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2026年2月27日

Mirakl、創業13年で通期黒字化を達成 ── エージェンティックコマース基盤「Mirakl Nexus」で次の10年の商取引を定義へ

目次
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この記事のポイント

  1. マーケットプレイスSaaS大手Miraklが2025年通期で初のグループ全体黒字化、ARRは23%増の2.18億ドル
  2. エージェンティックコマース基盤「Mirakl Nexus」を発表、Stripeとの提携でAIエージェント経由の購買に対応
  3. EC事業者はマーケットプレイス型プラットフォームとカタログ整備がAI時代の発見可能性を左右する

マーケットプレイスSaaS大手Miraklが通期黒字化とエージェンティックコマース戦略を発表

2026年2月26日、マーケットプレイスプラットフォーム大手のMirakl2025年通期の業績を発表しました。年間経常収益(ARR)は前年比23%増の2億1,800万ドルに達し、創業以来初となるグループ全体での通期黒字化を達成しています。同時に、AIエージェントが自律的に商品の発見から購買までを行う「エージェンティックコマース」の基盤となる新プラットフォーム「Mirakl Nexus」を正式に打ち出しました。

マーケットプレイスおよびドロップシップを通じた年間流通総額(GMV)は前年比31%増の約150億ドルに到達しています。顧客基盤は世界450社以上に拡大し、2025年だけで45社の大手企業が新たに導入しました。新規顧客の年間契約額(ACV)は前年比で約20%成長しています。

背景と業界動向

Miraklは2012年にフランスで創業したBtoB SaaS企業です。小売企業やブランドが自社サイト上にマーケットプレイスを構築・運営するためのプラットフォームを提供しています。競合にはSalesforce Commerce CloudやcommerceToolsなどがありますが、Miraklはマーケットプレイス特化型として独自のポジションを確立してきました。

同社の顧客にはMacy'sDecathlon、ASOS、Carrefourといったグローバル大手が並びます。2025年にはJohn Lewis & PartnersUlta Beauty、独Bauhaus、Limango(Otto Group傘下)など36社がマーケットプレイスやドロップシップの運用を新たに開始しました。GMV1億ドル超の顧客は35社を超えています。

エージェンティックコマースへの注力は、業界全体のトレンドと軌を一にしています。McKinseyが2025年10月に公表したレポートでは、2030年までに米国だけでAIエージェントが仲介する小売売上が最大1兆ドル、グローバルでは最大5兆ドルに達すると予測しています。Stripe、Google、OpenAIといったテクノロジー大手がエージェンティックコマースのプロトコルやインフラ整備を急ぐ中、Miraklは既存のマーケットプレイス基盤をAIエージェント対応の中核インフラとして再定義する戦略を選びました。

Mirakl Nexus:AIエージェントと事業者をつなぐ「インテリジェンスレイヤー」

Miraklが2025年に発表した最大の戦略的転換が、エージェンティックコマース基盤「Mirakl Nexus」です。共同創業者兼共同CEOのPhilippe Corrot氏は、公式発表の中で「10年以上前にプラットフォームエコノミーを先駆けたように、Mirakl Nexusは従来の商取引とエージェンティックな未来をつなぐアーキテクチャを定義する」と述べています。

Mirakl Nexusの役割は、従来のマーケットプレイス取引の仲介から、AIエージェントによる商品発見・比較・購入・アフターサービスまでを含む「エージェンティックコマースバリューチェーン全体のオーケストレーション」へと拡張されます。具体的には以下の機能群で構成されています。

Stripeとの戦略提携。 2025年12月にStripeとのパートナーシップを発表しました。StripeがOpenAIなどのAIプラットフォームとの接続を提供し、Miraklが事業者側のオーケストレーションレイヤーとして機能します。事業者は既存のインフラを再構築することなく、AIエージェント経由の販売チャネルに参加できます。AIエージェントが自動的に商品カタログを発見し、チェックアウトまでシームレスに完了する仕組みです。

10万社超のセラーネットワーク。 Mirakl Connectが構築した10万社以上のキュレーション済みセラーネットワークは、AIエージェントにとって広範で信頼性の高い商品供給源となります。BalmainLancel、Boggiといったラグジュアリー・コンテンポラリーブランドも参加しています。

AI搭載カタログ変換。 Miraklの「Catalog Transformer」は、10以上の生成AIモデルを活用し、商品画像からの属性抽出、欠損フィールドの自動補完、データ品質の確保を自動化します。OpenAIとの協業事例によると、セラーのオンボーディング時間を91%短縮し、カテゴリ分類エラーを約50%削減しています。これはエージェンティックコマースの前提条件である「AIが理解できる構造化商品データ」の整備を加速するものです。

黒字化を支えた3つの収益エンジン

Miraklの黒字化は、コアプラットフォームに加えて2つの新規事業の急成長が寄与しています。

Mirakl Ads(リテールメディア)。 2023年に開始した広告事業は、2025年に広告支出額が前年比258%増の1,270万ドルに成長しました。新規クライアント30社を獲得し、Lowe's、Ulta Beauty、Rakuten Franceなど約50社の小売企業が利用しています。AIを活用した広告配信により、広告応答率83%増、クリック率25%増を実現しています。

Mirakl Connect(マルチチャネル販売)。 初年度にもかかわらずARR 1,170万ドルを達成しました。約1,000社の有料ユーザーがプラットフォームを活用し、ブランドやセラーが複数のマーケットプレイスへ統一的に出品できる環境を提供しています。

Mirakl Platform(コア事業)。 2024年に初めて通期EBITDA黒字を達成していたコアプラットフォーム事業が、2025年にはグループ全体の黒字化を牽引しました。共同CEOのAdrien Nussenbaum氏は「R&Dの20%をAIに投入している」と明かしています。

EC事業者への影響と活用法

Miraklの黒字化とエージェンティックコマースへの全面転換は、EC事業者に具体的な示唆を与えます。

マーケットプレイス型プラットフォームの優位性が拡大します。 AIエージェントは広範な品揃え、リアルタイムの在庫情報、競争力のある価格を優先します。Miraklのブログが指摘するとおり、自社在庫のみを扱う従来型ECサイトに比べ、マーケットプレイスやドロップシップを運営する小売企業は、AIエージェントに「発見」される可能性が格段に高くなります。

商品カタログの構造化データ整備が急務です。 エージェンティックコマースでは、AIが商品情報を正確に解釈できるかどうかが売上を左右します。Miraklの「Catalog Transformer」のようなツールを活用し、商品属性の網羅性とデータ品質を高めることが、AIエージェント時代の基本的な競争力となります。

複数のエージェンティックプロトコルへの対応を検討してください。 StripeのAgentic Commerce Protocol(ACP)、GoogleのUniversal Commerce Protocol(UCP)、MiraklのNexusなど、複数の規格が並立しています。特定のプラットフォームに依存するのではなく、複数チャネルへ統合的に接続できるオーケストレーションレイヤーの導入が現実的な選択肢です。

まとめ

Miraklの通期黒字化は、マーケットプレイスSaaSモデルの事業としての持続可能性を示す重要なマイルストーンです。ARR 2.18億ドル、GMV 150億ドルという規模に達した同社が、次の成長軸として「エージェンティックコマースのインフラ」を明確に据えた意味は大きいと言えます。

注目すべきは、Miraklが自社をAIプラットフォームの競合ではなく、AIプラットフォームと既存事業者をつなぐ「中立的なインフラ」として位置づけている点です。10万社超のセラーネットワーク、450社以上の小売企業との接点、そして13年間蓄積した商取引データが、この戦略の基盤となっています。EC事業者にとっては、AIエージェントに選ばれる商品データの整備と、エージェンティックコマース対応のプラットフォーム戦略が、今後の成長を分ける鍵となります。