この記事のポイント
- ShopeeがAI生成のセレブリティ・デジタルライクネスを使ったライブコマースをテスト開始
- ライブコマース市場でTikTok Shopとの差別化を図り、エンゲージメントと収益性を同時に強化
- EC事業者はAIアバター×ライブ販売の新モデルに備え、越境コンテンツ戦略を再検討すべき
Shopee、AI駆動のセレブリティ・ライブコマースを公開
Shopee, the e commerce arm of Sea (NYSE:SE), is rolling out a new livestream shopping format featuring multinational celebrity Metta World Peace. The initiative uses an AI powered digital likeness platform to host licensed virtual celebrity interactions with shoppers.
ca.finance.yahoo.com2026年3月4日、東南アジア最大級のECプラットフォームShopeeを運営するSea Limited(NYSE: SE)は、AI生成のセレブリティ・デジタルライクネス(肖像)を活用した新しいライブコマース形式のテストを開始しました。第一弾として起用されたのは、元NBAオールスターのMetta World Peace(メッタ・ワールドピース)氏です。
この取り組みは、Metta氏が2025年に共同創業した37 Partnersが開発した「Perpetual Celebrity Commerce(PCC=永続セレブリティコマース)」プラットフォームを基盤としています。Shopee上でMetta氏の公式ライセンス済みデジタルライクネスがリアルタイムでライブコマースセッションを主催し、ファンと対話します。リアルタイム多言語翻訳と地域ごとのカスタマイズ機能を備えているのが特徴です。
背景と業界動向
Shopeeがこのタイミングでセレブリティ×AIライブコマースに踏み込んだ背景には、東南アジアEC市場の激しい競争があります。
Shopeeは2024年に東南アジアEC市場で52%のシェアを握る圧倒的なリーダーですが、TikTok Shopが急速に追い上げています。KrASIAの報道によると、TikTok Shopは東南アジアEC市場で18%のシェアを獲得し、Lazadaを追い抜いて第2位に浮上しました。特にライブコマースとアルゴリズムによる商品発見の組み合わせが強みで、ライブ配信と動画ショッピングはすでにプラットフォームGMVの20%を占めるまでに成長しています。
Sea Limitedの2025年通期業績も、この動きの文脈を理解する上で重要です。2026年3月3日に発表された決算では、ShopeeのGAAP売上高は前年比33.9%増の145億ドルに達しました。一方で、2026年のGMV成長目標は前年比約25%と、さらなる収益性の強化が求められています。AIライブコマースは、従来の補助金に頼らず、コンテンツの力でユーザーあたりの収益を高める新たな武器と位置づけられています。
「永続セレブリティコマース」の仕組みと差別化ポイント
37 Partnersが開発したPCCプラットフォームには、従来のライブコマースとは一線を画す3つの特徴があります。
公式ライセンスとタレントコントロール。ディープフェイクや無許可のAI生成コンテンツが社会問題化するなか、PCCは「権利ファースト」のモデルを採用しています。タレント本人が明示的に許可した範囲でのみデジタルライクネスが使用され、参加できるカテゴリやコンテンツの制限もタレント自身が設定します。37 PartnersのCEO Matthew Heller氏は、「タレントが使用を許可し、条件を決め、コントロールを保持する」仕組みだと述べています。
リアルタイム多言語翻訳。PCCの最大の技術的特徴は、ライブセッション中にリアルタイムで多言語翻訳を行う機能です。これにより、英語圏のセレブリティがインドネシア語、タイ語、ベトナム語など東南アジア各国の言語で買い物客と対話できます。時差やタイムゾーンの制約も解消され、セレブリティの「永続的な仮想プレゼンス」が実現します。
ライセンス&レベニューシェアモデル。商業面では、タレントがライブセッション、限定コンテンツ、ブランドアクティベーションから生じる収益に直接参加する仕組みを採用しています。これはインフルエンサーマーケティングの一回限りの報酬モデルとは異なり、長期的かつ継続的な収益化が可能です。
Shopeeの広範なAI戦略との連携
今回のAIセレブリティ・ライブコマースは、SeaがShopee全体で推進するAI戦略の一環です。2026年2月には、SeaとGoogleが包括的なAIパートナーシップの拡大を発表しました。この提携では、ShopeeとGoogleが「エージェンティック・ショッピング・プロトタイプ」の構築を探求することが含まれています。AIが商品発見から購買完了までをシームレスにつなぐ、次世代のショッピング体験の構築が目標です。
さらに、Sea傘下の金融サービス「Monee」はGoogleのAgent Payments Protocol(AP2)への参画も発表しています。AIエージェントが安全に決済を実行するためのプロトコル策定に、東南アジア側から知見を提供する形です。
つまり、Shopeeは「AIセレブリティによるコンテンツエンゲージメント」「エージェンティックな商品発見」「AIエージェント決済」という3つのレイヤーでAIコマースを同時並行で推進しています。
EC事業者への影響と活用法
今回のShopeeの動きは、EC事業者にとっていくつかの重要な示唆を含んでいます。
ライブコマースの「ホスト不在」時代の到来。AIデジタルライクネスを活用すれば、人間のホストが24時間配信する必要はなくなります。東南アジアのEC市場では、SellerCraftの分析によると、ハイブリッド・ライブコマースモデルにより、ブランドは販売時間を延長し、人的リソースを過度に消費することなく追加GMVを獲得できるようになっています。AIセレブリティ・ライブコマースは、この流れをさらに加速させます。
越境ECのコンテンツ障壁の解消。多言語リアルタイム翻訳により、1つのコンテンツアセットが複数市場で同時に機能します。東南アジア6か国以上の言語に対応することで、これまで言語の壁が阻んでいたセレブリティ・インフルエンサーの越境活用が現実的になります。
広告・スポンサーシップの新たな枠組み。AIセレブリティのライブセッションは、従来のマーケットプレイス手数料に加えて、新たな広告枠やスポンサーシップ枠を生み出します。Shopeeが広告収入の拡大を推進するなか、ブランドにとってはセレブリティ・コマースセッション内でのプロダクトプレイスメントという新チャネルが開かれることになります。
ただし、現時点ではテスト段階であり、コンバージョン率や視聴時間、広告主の反応といった具体的な指標はまだ公開されていません。TikTok ShopやLazada、Temuといった競合も類似機能を展開する可能性があり、先行者優位がどこまで持続するかは注視が必要です。
まとめ
ShopeeのAIセレブリティ・ライブコマースは、単なるブランディング施策ではなく、ライブコマースの構造そのものを変革する実験です。37 Partnersは2026年中にスポーツ選手、芸能人、ミュージシャンなど追加のタレント展開を予告しており、Shopee以外のプラットフォームへの拡大も計画しています。
今後注目すべきは、ライブセッションの視聴時間やコンバージョン率といった具体的KPIの開示、そして競合プラットフォームの対応です。東南アジアのEC市場は、TikTok Shopの急成長、Temuの参入、Lazadaの巻き返しと、かつてないほど競争が激化しています。「AIセレブリティ」という新たなコンテンツレイヤーが、この構図をどう変えるか。EC事業者は、自社の越境戦略やライブコマース戦略にこの変化を組み込む準備を始めるべきタイミングです。




