AIコマース2026年7月29日

AIコマース ニュースダイジェスト(2026年7月29日)

MichaelsのAIアシスタントが従来検索の2倍超で転換、GoKwikとPayUがChatGPT上に複数ブランドの購入体験を構築、CorpayがAIエージェント発行の仮想カードを投入まで、7月29日のAIコマース関連ニュースをまとめて解説します。

この記事のポイント

  1. MichaelsのAIアシスタントが従来検索比でコンバージョン2倍超を記録
  2. GoKwikとPayUがChatGPT上に複数ブランドの購入体験を実装
  3. 導入効果の実測値と規制当局の関心が同じ日に並んだ

7月29日のAIコマース関連ニュースをお届けします。本日は「効果の数字」と「守り方の議論」が同時に出てきた一日です。米Michaelsは自社アシスタントの利用者のコンバージョンが従来検索の2倍を超えたと公表し、インドではGoKwikとPayUがChatGPTの中に複数ブランドの購入体験を作りました。他方でニューヨーク州金融サービス局はエージェント取引の責任の所在に言及し、マレーシアの調査は消費者の過半数が支払いをAIに任せたがらない実態を示しています。前日にAdobeやAlibabaが商品発見側の道具を出した流れに対し、今日は使った結果と使わせ方の話が前に出ました。

今日の注目ニュース

MichaelsのAIアシスタント「Ask Mike」が従来検索の2倍超のコンバージョンを記録

米クラフト用品大手のMichaelsが、初の顧客向けAIショッピングアシスタント「Ask Mike」の成果を公表しました。7月21日の正式発表によると、Ask Mikeの利用者は従来の検索利用者に比べてコンバージョン率が2倍以上に達しています。

Ask Mikeはキーワード検索ではなく、作りたい物や予算を自然文で伝える形の対話型アシスタントです。プロジェクトの種類、素材、色、予算について聞き返しながら商品を絞り込みます。基盤はGoogle CloudのGemini Enterprise for Customer Experienceで、開発期間は6週間と短期です。

5月のローンチ以降で約75,000件の会話が発生し、そのうち27%が商品クリックまたはカート追加につながりました。会話の6割以上は商品発見の用途です。同じGoogle Cloud基盤はUlta Beauty、Macy's、The Home Depotも採用しており、小売各社が同種の接客レイヤーを短期間で立ち上げ始めていることがうかがえます。

コンバージョンの押し上げが施策効果なのか、もともと購入意欲の高い層がアシスタントを選んだ結果なのかは、公表データだけでは切り分けられません。それでも実測値を開示した小売企業はまだ少なく、投資判断の材料としての価値は大きいと言えます。

詳細記事: Michaelsの「Ask Mike」が従来検索の2倍超で転換、6週間で本番化したAIショッピングアシスタントの中身

GoKwikとPayUがChatGPT上にマルチブランドのD2C購入体験を構築

インドのコマース基盤GoKwikと決済大手PayUが7月28日、複数ブランドの商品発見から購入までをChatGPTの会話内で完結できる仕組みを公開しました。インドでは初の事例と説明されています。

両社が共同で構築したと説明される「Agentic Commerce Protocol(ACP)」が会話内チェックアウトを担い、決済はPayUのレールを通してUPI、カード、ネットバンキング、ウォレットに対応します。初期参加ブランドはHyphen、Beardo、Kilrrの3社で、GoKwikの加盟ブランドから順次拡大する計画です。

将来的にはNPCIのUPI Circle、RuPay Agentic Payment Framework、Visa・Mastercardのパスキー方式との接続も視野に入れています。「インドのD2Cはオープンウェブの上に自らを築いた。次の章は会話の中で築かれる」とGoKwik共同創業者兼CEOのChirag Taneja氏は述べています。

単一ブランドのチャットボットではなく、複数ブランドを横断して比較できる点がこの実装の要です。会話の中で比較が起きるなら、ブランド側が握れる余地は、商品データの精度と決済の通りやすさに寄っていきます。

詳細記事: GoKwikとPayUがChatGPT上でインド初のマルチブランドD2C購買を開始、焦点は「ACP」という言葉の中身

エージェンティックコマース

AlgoliaがAgent Studioにガードレールとコスト制御を追加

検索プラットフォームのAlgoliaが7月28日、Agent Studioに本番運用向けの制御機能を追加したと発表しました。中心はガードレールとコスト制御で、Algolia顧客に対して同日から提供されています。

ガードレール側では、許可しない内容の定義、入出力のフィルタリング、代替メッセージの提示を設定できます。コスト側ではリクエスト総量の上限、IP単位の制限、トークン量の制約、会話の深さの制限、接続先ドメインの許可制といった項目が並びます。会話型の接客を本番のストアフロントのトラフィックに載せたときに、費用と発言内容の両方が読めなくなる問題への対処です。

IDCのシニアリサーチディレクターHeather Hershey氏は、小売業者には稼働中の売場でAIエージェントを安全かつ経済的に管理できるガードレールが必要だと指摘しています。前日に取り上げたAdobe Commerceのカタログ機械可読化がAIに読ませる側の整備だったのに対し、今回は自社サイト内でAIを動かす側の統制にあたります。

Amazonが音声要約に質問機能を追加、聞きながら聞き返せる購買体験へ

Amazonが商品の音声要約機能「Hear the highlights」に、聞きながら質問できる「Join the chat」を追加しました。AIホストが読み上げている途中でも、テキストまたは音声で質問を差し込めます。

回答は商品情報やカスタマーレビュー、公開情報をもとに生成され、答え終わるとホストは中断した箇所から音声を再開します。「このコーヒーメーカーは初心者向きか、バリスタ経験者向きか」「このセーターはちくちくするか」といった質問が想定用途として挙げられています。同社で会話型ショッピングを担当するバイスプレジデントのRajiv Mehta氏は、顧客が聞く側から参加する側へ移ると説明しています。

商品ページの情報を読む行為が、聞いて尋ねる行為に置き換わっていく方向です。レビューの中身がそのまま回答の材料になる以上、レビュー本文の質が接客の質に直結する構図が強まります。

韓国EC各社がAIショッピングで競争、CoupangとGmarketが参入

韓国のEC各社がAIショッピング機能の投入を加速させています。Coupangは商品カテゴリ、購買行動、レビューを分析して性能や価格を比較するサービスをパイロット提供として開始しました。対象はノートPCや洗濯機などの家電が中心で、年内に範囲と機能を広げる計画です。

同社が見据えているのは比較にとどまりません。ユーザーの要望を理解して複数商品を推薦し、最終的には購入と決済まで代行するAIショッピングエージェントの構築を長期目標に掲げています。Gmarketは来年、商品名だけでなく画像や価格、レビューまで解析して購買意図を推測する超パーソナライズ型のエージェント投入を準備中です。

先行するNaverの数字が競争を後押ししています。2月に試験提供を始めたAIショッピングエージェントを6月に本格サービス化したところ、Naver Plus Storeの日次平均利用者は3月比で5割以上増え、流通総額は2.7倍になりました。利用者の7割超が15文字以上の詳細なクエリを入力しているとされ、会話型の購買が定着しつつある様子がうかがえます。

延世大学情報大学院のChoi Bo-reum教授は、これまで広告を見て購入を決めていた消費者に代わってAIが商品を選ぶようになれば、広告やマーケティングだけでなくプラットフォーム企業の事業構造そのものが変わり得ると指摘しています。

決済・フィンテック

CorpayがAIエージェント発行の仮想カード「Agent Card」を投入

法人決済のCorpayが7月28日、AIエージェント自身が仮想の決済カードを発行できる「Agent Card」を発表しました。企業に代わってエージェントがカードを発行しますが、支出上限やガバナンスの定義と強制は企業側に残ります。

発行される仮想カードは用途ごとにスコープが切られ、エージェントは無制限の購買権限ではなく認可された範囲の中で動きます。ユーザーが指示する形と、機械同士が直接やり取りする形の双方のワークフローに対応する設計です。

同社のコマーシャルカード部門プレジデント兼GMのDanny Martucci氏は、エージェンティックコマースが法人決済に新しい領域を作り出していると述べています。技術的にエージェントが購買を開始できるかどうかではなく、企業の支出方針が求める承認と可視性を保てるかが焦点だという整理です。

詳細記事: Corpay「Agent Card」発表: AIエージェントが仮想カードを発行するB2B決済の統制設計

Citiが即時決済とエージェンティックコマースの適合性を論じる

Citigroupが7月28日、エージェンティックコマースと即時決済の関係を論じた分析を公開しました。主張はシンプルで、AIエージェントが実行する取引にはAPI前提の決済基盤が必要であり、即時決済がその条件を満たすというものです。

具体的には、速度に加えて着金の確定性と消込に使えるデータの豊富さが要件として挙げられています。人が画面の前にいる前提のリダイレクトや事後の確定処理は、機械速度で動くエージェントとは相性が悪いという指摘です。

インド、ブラジル、タイのように規制と誘因が揃った市場では即時決済が実際に普及しており、これらの事例がエージェント取引の受け皿になり得ると位置づけています。GoKwikとPayUがUPIを前提に組み立てた今回のインド事例とも符合する見立てです。

AIコマースツール

THG IngenuityのAI StylistがGoogle Cloud Marketplaceで提供開始

THG Ingenuityがバーチャル試着のAI StylistをGoogle Cloud Marketplaceで提供開始しました。Google Cloudとの共同開発で、Gemini Enterprise Agent Platformの上に構築されています。

利用者が自分の写真をアップロードすると、商品ページの衣類を着用した状態を購入前に確認できます。自社ブランドMyproteinでの先行導入データでは、AI Stylistで画像を1枚以上生成した英国の利用者は、サイト平均のアクティブウェア購入者と比べてコンバージョン率が約6倍、サイト滞在時間が6.3倍、平均注文額が2.5%高いという結果が出ています。

数字は自社ブランドでの限定的な先行導入によるもので、業種や価格帯を変えて同じ効果が出るかは未検証です。それでも返品削減と滞在時間の伸長を同時に狙える点で、アパレルEC側の関心は高いと考えられます。

詳細記事: THG Ingenuityがバーチャル試着「AI Stylist」をGoogle Cloud Marketplaceで提供開始、コンバージョン6倍という数字の読み方

広告・リテールメディア

WPP Mediaがインドの自律型コマース企業Kilyと提携

WPP Mediaが7月28日、インドのKilyとの技術提携を発表しました。Kilyは出品、価格設定、広告といったコマース運用をAIエージェントに自律実行させる基盤を持ち、マーケットプレイスとクイックコマースの双方を対象にしています。

WPP Media側はIntegrated Commerce Plannerを提供し、計画、実行、測定を継続的に連動させる形を目指すとしています。南アジア担当COOのAshwin Padmanabhan氏は、分断されていた要素をより接続された仕組みに束ねると説明しました。

Kily共同創業者兼CEOのSankalp Mehrotra氏は、コマース運用に自律性をもたらすことに注力していると述べています。広告代理店側が運用エージェントを取り込む動きは、リテールメディアの運用がエージェント前提に組み替わっていく兆しとして見ておく価値があります。

消費者動向

マレーシアの74%がAIで買い物、ただし過半数は支払いを任せない

Adyenの2026年マレーシア小売レポートによると、マレーシアの消費者のおよそ4人に3人がAIを買い物に使っています。一方で52%はAIに購入を完了させることに抵抗があると回答しました。調査はYouGovが2026年3月から4月にオンラインで実施し、18歳以上の消費者1,031人と年商7,500万リンギット以上の小売企業のシニアマネージャー以上314人が対象です。

決済体験の影響も数字に出ています。59%が決済エラーで企業への印象が悪くなると答え、26%はセキュリティや信頼の懸念から購入を中断した経験があります。小売側では97%が過去1年に決済のパフォーマンス問題の影響を受け、94%が不正の標的になったか被害に遭ったと回答しました。

小売業者の85%がエージェンティックコマースの概念を認識し、半数近くが2026年中の投資を計画しています。Adyenマレーシアのカントリーマネージャー、Lee Soon Yean氏は、難しいのは購買体験全体、とりわけチェックアウトでの信頼構築だと述べています。

ミレニアル世代がAIを購買の判断層に組み込む、PYMNTSの調査

PYMNTS Intelligenceの調査によると、30歳から45歳のミレニアル世代のおよそ半数が、商品調査から価格比較、取引完了までを担うAIショッピングエージェントに強い関心を示しています。さらに26%が一定の関心を持つと回答しました。

商品発見の手段も移り始めています。直近の商品発見でChatGPTやClaude、PerplexityといったAIアプリを使ったと答えた層が4割台に達し、AI機能なしの通常検索を使った層とほぼ並びました。4割前後がAIによって従来の調査方法が完全または大部分置き換わったと回答しています。

購買前の情報探索がAIの中で完結する割合が上がると、事業者が買い物客と接触できる地点は自社サイトの手前へ移ります。前掲のマレーシアの調査が示す「発見はAI、支払いは自分」という線引きとも整合的な結果です。

グローバルEC動向

ニューヨーク州金融サービス局がエージェンティックコマースへの関心を示す

ニューヨーク州金融サービス局(DFS)の長官代行Kaitlin Asrow氏が、6月26日のニューヨーク連銀イノベーション会議で自律的なAIエージェントによる取引に言及しました。法律事務所のAshurst Perkins Coieが7月28日に公開した解説記事が伝えています。

発言は正式なガイダンスではなく、初期段階の観察という位置づけです。要点は、AIエージェント経由の自律的な取引についても規制対象企業が責任を負うという整理と、エージェンティックAIの導入に唯一の正解はないが誤り方は数多くあるという指摘にあります。適切な体制と統制が当局の注目点になるとも述べています。

対象は銀行やカード発行会社、貸し手といった規制対象の金融機関に加え、チェックアウトで与信を使う加盟店、エージェント経由の取引を可能にするフィンテック、取引を自動化するサービス提供者に及びます。自律的な購買や与信の取り決めにおける責任の空白が論点として挙げられました。

SheinがFTCの調査対象に、香港IPOを控えて規制圧力が強まる

Sheinが米国事業について連邦取引委員会(FTC)の調査を受けていると開示しました。香港での新規株式公開を計画するなかでの開示で、調査の焦点や範囲、時期については提出書類に記載がありません。

米国の少額輸入品に対する免税措置の終了以降、同社は2026年第1四半期に損失を計上し、米国売上が減少したとロイターが報じています。値上げを含む対応策を検討しているとされ、規制環境の変化がコスト構造に直接効いている状況です。

FTCは消費者保護の執行機関であると同時に、米国の主要な独占禁止当局でもあります。今回の開示では競争法上の論点は示されていませんが、大手デジタルコマース企業への監督が広がる流れの一例として押さえておく価値があります。

まとめ

7月29日は、AI接客の効果が実数で出てきた日でした。Michaelsのコンバージョン2倍超、Naver Plus Storeの流通総額2.7倍、THGの滞在時間6.3倍と、導入企業側から具体的な数字が並んでいます。数字が出れば投資判断は進み、韓国EC各社の相次ぐ参入のように競争が加速します。

同時に、AIに支払いまで任せる段階では消費者の抵抗が残り、当局も責任の所在に目を向け始めました。マレーシアの52%という数字と、ニューヨーク州DFSの発言は同じ地点を別の角度から指しています。発見と接客の自動化は数字で正当化されつつありますが、決済の自動化はまだ信頼の設計が追いついていません。

CorpayのAgent CardやGoKwikとPayUの実装は、その隙間を埋める試みとして見ておくべき動きです。今後は「エージェントが何を選んだか」より「誰が承認し、誰が責任を負うか」を明示できる仕組みが、採用の分かれ目になっていきます。