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2026年4月4日

Share of Model — AIがブランドをどう認識するか

この記事のポイント

  1. Share of Modelは、AIモデルが特定カテゴリで自社ブランドを言及する割合を測る新指標であり、Share of Voiceの生成AI時代版である
  2. ChatGPTはEC回答の99.3%でブランドに言及する一方、同じプロンプトで同一のブランドリストが返る確率は1%未満と、AI推薦は構造的に不安定である
  3. 計測には60〜100回の同一プロンプト投入が必要であり、順位ではなく「出現頻度」を追うことがAI時代のブランド可視性戦略の基本になる

Share of Model — AIブランド認知を測る新指標とは

「おすすめのCRMツールは?」とChatGPTに聞いたとき、あなたのブランドはその回答に含まれているでしょうか。含まれていないなら、AI時代のマーケティングにおいて深刻な課題を抱えていることになります。

従来のマーケティングではShare of Voice(メディア露出におけるブランド占有率)が競争力の指標でした。デジタル検索の時代にはShare of Search(検索クエリにおけるブランド検索割合)が加わりました。そして生成AIが消費者の情報探索を根本から変えつつある現在、第三の指標が浮上しています。それがShare of Modelです。

Share of Modelとは、AIモデルが特定カテゴリについて回答する際に、自社ブランドが言及される割合を意味します。計算式は「自社ブランドの言及回数 / カテゴリ全体の言及回数 x 100」。たとえばChatGPT、Gemini、Perplexityに「最適なプロジェクト管理ツール」を50回ずつ質問し、自社ブランドが合計45回言及されれば、Share of Modelは30%(45/150)です。

指標測定対象時代
Share of Voice広告・メディア露出における自社ブランドの占有率マスメディア時代
Share of Search検索クエリにおける自社ブランドの検索割合検索エンジン時代
Share of ModelAIモデルの回答における自社ブランドの言及割合生成AI時代

この指標が注目される背景には、消費者行動の不可逆な変化があります。2028年までに7,500億ドルの消費支出がAI検索を経由すると予測されており、すでに消費者の58%が従来の検索エンジンに代えて生成AIを商品・サービスの推薦に利用しています。AIプラットフォーム経由のコンバージョン率は従来のGoogle検索の5倍に達するというデータもあり、ファネルの最上流でAIに言及されるかどうかが売上に直結する時代に入っています。

AIプラットフォームごとに異なるブランドの「見え方」

Share of Modelの計測を始める前に理解しておくべきことがあります。それは、AIプラットフォームによってブランドの言及パターンがまったく異なるという事実です。BrightEdgeの調査は、主要AIプラットフォーム間の驚くべき差異を明らかにしています。

AIプラットフォームブランド言及率平均ブランド数/回答特徴
ChatGPT99.3%5.84トレーニングデータ依存、小売ドメイン重視
Perplexity85.7%4.37リアルタイム検索、最多の引用元ドメイン(8,027)
Google AI Mode81.7%5.44ブランド公式サイトを優先的に引用
Google AI Overview6.2%0.29教育的コンテンツ重視、商用言及を抑制

ChatGPTがEC関連の回答で99.3%の確率でブランドに言及し、1回の回答に平均5.84ブランドを含めるのに対し、Google AI Overviewはわずか6.2%しかブランドに触れません。Perplexityは8,027のユニークドメインを引用元に持ち、最も多様な情報源から回答を構成しています。

この差異が生まれる原因は、各プラットフォームの設計思想にあります。ChatGPTはトレーニングデータに基づくパターン認識でブランドを推薦し、AmazonがEC回答の61.3%で引用されるという偏りを見せます。Perplexityはリアルタイムのウェブ検索結果を統合するため、新興ブランドでも最新の情報があれば推薦に含まれやすい構造です。Google AI Overviewは商用コンテンツよりも教育的コンテンツを優先し、YouTubeが引用の62.4%を占めています。

では、EC事業者にとってどのプラットフォームが最も重要なのか。答えは商品カテゴリによって異なります。AIショッピングエージェントの比較分析が示すように、高単価商品ではPerplexityとChatGPTが、日用品ではAmazon Rufusが優位に立っています。Share of Modelを測定する際も、自社の顧客が実際に使うプラットフォームに焦点を当てることが不可欠です。

LLMはブランドをどう「学習」するのか

Share of Modelを改善するには、そもそもLLMがどのようにブランド情報を取り込み、回答に反映しているかを理解する必要があります。このメカニズムを解きほぐすことが、「AIに選ばれるブランド」になるための出発点です。

LLMのブランド認知は、大きく3つの要因で決まります。

第一に、トレーニングデータにおける出現頻度と文脈です。ウェブ上で多く、かつ肯定的な文脈で言及されるブランドほど、LLMの回答に登場しやすくなります。TigerTracksの分析によれば、トレーニングセットにおけるブランドセンチメント(感情極性)がLLMの推薦傾向に直接影響します。単なる言及回数ではなく、「どのような文脈で語られているか」が鍵になるのです。

第二に、安全性エンジニアリングによるバイアスです。LLMは有害・不正確な情報を避けるよう訓練されており、この安全機構が結果的に確立されたブランドを優遇します。SitesignalのAI推薦分析は、リスク最小化の設計が「知名度の高いブランドほど推薦されやすい」という構造的偏りを生んでいると指摘しています。AIは本質的に保守的であり、実績が不明なブランドを避ける傾向があるのです。

第三に、構造化データと情報の機械可読性です。エージェンティックコマースにおけるデータ準備の重要性が示すように、商品情報がJSON-LDやSchema.orgで構造化されているブランドは、AIが正確に理解し推薦しやすくなります。これは従来のSEOとも共通する原則ですが、AIエージェントの時代にはその重要性が格段に増しています。

見落とされがちなのが社会経済的バイアスの存在です。研究によれば、LLMは高所得国のユーザーに対して88〜100%の確率でラグジュアリーブランドを推薦し、低所得国には84〜98%の確率で非ラグジュアリーブランドを推薦するという偏りが確認されています。AIは「中立的な推薦者」ではなく、トレーニングデータに内在するバイアスを増幅する装置でもあるのです。

こうした構造を理解したうえで、AEO(AI Engine Optimization)の実装戦略と組み合わせることが、Share of Modelを改善するための実践的なアプローチになります。

ブランドのAI可視性を4象限で理解する

LLMのブランド認知メカニズムを踏まえると、ブランドは「人間からの認知度」と「AIからの認知度」の2軸で4つのカテゴリに分類できます。Symphonic Digitalのフレームワークは、この構造を明確に可視化しています。

カテゴリ人間の認知AIの認知代表例
サイボーグ型Tesla、BMW
AIパイオニア型低〜中Rivian(EV)
ハイストリートヒーロー型Lincoln、Jaguar
インビジブル型AI時代に取り残されるブランド

興味深いのはAIパイオニア型の存在です。EVメーカーのRivianは一般消費者の認知度ではTeslaやBMWに及びませんが、AI上では高い可視性を持っています。テック系メディアやレビューサイトで頻繁に取り上げられ、構造化されたスペック情報が豊富に存在することが、トレーニングデータにおける存在感を高めているのです。

逆に、ハイストリートヒーロー型のブランドはより深刻な課題を抱えています。LincolnやJaguarのように長い歴史と高い認知度を持つブランドでも、デジタル上の構造化コンテンツが乏しければAIの推薦から漏れます。消費者が「高級SUVのおすすめ」をAIに聞いたとき、これらのブランドが回答に含まれない――そんな事態がすでに起きています。

自社ブランドがどの象限に位置するかを把握することが、Share of Model戦略の第一歩です。Evertune AI Brand Indexのような指標では、90〜100がExcellent、25以下がVirtually Invisibleとスコアリングされており、自社の立ち位置を定量的に診断できます。

計測の実務 — 不安定なAI推薦をどう数値化するか

Share of Modelの概念は明快ですが、実際の計測には構造的な難しさがあります。ここが最も実務的に重要なセクションです。

SparkToroの2025年の研究は、AI推薦の不安定さを定量的に示しました。600人のボランティアが12種類のプロンプトをChatGPT、Claude、Google AIに繰り返し投入した結果、同じプロンプトでChatGPTが同一のブランドリストを返す確率は1%未満であることが判明しています。順位の一致に至っては約1,000回に1回という極めて低い確率です。

この発見は「AIでのブランドランキング」を追うことの無意味さを示しています。従来のSEOでは「3位から1位に上がった」という順位変動が意味を持ちましたが、AIの世界では順位そのものが毎回変わるため、個別の順位を追跡しても有効なデータにはなりません。

では、何を測るべきなのか。SparkToroの研究が示唆するのは、「出現頻度(Visibility Percentage)」こそが統計的に有効な指標だということです。同じプロンプトを60〜100回以上投入し、自社ブランドが何%の回答に含まれるかを測定します。たとえばある病院ブランドは、「西海岸のがん治療施設」というプロンプトの71回の回答のうち97%に出現し、順位は変動しても出現率は安定していました。

計測の具体的ステップ

実務レベルでの計測プロセスは、以下の4段階で構成されます。

まず、プロンプト設計。見込み顧客が実際に使いそうな質問を20〜50個設計します。「最適な〇〇」「おすすめの〇〇」「〇〇を比較して」など、購買意図を含むクエリが中心です。「予算」「用途」「地域」などの修飾条件を加えたバリエーションも含めます。

次に、マルチプラットフォーム投入。設計したプロンプトをChatGPT、Gemini、Claude、Perplexityの各プラットフォームに投入します。各プロンプトにつき最低60回の繰り返しが統計的な妥当性を確保するために必要です。

そして、データ記録。ブランドの出現有無、出現位置、文脈(肯定的/中立/否定的)、引用元を記録します。競合ブランドについても同様にトラッキングします。

最後に、定点観測eMarketerのレポートによれば、AIが引用するソースの40〜60%が毎月入れ替わります。一度きりの計測では不十分であり、週次または月次での定点観測が不可欠です。

計測ツールの選択肢

手動での計測には限界があるため、専用ツールの活用が現実的です。Otterly.AIはChatGPT、Perplexity、Google AI Overviewを横断してブランドの「Share of AI Voice」を自動計測します。Peec AIはChatGPT、Perplexity、Claude、Gemini、Meta Llama、Deepseekの6プラットフォームをカバーし、トピック別・意図別のプロンプト分析を提供します。SemrushやHubSpotのAEO Graderも計測機能を拡充しています。

ただし、どのツールを使うにしても、SparkToroの研究が示す「AI推薦の構造的不安定さ」を念頭に置く必要があります。単発の計測結果に一喜一憂するのではなく、数十回以上のサンプリングに基づくトレンドを追うことが、正しい意思決定につながります。

AI推薦は操作できるのか — LLM Whisperer研究の示唆

Share of Modelの改善を考えるとき、避けて通れない問いがあります。「AIの推薦を意図的に操作することは可能なのか」という問いです。

カーネギーメロン大学の研究チーム(Weiran Linら)が2025年のCHI学会で発表したLLM Whispererは、この問いに対して不穏な回答を提示しました。同研究では、プロンプト内の単語を同義語に置き換えるだけで、特定ブランドの言及確率を最大78.3ポイント引き上げられることが実証されています。しかもユーザーから見ると、改変されたプロンプトは元のプロンプトと区別がつきません。

この脆弱性は、プロンプト最適化サービスやプロンプトテンプレートの提供者が、特定ブランドに有利な言い回しを意図的に仕込む余地を生みます。SEOの世界で起きたブラックハット手法と同様の構図が、AI推薦の領域でも展開されうるのです。

とはいえ、持続的なShare of Modelの改善は操作ではなく、正当な方法で実現すべきものです。エージェンティックコマースの文脈で言えば、商品データの構造化、権威あるソースでのブランド言及、レビュー基盤の強化といったAEOの基本施策が、長期的なAI可視性を構築する正攻法にあたります。

Share of Modelを高める実践戦略

計測の枠組みを理解したうえで、ではどうShare of Modelを改善するのか。万能の施策はありませんが、効果が検証されているアプローチがいくつかあります。

AI向けコンテンツ設計が最も基本的な施策です。BrightEdgeの調査では、「予算」「おすすめ」「比較」を含むクエリで表示されるブランド数が最も多く、たとえば「budget/affordable」系クエリでは1回答あたり6.3〜8.8ブランドが言及されています。こうした高頻度トリガーワードに対応するコンテンツを、包括的なガイド、詳細な比較表、具体的なスペック情報として整備することが、推薦候補に入る確率を高めます。

次に重要なのがマルチソース戦略です。LLMは単一のソースではなく、多様な情報源から学習します。自社サイトだけでなく、業界メディア、レビューサイト、フォーラム、ニュースサイトでのブランド言及を増やすことが、トレーニングデータにおける存在感を強化します。Perplexityが8,027のユニークドメインから引用しているという事実は、分散型の情報流通がAI可視性に直結することを示唆しています。

そして見落とされがちなのがネガティブコンテキストの管理です。LLMはブランドの言及量だけでなく、感情極性も学習します。ネガティブな文脈での言及が多いブランドは、AIが「推薦するにはリスクがある」と判断し、回答から除外する傾向があります。Perplexityのショッピング機能のようにソース付きで推薦を行うプラットフォームでは、この傾向がさらに顕著です。

ただし、Share of Modelの各プラットフォームへの最適化には限界があります。Symphonic Digitalの分析が指摘するように、同一ブランドでもプラットフォームによって可視性は大きく異なります。たとえばArielはLlama上で24%のShare of Modelを持ちますが、Geminiでは1%未満です。すべてのプラットフォームで均等にスコアを上げようとするのは非現実的であり、自社の顧客が使うAIプラットフォームを見極めた選択と集中が求められます。

まとめ

Share of Modelは、ブランド可視性の主戦場がメディアから検索エンジン、そしてAIモデルの内部へと移行していることを映し出す指標です。計測の不安定さという課題は残りますが、「出現頻度」を統計的に追うという方法論は確立されつつあります。問われているのは、AIが生成する回答の中に自社ブランドが存在するかどうか。その答えを知ることが、次の打ち手を考える起点になります。