポイント

  1. VisaがQ2 FY26(2026年1〜3月期)で売上$11.2B(前年比17%増)と2022年以来最強の四半期成長を記録、純利益も20%増
  2. CEOのMcInerney氏が決算説明会で「エージェンティックコマースは長期的にVisaが寄り添える全く新しいエコシステムを生み出す」と明言
  3. $20Bの新規自社株買い枠とIntelligent Commerce拡大投資が並走、EC事業者は決済パートナーのVisa対応状況を再点検すべき局面

Visaが2022年以来最強の四半期成長を記録

2026年4月28日、Visaは2026会計年度第2四半期(2026年1〜3月期)の決算を発表しました。American BankerのJoey Pizzolato記者の報道によれば、純売上は$11.2B(前年同期比17%増)で、2022年以来最強の四半期成長率となっています。EPSは前年比20%増の$3.31で、市場予想の$3.10を大きく上回りました。決済処理ボリュームは恒常為替ベースで9%増の$3.7T、処理トランザクション数も9%増の660億件に達しています。

短期的なドライバーは、夏に開催されるFIFAワールドカップに伴う消費者・コマーシャル領域の特需です。しかし決算説明会で投資家の関心を集めたのは、CEOのRyan McInerney氏が長期成長エンジンとして繰り返し言及したエージェンティックコマースでした。同氏は「エージェントは大幅に多くのトランザクションを生み出す。一部のユースケースでは、エージェントが自身のデータやリソース消費に対してトランザクション単位・イベント単位で支払うようになり、マイクロトランザクションという全く新しいコマースカテゴリが生まれる」と述べています。

「インターネット黎明期の再現」というポジショニング

McInerney氏のコメントには、Visaがエージェンティックコマースをどの規模感で捉えているかが端的に表れています。American Bankerによれば、同氏は決算説明会で「長期的に、エージェンティックコマースはVisaが寄り添える全く新しいエコシステムを生み出している」と発言しました。これは2025年4月のVisa Intelligent Commerce発表時に、Chief Product OfficerのJack Forestell氏が語った「90年代後半から2000年代初頭のEC黎明期以来、こんなものは見たことがない」という認識と一貫しています。

つまりVisaは、AIエージェントが商取引の主要な担い手になる新しい層に対して、インターネット黎明期にカード決済が選ばれたのと同じ構造を再現しようとしている、というのが経営陣の現状認識です。Q2の決算数字は、そのビジョンに資金を投じ続ける余力があることを株主に示すものでもあります。実際、Visaは四半期中に$7.9Bの自社株買いを実行し、加えて$20Bの新規自社株買い枠と1株$0.670の四半期配当も決議しています。

Q2 FY26決算の主要数値

特筆すべきは、決済ボリュームの伸び(9%)に対して売上の伸び(17%)が大きく上回っている点です。背景にはバリューアドサービス(不正対策、トークン化、データ分析、コンサルティング)の拡大があり、これは将来エージェンティックコマースで収益化される領域とも重なります。Visaが純粋なカードネットワーク事業者ではなく、決済インフラとデータの両方を売る「Payments Hyperscaler」へと変質しつつあることを、今回の決算は数字で裏付けた格好です。

Visa Intelligent Commerceの中身──カードトークン化とKYAが両輪

エージェンティックコマースに対するVisaの実装がVisa Intelligent Commerceです。2025年4月にOpenAI、Anthropic、Microsoft、IBM、Mistral AI、Perplexity、Samsung、Stripeをパートナーに迎えて発表され、その後一年間で機能拡張が続いています。

中核はAI対応カード(AI-ready cards)です。物理カード番号をトークン化したデジタル資格情報に置き換え、AIエージェントが消費者に代わって決済を実行する際のセキュリティを担保します。消費者は事前に支出上限・対象カテゴリ・時間制限などを設定でき、Visaがエージェント側のリクエストを検証してから決済を承認します。これは2025年10月発表のTrusted Agent Protocolと組み合わせることで、悪意あるボットと正規のAIエージェントを区別する仕組みになっています。

2026年に入ってからは、Visa Intelligent Commerce Connectとしてマーチャント側API群も整備が進みました。マーチャントは単一統合で、Visaカード以外のレールも含めた決済受付が可能になっています。さらにアジア太平洋CEMEAラテンアメリカとリージョナル展開が進み、決算で言及された「100社以上のグローバルパートナー」「30社以上がサンドボックスで開発中」という数字に結実しています。

競合比較──Mastercard、Stripe、Coinbaseとの違い

エージェンティックコマースの主導権争いは、Visaの独走ではありません。同日4月30日にMastercardもQ1決算を発表予定で、市場は両社の数字とAI戦略を直接比較する構図にあります。

Mastercardは2025年4月にMastercard Agent Payを発表し、Microsoft、IBMに加えてOpenAIとも連携を進めています。2026年1月にはAgent Suiteを発表し、StripeやGoogle、Ant InternationalのAntomとの連携拡大も明らかにしました。MCP(Model Context Protocol)サーバー経由でAI開発ツールから直接APIを参照できるAgent Toolkitも提供しており、開発者導線への投資ではVisaに先行する側面があります。

Stripeは独自にAgent Toolkitを提供し、Visaのエコシステムと並走するかたちで開発者層を押さえています。Coinbaseのx402プロトコルやCircleのUSDC決済は、暗号資産レイヤーで「エージェントが直接支払う」仕組みを別角度から提供しており、Visaの長期的競合となる可能性があります。

つまり、Visaの強みは既存の消費者カード普及・不正検知データ・トークン化基盤という三点セットの厚みであり、競合は開発者導線(Mastercard、Stripe)や非カードレール(Coinbase、Circle)から攻める構図です。決算でMcInerney氏がエージェンティックコマースを「長期エンジン」と位置づけたのは、この競合構図に対する明確な防衛宣言でもあります。

EC事業者が今すべき3つの判断

決算と戦略の整合性が確認できた以上、EC事業者にとってVisa Intelligent Commerceへの対応優先度は引き上げざるを得ません。

第一に、決済プロセッサのIntelligent Commerce対応状況を確認する。自社が利用するアクワイアラーやPSPがVisa Intelligent Commerce ConnectやTrusted Agent Protocolにどこまで対応しているかは、エージェンティックコマース対応の前提条件です。アクワイアラー側の準備状況にギャップがあることは、2026年3月のPYMNTSレポートで既に指摘されています。

第二に、ネットワークトークンへの移行を加速する。AIエージェントによる決済は、生のカード番号ではなくトークン経由が前提です。サブスクリプション管理や不正対策の文脈ですでにトークン化を進めている事業者は、エージェント対応への移行が容易です。逆に未対応の事業者は、ホリデーシーズン前のスプリントで導入を検討する価値があります。

第三に、エージェント由来のトラフィックを「ボット」と一括拒否しない仕組みを準備する。Visaは正規エージェントと悪意あるボットを識別するTrusted Agent Protocolを推進していますが、マーチャント側のWAFや不正検知ロジックが古いままだと、せっかくの正規エージェント取引を取りこぼします。この部分はアクワイアラーやWAFベンダーとの設定見直しが必要です。

まとめ

VisaのQ2 FY26決算は、短期的にはワールドカップ特需と$20Bの自社株買いという株主還元のメッセージで構成されていますが、長期的にはエージェンティックコマースを成長エンジンとして公式に位置づけた節目の決算でした。McInerney氏の「エージェントは新しいコマースカテゴリを生む」という発言は、単なる将来展望ではなく、Intelligent Commerceの拡大投資と整合した経営判断として読むべきです。

EC事業者にとって、ここから数四半期は決済パートナーのエージェント対応力を見極める期間になります。次の注目点は、4月30日に控えるMastercard Q1決算でのAI戦略開示と、Visaが2026年ホリデーシーズンに向けて公表するパートナー数・トランザクション規模の進捗です。