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2026年3月4日

Nexi × Google Cloud、ヨーロッパ全域でエージェンティックコマース基盤を構築

目次
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この記事のポイント

  1. 欧州最大級ペイテックNexiとGoogle CloudがエージェンティックコマースのMoUを締結、UCP/AP2標準に対応
  2. 欧州25カ国以上の決済網にAIエージェント基盤が統合され、欧州EC市場のインフラ刷新が加速
  3. EC事業者はUCP対応の構造化データ整備とAIエージェント経由の購買フローへの準備が急務に

欧州決済大手とGoogle Cloudがエージェンティックコマースで提携

2026年3月3日、欧州最大級のペイテック企業Nexi GroupとGoogle Cloudは、エージェンティックコマースをヨーロッパ全域で推進するためのMoU(覚書)を締結したと発表しました。ミラノで発表されたこの提携は、AIエージェントが消費者に代わって自律的に商品を検索し、安全に決済を実行する「エージェンティックコマース」の基盤を、欧州の決済インフラレベルで構築することを目指しています。

両社はオープンソースの商取引標準である「Universal Commerce Protocol(UCP)」と「Agent Payments Protocol(AP2)」への対応を明確に打ち出しました。NexiのMerchant Solutions部門Chief Business OfficerであるRoberto Catanzaro氏は、「AIエージェントが消費者に代わって商取引をオーケストレーションする時代が到来しつつある」と述べています。

背景と業界動向

この提携は、エージェンティックコマースが急速にグローバル規模で実装フェーズに入りつつある文脈で理解する必要があります。

McKinseyの分析によれば、エージェンティックコマースは2030年までにグローバルで3〜5兆ドルの市場規模に成長すると予測されています。2026年現在、ChatGPTのInstant Checkout(2025年9月開始)、GoogleのUCP発表(2026年1月)、OpenAIとPayPalの提携など、AIプラットフォームと決済インフラの接続が急速に進んでいます。

決済ネットワーク側の動きも活発です。Mastercardは「Agent Pay」を展開し、SantanderやCBAとの実証を完了Visaも「Intelligent Commerce」フレームワークでDBSとのパイロットを実施しています。しかし、これらは個別の銀行・加盟店との実証が中心でした。

Nexiの提携が持つ意味は、「欧州25カ国以上をカバーする決済ネットワーク全体」にAIエージェント基盤を組み込むという、インフラレベルのスケールにあります。Nexiは2024年の売上高35億1,400万ユーロを誇る欧州最大級のペイテック企業であり、その決済網にGoogle CloudのAI基盤が統合されることで、エージェンティックコマースが「個別の実証」から「面的な展開」へと移行する転換点となる可能性があります。

UCP/AP2対応が意味する技術的インパクト

今回の提携で注目すべき技術的ポイントは、UCP(Universal Commerce Protocol)とAP2(Agent Payments Protocol)への明確なコミットメントです。

UCPはGoogleが主導するオープンソースの商取引プロトコルで、AIエージェントによる商品発見からチェックアウト、注文管理までのエンドツーエンドのコマースライフサイクルを標準化します。Shopify、Etsy、Walmart、Target、VisaMastercard、Stripeなど20社以上がすでに支持を表明しています。一方、AP2はUCPと連携する決済特化の信頼レイヤーで、暗号署名付きの委任状(マンデート)と検証可能な資格情報を通じて、AIエージェントによる安全な決済を実現します。

Nexiの基盤にこれらのプロトコルが実装されることで、3つの具体的な機能が実現に向かいます。

第一に、「会話型販売チャネル」の構築です。消費者が検索クエリや動画のレコメンデーションから購買意図を示した瞬間に、AIエージェントが即座に決済まで完了できるフローが、欧州の規制に準拠した形で提供されます。

第二に、「リアルタイム不正検知の高度化」です。NexiはGoogle CloudのAI・データ分析基盤を活用し、既存の不正検知システムを強化します。エージェンティック取引では従来とは異なるパターンの不正リスクが想定されるため、AI駆動の検知は必須要件となります。

第三に、「ISV(独立系ソフトウェアベンダー)向けの決済サービスアクセス改善」です。欧州各国のISVがNexiの決済インフラにより容易にアクセスできるようになることで、エージェンティックコマースのエコシステム全体が拡大します。

Google Cloud EMEA社長のTara Brady氏は、「消費者の購買体験がエージェンティックコマースへシフトする中で、信頼とセキュリティがデジタル経済の最重要通貨になる」と述べ、セキュリティ基盤としてのインフラの重要性を強調しました。

EC事業者への影響と活用法

Nexi × Google Cloudの提携がEC事業者に与える影響は、特に欧州市場で事業を展開する企業にとって重大です。

UCP対応の構造化データ整備が最優先課題となります。UCPはAIエージェントが商品情報を読み取り、比較・購入するための標準プロトコルです。REST API、MCP(Model Context Protocol)、A2A(Agent2Agent)など複数のインターフェースをサポートしており、自社の商品カタログ、在庫情報、価格、配送条件をUCP準拠の形式で提供できるかどうかが、AIエージェント経由の売上を獲得できるかの分水嶺になります。

欧州特有の規制対応も見逃せません。EUではAI Act、PSD3(決済サービス指令第3版)、GDPRが重層的に適用されます。Mollieの分析によれば、AIエージェントが無認可の購入を行った場合の責任所在は現行法では明確になっていません。Nexiの基盤が欧州規制準拠を前提として設計されている点は、法的リスクを最小化したい事業者にとって重要な判断材料です。

マーチャントオンボーディングの効率化も期待されます。NexiはGoogle CloudのAI技術を活用してオンボーディングプロセスを改善する計画であり、特に中小規模のEC事業者にとって、エージェンティックコマースへの参入障壁が下がる可能性があります。

ただし、今回の発表はMoU(覚書)の段階であり、具体的な製品リリース時期は公開されていません。全面的な自律型購買の商用展開は、欧州全体では12〜24カ月後と見込まれており、EC事業者にとっては今が準備期間と捉えるべきです。

まとめ

NexiとGoogle CloudのMoU締結は、エージェンティックコマースが欧州の決済インフラに本格的に組み込まれる転換点を示しています。MastercardやVisaが個別銀行との実証を進める中、欧州25カ国以上をカバーするNexiがGoogle CloudのAI基盤とUCP/AP2標準を統合する動きは、エージェンティックコマースのスケール拡大を加速させます。

今後の注目ポイントは3つです。第一に、MoUから具体的な製品・サービスの発表に至るタイムライン。第二に、UCP/AP2がPSD3やAI Actの規制枠組みとどのように整合するか。第三に、Mastercard Agent PayやVisa Intelligent Commerceなど競合するエージェンティック決済フレームワークとの相互運用性です。欧州でEC事業を展開する事業者は、UCP対応のデータ整備を最優先課題として、この変化に備えるべき段階に入っています。