この記事のポイント
- Bank of America Securitiesが「インターネットの次の入口はエージェンティックAI」と明言し、Googleを最有力候補に位置づけた
- Google AI Modeは月間10億人、AI Overviewsは25億人に到達し、検索の主導権を握ったまま「エージェントの入口」へ移行している
- OpenAI・Anthropic・Perplexityも独自プロトコルとAIブラウザで参戦しており、EC事業者はトラフィック前提のKPIを根本から組み直す必要がある
BofAが示した「次のインターネット入口」という構図

Can Agentic AI become the internet's next gateway?
www.investing.com2026年5月31日、Investing.comがBank of America Securities(BofA)のテクノロジーレポートを引用し、「エージェンティックAIがインターネットの次のゲートウェイになり得るか」という問いを正面から取り上げました。結論として同レポートは、検索・予約・買い物までAIがユーザーの代わりに完結させる時代において、Googleがその入口を握る最有力候補だと評価しています。
注目すべきは、議論の前提が「AIで検索がどう変わるか」から「誰がエージェントを動かす入口を所有するか」へ移った点です。これまでURLバーとリンクの一覧が担っていた役割を、エージェントが置き換えていく。BofAはこの構造転換のなかで、Googleが「Universal Commerce Protocol(UCP)」「AI Mode」「Universal Cart」「Search Agents」といった複数のレイヤーで先行していると指摘しました。
Googleが入口を握る理由――10億人のAI Modeとプロトコル戦略
数字を一つだけ覚えるなら、これでしょう。Google AI Modeは2025年I/Oでの発表から12か月で月間10億ユーザーに達し、AI Overviewsは25億人に届いています。Googleの総ユーザーが約45億人と言われるなか、そのうち半数超が日常的にAI生成のサマリーを見ている計算です(Digital Applied)。
ここに「商取引まで完結させる」レイヤーを重ねたのがUniversal Commerce Protocol(UCP)です。Shopify・Etsy・Wayfair・Target・Walmart・Visa・Mastercard・Stripeを含む20社以上が支持し、AIエージェントが商品比較、在庫確認、決済までを一気通貫で行えるように設計されています(Google公式ブログ)。Universal Cartはその上で、横断的なショッピング履歴をエージェントが文脈として持ち運ぶための「カート」を提供します。
さらに重要なのが、Googleが切り出した決済プロトコルAgent Payments Protocol(AP2)です。Mastercard、PayPal、Coinbase、American Expressなど60以上のパートナーが参画し、AIエージェントが本人の意図と上限額を「Intent / Cart / Payment」の3つの署名されたMandateとして検証可能な形で扱える仕組みを提供します(Google Cloud Blog)。GoogleはAP2をFIDO Allianceに寄贈し、規格としての中立性を担保しに動いています。
この三層――発見(AI Mode)、束ね(UCP / Universal Cart)、決済(AP2)――が同時並行で立ち上がっている点が、BofAがGoogleを評価する根拠です。検索シェアを抱えたままエージェントの入口に染み出していくシナリオは、Web1.0 → Web2.0の覇権交代と異なり、既存王者がそのまま勝ち残る可能性を残します。
OpenAI・Anthropic・Perplexityの反撃と「AIブラウザ」の登場
ただしBofAは、競争が一気に激しくなっているとも釘を刺しています。OpenAIのChatGPTは週間アクティブユーザー約10億人に達し、独自のAgentic Commerce Protocol(ACP)でTarget、Sephora、Nordstrom、Lowe's、Best Buy、The Home Depot、Wayfairを取り込んできました(OpenAI Developers)。一度はStripeと組んだInstant Checkoutを縮小し、現在は「ChatGPT内に小売業者の専用アプリを置き、決済は小売側の体験で完結させる」モデルへ軸足を移しています。「決済を握る」より「発見と意図形成の入口を握る」方が長期的に強い、という判断が透けて見えます。
OpenAIのもう一つの賭けがChatGPT Atlasです。2025年10月にmacOS向けに登場したAIブラウザで、サイドバーアシスタント、エージェントモード、サイト横断の「ブラウザメモリ」を備えます。Associated Pressはこれを「ユーザーがGoogleやAppleを介さずにAIに到達するための独自の入口」と位置づけました。2026年3月にはChatGPTアプリ、Codexと統合され、デスクトップ上の「OpenAI入口」として一本化される予定です。
Perplexityも侮れません。Perplexity Cometブラウザは2026年3月にiOS App Storeで世界3位を記録し、同社のARRは月間で約450億円に到達したと報じられています(MWM)。月間アクティブユーザーは1億人を超え、AIチャットボット市場のシェアはまだ6〜8%ながら、18か月で15〜20%に伸ばす計画です。Comet・Atlas・Geminiが「ブラウザ=AIエージェントの実行環境」として直接ぶつかる構図が、2026年の象徴的な風景になっています。
Anthropicは別の角度から入口に近づいています。Claude Computer Useは2026年3月にエージェント版がリリースされ、ユーザーのデスクトップを見て、クリックし、アプリを開き、スプレッドシートを埋めるところまで実行できます。Cowork製品では、ユーザーが席を外している間にもタスクを進める「Dispatch」機能が提供されました。ブラウザを所有しないアプローチで、OS上のあらゆるアプリケーションを横断する「メタ入口」を狙う形です。
EC事業者・マーケターが今、組み替えるべきKPI
ここからが本題です。入口の所有者が変わると、トラフィックを前提に設計されてきたEC事業者のKPIが意味を失います。エージェントが「比較」「決断」「決済」を内側で完結させると、店舗サイトへの遷移そのものが減るからです。
すでに兆候は出ています。BrightEdgeの内部計測では、AIエージェント由来のクローリングはオーガニック検索活動の約33%に達し、LLM系ボットのクロール量はGooglebotの3.6倍に膨らんでいます(Position Digital)。Yotpoの分析では、AI要約が表示された検索結果でオーガニックCTRは61%、有料広告CTRは68%下落する一方、AI要約に引用されたブランドはCTRが35%向上します。トラフィックの「量」より、AIに「選ばれた回数」が業績に直結し始めています。
このため、2026年のEC事業者が見るべき指標は次のように変わります。検索順位ではなくAIの回答内での出現頻度(Citation Frequency)。クリック数ではなくAnswer Inclusion率。コンバージョン率ではなくエージェント経由のチェックアウト率と再注文率。Clickrankは2026年のSEOを「トラフィックを稼ぐ競争から、AIの意思決定への影響度を競う戦い」と表現しました(Clickrank)。
実装面では、商品データの構造化とフィードの整合性が最優先課題に浮上しています。GTINやMPNが欠落したShopifyストアで、AIショッピングアシスタントが在庫の40%以上を無視した監査事例も出ました。Merchant Centerのフィードとサイト上の構造化データが食い違うと、UCP配下では推薦候補から静かに除外される――この一文の重みが、2026年のEC事業者には日々重くのしかかります。
予算配分の議論も始まっています。YotpoはECマーケティング予算の10%以上をAI駆動の商品発見に振り向けるよう推奨しています。これは追加予算ではなく、従来のSEO・SEM予算からの再配分を意味します。ベンダー側にもAI SEOやAEO(Answer Engine Optimization)に特化したエージェンシーが急増しており、「AI引用率」を成果指標として契約するモデルも広がっています。
それでも「入口の独占」は起きないかもしれない
最後に冷静な視点を添えます。BofAの結論はGoogle優位ですが、エージェント時代の入口は単一の勝者がすべてを取る構造になりにくい性質を持っています。理由は二つあります。
一つは、エージェントが複数のサービスを横断する前提のため、プロトコル(UCP、ACP、AP2、MCP、A2A)が「相互運用される」方向に進んでいることです。a16zが「2026年は入力ボックスが消える年」と表現したように、ユーザーは特定のサービス名を意識せず、エージェントに「これやっておいて」と委ねるようになります。複数のエージェントが裏で連携する構図では、入口の所有者が誰であれ、データとプロトコルが取引の主役になります(a16z Big Ideas 2026)。
もう一つは、エージェントの「失敗体験」がブランドへの信頼を直撃する点です。OpenAIがInstant Checkoutを縮小したのは、Shopify数百万店のうち稼働したのが30未満だったためでした(Lengow)。エージェントが誤った商品を選んだり、在庫切れを掴んだりするたびに、ユーザーは「次はGoogleで」「次はAmazonで」と切り替えます。入口の所有権は、毎回の体験品質によってリアルタイムに塗り替えられる。これは検索の時代より、ずっと流動的な世界です。
まとめ
BofAが投げかけた「エージェンティックAIはインターネットの次の入口になるか」という問いに対し、現時点で最も妥当な答えは「なる。ただし誰が独占するかは未確定」というものでしょう。Googleは検索シェアとUCP・AP2・Universal Cartで先行しますが、OpenAIのAtlasとACP、PerplexityのCometブラウザ、AnthropicのComputer Useが、それぞれ異なる切り口で入口を奪いに来ています。
EC事業者にとっての論点は明確です。トラフィック前提のKPI体系を、AI引用率・エージェント経由CV率・プロトコル対応度へ組み替える。商品データを構造化し、UCP・ACPの両方に対応する。そして、どの入口から来てもブランド体験が崩れないように、エージェント越しのUXを設計する。入口が誰のものになるかを当てるより、すべての入口から「選ばれる」体制を作る方が、長期的にはずっと再現性のある戦略になります。




