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2026年3月18日

Visa、銀行向けAIエージェント決済テスト環境「Agentic Ready」を欧州で正式ローンチ──21社が初期参画

目次
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この記事のポイント

  1. Visaが銀行・フィンテック21社と「Visa Agentic Ready」プログラムを欧州で正式開始
  2. トークン化と生体認証を軸に、AIエージェントによる安全な自律決済の実証基盤を構築
  3. EC事業者は決済インフラのエージェント対応状況を確認し、トークン化導入を加速すべき

Visaが「Agentic Ready」プログラムを正式発表

2026年3月17日、Visa(NYSE: V)は銀行・フィンテック企業向けのAIエージェント決済テストプログラム「Visa Agentic Ready」を正式に発表しました。まず欧州(英国含む)で展開を開始し、Barclays、HSBC UK、Banco Santander、Revolut、Commerzbank、Nationwide Building Society、Nexi Groupなど21のイシュアー(カード発行会社)が初期パートナーとして参画しています。

このプログラムは、AIエージェントが消費者に代わって商品の検索・選定・決済を自律的に行う「エージェンティックコマース」時代に向け、銀行がエージェント起動型の決済を安全にテスト・検証するための構造化された環境を提供するものです。

背景と業界動向

Visaのエージェンティックコマースへの取り組みは段階的に進んできました。2025年5月にAIエージェント向けの決済サポートを開始し、同年10月にはMastercardと同時期にエージェンティックAI決済ツールをローンチしました。12月にはAkamai Technologiesとの戦略提携でID検証・不正防止を強化し、AWSとの提携でエージェンティックコマースの構築基盤も整備しています。業界全体では、GoogleのUniversal Commerce Protocol(UCP)やMastercardのAgent Suiteなど、エージェント間の相互運用性を高めるプロトコルやツールの整備も並行して進んでいます。

Visaの最高製品・戦略責任者であるJack Forestell氏は、3月中旬にニューヨークで開催されたWolfe Research FinTech Forumで「90年代後半から2000年代初頭のeコマースの夜明け以来、これほどの成長機会は見たことがない」と述べています。同氏はVisa社内で検討された経済予測として、エージェンティックAIがもたらすマクロレベルの効率化によりGDPが80〜150ベーシスポイント押し上げられるとの見通しを示しました。

こうした積み重ねの集大成として、今回のAgentic Readyは「テスト段階から実運用段階への橋渡し」として位置づけられています。

Agentic Readyの技術基盤──トークン化と生体認証の二層構造

Visa Agentic Readyは、新たな決済インフラを構築するのではなく、既存のセキュリティ技術をエージェント起動型取引に適用するアプローチを取っています。その中核となるのが「トークン化」と「生体認証」の二層構造です。

トークン化では、消費者のカード番号を一意のデジタルコードに置き換えます。AIエージェントが購入を開始する際、実際のカード情報ではなくこのトークンを使用するため、機密性の高い金融情報がエージェントを経由することはありません。

生体認証(指紋・顔認証など)は、トークンを本人確認済みの口座保有者に紐づける役割を果たします。さらにVisaはリスクスコアリングと設定可能な支出制御を適用し、エージェントが使える金額や条件をイシュアー側で制限できる仕組みを提供しています。消費者はこれらのパラメーターを事前に設定します。

注目すべきは、すでに実取引が完了している点です。Banco Santanderはスペインで発行されたVisaクレデンシャルを使い、AIエージェントが書籍を購入する一連のプロセス──認可、トークン化決済、ネットワーク決済──を消費者の手動操作なしに完了させました。

欧州を起点に選んだ戦略的意図

Agentic Readyがグローバルプログラムでありながら欧州を最初の展開先に選んだ背景には、明確な理由があります。Visaの公式発表によると、欧州はトークン化、パスキー、高度な認証技術の普及率が高く、テストと協業に適した環境を備えています。

Visa Europeのプロダクト&ソリューション責任者であるMathieu Altwegg氏は「AIエージェントが購買方法を変えつつある中、決済もそれに追いつく必要があります」と述べています。すでに北米アジア太平洋中東中南米でパートナーとの実績を積んでおり、グローバル展開が加速する見通しです。

Forestell氏が示すエージェンティックコマースの4つの実務的インパクト

Forestell氏はWolfe Research FinTech Forumで、エージェンティックコマースが決済業界にもたらす4つの具体的な変化を挙げています。

決済の摩擦低減。取引の辞退率をエージェントが改善し、決済成功率が向上します。成功率の向上は決済ボリュームの増加に直結します。

取引件数の爆発的増加。Visaの平均取引単価は2015年から2026年初頭にかけて約55ドルから約45ドルに20%低下した一方、取引件数は3倍の3,000億件に達しています。エージェントは最適価格を求めて購入を複数の小口取引に分割するため、この「決済密度」はさらに高まります。

購買の多様化と効率化。消費者は習慣的に同じ店舗で購入しがちですが、AIエージェントは最適な商品を複数の店舗から探し出し、ベストプライスで購入します。

B2B決済のデジタル化加速。サプライヤーのオンボーディング、発注書、請求書、支払い、照合といったB2B決済の摩擦をエージェントが取り除きます。Visaは支出管理企業Rampとの協業で、AIエージェントがバーチャルVisaカードを使って即時決済と自動照合を行う仕組みを実現しています。

EC事業者への影響と活用法

決済パートナーのエージェント対応を確認する。自社が利用するイシュアーやPSPがAgentic Readyプログラムに参画しているか、またはエージェント起動型取引に対応した技術基盤を持っているかを確認すべきです。21社の初期パートナーにはRevolutやNexi Groupなど、EC決済で広く利用される企業が含まれています。

トークン化対応を優先する。エージェンティックコマースの安全性はトークン化が前提です。自社のチェックアウトフローがネットワークトークンに対応しているか、対応していない場合はいつまでに導入できるかを決済パートナーと協議する必要があります。

エージェントによる購買分散に備える。Forestell氏が指摘するように、エージェントは最適価格を求めて購入を複数店舗に分割します。つまり、「エージェントに選ばれる商品データの整備」と「競争力のある価格設定」が、従来のUI/UX以上に重要になります。PYMNTSのCEOであるKaren Webster氏もエージェントが購買を担う時代には、店舗のフロントエンドよりも決済クレデンシャルが商取引の中心になると論じています。

まとめ

Visa Agentic Readyの正式ローンチは、エージェンティックコマースが「構想段階」から「実証段階」へ明確に移行したことを示しています。21の銀行・フィンテック企業が参画し、Banco Santanderが実取引を完了させた事実は、AIエージェント決済が技術的に実現可能であることの強力な証明です。

次に注目すべきポイントは、欧州での第一フェーズの成果報告と、アジア太平洋・北米での本格展開のタイムラインです。Visaが「2026年ホリデーシーズンまでに数百万人がAIエージェント経由で購買」と予測している中、EC事業者にとって決済インフラのエージェント対応は「将来の課題」ではなく「今期の優先事項」となりつつあります。