この記事のポイント
- 生成AIプラットフォームが商品発見の起点となる一方、その影響がアトリビューション分析で追跡できない
- ChatGPTからの参照トラフィックは全体の約1%だが、消費者の35%がAIで商品を発見しており実態と乖離
- EC事業者はラストクリック依存を脱し、インクリメンタルテストやMMM(マーケティングミックスモデリング)の導入が急務
生成AIの影響が「見えない」問題が浮上

The influence of genAI platforms on shopping remains largely invisible, at least for now.
www.practicalecommerce.com2026年3月8日、EC専門メディアPractical Ecommerceが「The AI Attribution Blind Spot(AIアトリビューションの死角)」と題した分析記事を公開しました。生成AIプラットフォームが消費者の購買行動に大きな影響を与えているにもかかわらず、その貢献が既存のアトリビューション分析ではほとんど捕捉できていないという問題を提起しています。
記事で取材を受けたLatentView AnalyticsのCPG・ホスピタリティ事業責任者Kaushik Boruah氏は、「発見可能性が10本のリンクから1つの回答に縮小した」と指摘しています。従来の検索エンジンでは10件のオーガニック検索結果が表示されていたのに対し、AIアシスタントは1つまたは少数のブランドだけを推薦します。この構造的な変化が、ECマーケターの分析フレームワークに「死角」を生んでいるのです。
業界動向と背景
AIアトリビューションの死角が注目される背景には、生成AIプラットフォームの急速な成長があります。Similarwebの統計によると、AIプラットフォームへの訪問数は2025年1月から2026年1月にかけて28.6%増加しました。ChatGPTは世界の生成AIウェブトラフィックの約79%を占め、Geminiは同期間に157%成長して月間11億訪問に達しています。
一方で、AIプラットフォームから外部サイトへの参照トラフィックは依然として全体の約1%にとどまっています。Search Engine Landの調査では、10の主要産業全体でAIプラットフォームからの流入は平均1%に過ぎません。しかし、これは問題の表面にすぎません。
Similarwebの消費者調査(2026年1月、米国)では、消費者の35%が商品の「発見」段階でAIを利用し、32.9%が「評価」段階で使用していると回答しています。検索エンジンの利用率(発見13.6%、評価15%)と比較すると、AIは発見・評価フェーズで約2倍の影響力を持っています。つまり、「トラフィックの1%」という数字は、AIの実際の影響力を大幅に過小評価しているのです。
「見えない購買経路」の仕組み
具体的に、AIアトリビューションの死角はどのように発生するのでしょうか。
典型的な例として、消費者がChatGPTやPerplexityに「敏感肌向けの日焼け止めでおすすめは」と質問するケースがあります。AIアシスタントは特定のブランドを推薦しますが、消費者はその場で購入せず、後からGoogleで該当ブランドを検索し、Amazonや公式サイトで購入します。この場合、アトリビューション分析ではGoogleの検索広告やオーガニック検索、あるいはAmazon内の検索がコンバージョンの「功績」として記録されます。購買の起点となったAIの推薦は、どの分析ツールにも記録されません。
この問題は、ラストクリックアトリビューションの構造的な限界と直結しています。Marketing Sourceの分析によると、ラストクリックモデルはマルチタッチの購買ジャーニーにおいて、ディスカバリーチャネル(SEO、コンテンツ、上位ファネル広告)の貢献を体系的に過小評価します。AIプラットフォームは、まさにこの「過小評価される上位ファネル」に位置しているのです。
さらに、Google AI OverviewのようなAI統合検索も死角を広げています。Dataslayerの調査では、AI Overviewの表示によりCTR(クリック率)が最大61%低下するケースが報告されています。AIがコンテンツを要約して回答する場合、ユーザーの意思決定に影響を与えていてもクリックが発生しないため、Google Analyticsには何も記録されません。
計測の死角を埋める4つのアプローチ
Practical Ecommerceの記事でBoruah氏が紹介した計測手法と、業界で導入が進むソリューションを整理します。
インクリメンタルテスト(増分テスト)特定の地域やオーディエンスにのみキャンペーンを展開し、展開していない地域との売上差を測定する手法です。AIチャネルへの投資効果を間接的に推定できます。
マーケティングミックスモデリング(MMM)複数のデータセットを統計的に分析し、各チャネルの貢献度を推定するモデルです。LatentView Analyticsは2026年Q1のForrester Waveレポートで「マーケティング計測・最適化サービス」分野のStrong Performerに選出されており、同社のMARKEEプラットフォームはクライアント環境内でモデリングを実行できるモジュール型のAI駆動マーケティング計測基盤です。
ブランドリフト調査消費者に直接「どこでこの商品を知りましたか」と尋ねるアプローチです。デジタルトラッキングでは捕捉できないAIの影響を定性的に把握できます。
AI参照トラフィックの質的分析参照トラフィックの「量」は小さくても、「質」は高い点に注目すべきです。ALM Corpの分析によると、ChatGPTからの参照トラフィックは非ブランドのオーガニック検索と比較してコンバージョン率が31%高いという結果が出ています。また、Similarwebのデータでは、ChatGPTからの参照ユーザーは平均15分のサイト滞在(Google経由は8分)、12ページビュー(Google経由は9ページビュー)を記録しています。
EC事業者への影響と活用法
この問題に対し、EC事業者は3つの観点から対応を検討する必要があります。
アトリビューションモデルの見直しラストクリックアトリビューションに依存している事業者は、データドリブンアトリビューション(DDA)への移行を検討すべきです。月間400件以上のコンバージョンがある場合、DDAはラストクリックモデルと比較して15〜25%多くのチャネル貢献を検出できるとされています。GA4のデフォルト設定をそのまま使うのではなく、アトリビューション設定の見直しが第一歩です。
AIプラットフォームでの「被推薦率」のモニタリング自社ブランドがAIアシスタントの回答にどの程度登場するかを定期的にチェックする体制が必要です。Similarwebの調査では、ブランドの規模がAIでの可視性を保証するわけではなく、構造化された比較コンテンツを持つ専門サイトがAI回答で上位に表示される傾向があります。商品データの構造化とコンテンツ最適化が、AIでの発見可能性を高める鍵です。
予算配分の再考Boruah氏が指摘するように、多くの企業はAIチャネルへの投資が必要だと認識しつつも、タイミングと戦略に確信が持てず、計測可能なチャネルに予算を集中させています。しかし、「計測できない=効果がない」ではありません。短期的にはインクリメンタルテストで効果を検証しつつ、中長期的にはMMMの導入で全チャネルの貢献を統合的に評価する体制を構築することが求められます。
まとめ
生成AIは、ECにおける商品発見の新たなフロンティアとなっています。消費者の3人に1人以上がAIで商品を発見する時代に、その影響を「見えないから無視する」のは合理的な判断ではありません。
今後注目すべきは、GoogleのAI Overviewやチャット内ショッピング機能の拡充に伴い、「AIが起点となる購買」がさらに増加する中で、アトリビューション技術がどこまで追いつけるかです。AdExchangerが指摘するように、ラストクリックが消えるAIショッピングの時代は、逆説的に「ブランド構築」の重要性を再浮上させています。AIに推薦されるブランドになるためには、計測可能な直接レスポンス施策だけでなく、ブランド認知への投資が不可欠です。EC事業者は、この「見えない影響力」を可視化する仕組みづくりを今から始めるべきでしょう。




