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2026年3月10日

Visa、アジア太平洋が「インテリジェントコマース」の世界標準を牽引すると表明——AIエージェント決済の信頼構築が鍵

目次
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この記事のポイント

  1. Visaアジア太平洋社長がシンガポールでAIエージェント決済の展望を語り、同地域がグローバルの先頭に立つと明言
  2. シンガポールでは消費者の75%超がAIを買い物に活用する一方、決済の委任には「信頼」の壁が残る
  3. EC事業者はVisa Intelligent CommerceのTrusted Agent ProtocolやFlex Credential対応を早期に検討すべき

Visaアジア太平洋社長が語る「AIコマースの未来」

2026年3月9日、PYMNTS.comはVisaアジア太平洋地域社長のStephen Karpin氏へのインタビューを公開しました。Karpin氏は、AIエージェントが消費者に代わって買い物から決済までを完結させる「インテリジェントコマース」の時代において、アジア太平洋地域がグローバルをリードすると明言しています。

シンガポールでは消費者の75%以上がすでにAI言語モデルを活用して商品を調査・比較しています。しかし、AIに実際の「決済」を委ねている消費者はほぼいません。この「発見と購入の間のギャップ」を埋めることが、次のコマース革命の焦点です。

背景と業界動向

エージェンティックコマース(AIエージェントが自律的に購買行動を行う仕組み)は、2025年後半から急速に注目を集めてきました。Visa公式発表によると、AIによる小売サイトへのトラフィックは過去1年で4,700%以上急増しています。Visaはこの流れに対応するため、2025年11月のシンガポール・フィンテック・フェスティバルで「Visa Intelligent Commerce」の拡大を発表しました。

決済ネットワーク各社もこの分野に注力しています。Mastercardは独自のAgent Suiteを展開し、Stripeはエージェンティック決済APIを整備するなど、業界全体がAIエージェント対応を急いでいます。その中でVisaは、アジア太平洋のモバイルファースト環境を最大の強みと位置づけています。

同地域ではオンライン取引の73%がモバイルデバイスで行われ、商品発見の80%がモバイルファーストのチャネルを通じて起きています。スーパーアプリ、QR決済、リアルタイム決済レールがすでに消費者行動に深く組み込まれており、AIエージェントが活動する基盤として最適な環境が整っています。

「信頼」がエージェンティック決済の最大の壁

Karpin氏が繰り返し強調したのは、AIエージェント決済の普及を阻む最大の障壁が「技術」ではなく「信頼」であるという点です。

「信頼はコマースにおいて常に根本的なものでした。お金を動かすとき、それは極めて重要です」とKarpin氏は述べています。消費者はAIを使って商品を閲覧・比較することには抵抗がありませんが、AIに直接的な金銭のやり取りを任せることには慎重です。

この信頼の壁を越えるためにVisaが打ち出しているのが、「Trusted Agent Protocol(信頼済みエージェントプロトコル)」です。Visaの発表によると、このプロトコルはエージェント固有の暗号署名を使用し、正当なAIエージェントと悪意あるボットを区別する認証レイヤーを提供します。加盟店はこの仕組みにより、取引を開始するAIエージェントの正当性を検証でき、その背後にいる消費者の可視性も維持されます。

すでにVisaはグローバルで100社以上のパートナーと協力し、数百件の実環境でのエージェント決済テストを完了しています。パートナーにはAnt International、Microsoft、Perplexity、Stripe、Tencentなど大手テック・決済企業が名を連ねています。

Flex Credentialが変えるAIエージェントの決済最適化

Visaが技術面で特に注力しているのが「Flex Credential(フレキシブル・クレデンシャル)」です。これは1つの決済資格情報で、クレジット、デビット、ポイント、BNPL(後払い)、マルチカレンシー口座、さらにはステーブルコインまで、複数の資金源を動的に切り替えられる仕組みです。

エージェンティックコマースにおいては、この切り替え判断が消費者の手を離れ、AIエージェントがバックグラウンドで最適化を行います。Karpin氏はこの構想について「エージェントが複数の資金源を装備した場合を考えてみてください。それは破壊的な提案です」と語っています。

さらにVisaの「Visa Accept」は、デビットカードやプリペイドカード保有者が直接口座へ支払いを受け取れる機能で、消費者と加盟店の境界を曖昧にします。ギグワーカーやマイクロマーチャントにとっては、1つの資格情報で受け取り・支出・資金管理を同時に行えるため、エージェンティックシステムが今後機能する形を先取りしています。

「ネットワーク・オブ・ネットワークス」戦略と相互運用性

Visaは「ネットワーク・オブ・ネットワークス」戦略を掲げ、相互運用性をエージェンティックコマース拡大の鍵と位置づけています。決済資格情報が国境を越えて一貫して機能し、断片化による消費者の信頼低下を防ぐことが狙いです。VisaとMastercardの標準規格競争が進む中、相互運用性の確保はますます重要性を増しています。

具体例として、Visaと中国銀聯(China UnionPay)の提携があります。中国本土の消費者が国内インフラとの連携を維持しながら国境を越えた資金移動を行える仕組みで、Karpin氏はこれを「各ネットワークが単独では再現できない能力を補完し合う協業」と表現しています。

EC事業者への影響と活用法

Visaのインテリジェントコマース構想は、EC事業者に3つの具体的な行動を促しています。

まず、「Trusted Agent Protocol」への対応準備です。AIエージェントからの注文が今後急増することが予想される中、正当なエージェントを識別し、ボットと区別するための認証基盤を導入する必要があります。Visaによれば、ローコードで既存インフラを大幅に変更せずに統合できる設計になっています。DBS銀行との共同パイロットではすでに実取引が完了しており、実装の現実性は実証済みです。

次に、Flex Credentialへの対応です。消費者がAIエージェントに複数の決済手段の最適化を委ねるようになると、加盟店側もクレジット・デビット・BNPL・ポイントなど多様な資金源からの決済を柔軟に受け入れる体制が求められます。

最後に、AIエージェント向けの商品情報最適化です。AIが商品を評価・比較する際に正確で構造化されたデータを提供できるかどうかが、エージェントに「選ばれる」加盟店になるための条件になります。

VIC(Visa Intelligent Commerce)サンドボックスではすでに30社以上のパートナーが開発を進めており、2026年前半にアジア太平洋でのパイロットが本格化する見込みです。

まとめ

Karpin氏は「信頼済みエージェントはスケールアップすると確信しています。エージェントが非常に大きな規模で決済を行うようになるでしょう。アジア太平洋地域が、今後数ヶ月から数年の間に多くの指標でその先頭に立ちます」と語っています。

モバイルインフラ、トークナイゼーション、相互運用性フレームワーク、Flex Credentialといった技術基盤はすでに整っています。残る変数は「信頼」であり、Karpin氏はそれを技術的課題ではなく「実績の積み重ねの問題」と捉えています。Visaの100社超のパートナーによる実証実験が進む中、2026年はAIエージェント決済が「実験」から「実用」へ移行する転換点となる可能性が高いと言えます。EC事業者にとって、このタイミングでの準備着手が競争優位につながります。