日本のAIコマース勢力図 — モールの中では、もうAIエージェント経由で売れている
国内のAIコマースプラットフォームの現在地を整理します。楽天は全面展開後に平均注文額が約26%向上し、Yahoo!ショッピングはAIエージェント経由の取扱高が全体の15%を超えました。一方でZOZOとメルカリはChatGPTの中に公式アプリを出しており、モール内完結と外部AI面への進出という2つの動きが並行しています。
この記事のポイント
- 日本ではすでにAIエージェント経由で商品が売れています。楽天は全面展開後に平均注文額が約26%伸び、Yahoo!ショッピングはAIエージェント経由の取扱高が全体の15%を超えました
- ただし売れている場所はモールの中です。楽天もYahoo!も自社サービスの内側で完結させており、外部のAIエージェントに商品を開いているわけではありません
- その一方でZOZOとメルカリはChatGPTの中に公式アプリを出しました。「モール内で完結する日本」という一言では、いまの状況を説明できなくなっています
日本ではもう、AIエージェント経由で売れている
エージェンティックコマースの話題は、どうしてもアメリカ発の情報に偏ります。ChatGPTのInstant Checkout、GoogleとShopifyのUCP、Amazonの動き。日本語で読める記事の多くは、それらの翻訳か紹介です。
しかし数字を見ると、日本国内でもすでに商取引が動いています。しかも、その規模は無視できるものではありません。
| 事業者 | 開始時期 | 何をしたか | 公表されている成果 |
|---|---|---|---|
| 楽天 | 2025年12月 | 市場・ファッション・ラクマ・ブックスを横断するAIエージェントを全面展開 | 利用者の平均注文額が約26%向上 |
| Yahoo!ショッピング | 2026年2月 | 検討から購入後までを支援するAIエージェントを提供 | AIエージェント経由の取扱高が全体の15%超。購買率は非利用者の1.5倍 |
| ZOZO | 2026年3月9日 | Apps in ChatGPT で WEAR と ZOZOTOWN の公式アプリを提供 | 会員登録不要。WEARの1,400万件超の投稿を活用 |
| メルカリ | 2026年6月23日 | Apps in ChatGPT で商品検索と出品下書きを提供 | 多言語検索に対応 |
| LINEヤフー(Agent i) | 2026年4月 | Yahoo! JAPANのAIアシスタントとLINE AIを統合した新ブランド | 拡張第1弾として「AIおまかせ比較」を提供 |
Yahoo!ショッピングは2026年2月にAIエージェントの提供を始め、AIエージェント経由の取扱高が全体の15%以上に伸長しました。利用者の購買率は非利用者の1.5倍です。楽天も2025年12月の全面展開後、利用者の平均注文額が約26%向上したと公表しています。
「日本ではまだ先の話」という前提は、少なくともモールの中では成り立たなくなりました。楽天 — サービス横断で提案する
楽天のアプローチで特徴的なのは、AIエージェントを単一サービスの機能として置いていないことです。
2025年12月の全面展開では、楽天市場、楽天ファッション、楽天ラクマ、楽天ブックスのデータを統合しました。これによってサービスをまたいだ提案が可能になり、平均注文額の向上につながっています。ひとつのサイトの中で完結する推薦とは、前提が違います。

楽天市場・ファッション・ラクマ・ブックスを横断するAIエージェントの展開と、平均注文額約26%向上の実績を紹介する楽天グループの公式記事。
corp.rakuten.co.jp展開はその後も続きました。2026年1月には楽天市場のスマートフォンアプリに「Rakuten AI」を搭載し、消費者が最も長く滞在する画面にエージェントを置いています。同年5月のお買い物マラソンでは、店舗選びの支援にもAIが入りました。
見落とされがちですが、楽天は出店者側にもエージェントを提供しています。2026年4月に実装したデータ分析エージェントは、利用店舗の72.9%が深掘り分析に活用したと報告されています。消費者向けと事業者向けの両方を持っている点は、他のプラットフォームにあまり見られない構えです。
土台には自社開発のLLMがあります。2025年12月に発表した「Rakuten AI 3.0」は7000億パラメータの日本語モデルで、各サービスへの展開が予定されています。エージェントの中身まで自前で持つという選択をした国内事業者は、現時点で楽天だけです。
Yahoo!ショッピング — 数字が最も明確に出ている
LINEヤフーの動きは、成果の開示という点で最も具体的です。
2026年2月の提供開始からわずか数か月で、AIエージェント経由の取扱高は全体の15%を超えました。購買率も非利用者の1.5倍です。この2つの数字は、エージェントが単なる話題づくりではなく、実際に売上を動かしていることを示しています。
同社はここから機能を広げています。2026年4月にはAIエージェントの新ブランドとして「Agent i」を立ち上げ、Yahoo! JAPANのAIアシスタントとLINEのLINE AIを統合しました。拡張機能の第1弾として提供された「AIおまかせ比較」は、複数の商品を自動で比較して最適なものを提案するものです。

AIエージェント経由の取扱高が全体の15%以上に伸長したことをあわせて公表した、LINEヤフーの公式リリース。
www.lycorp.co.jp注目すべきは、この統合がLINEという接点を巻き込んでいることです。日本ではLINEの利用者数が圧倒的で、そこにコマースのエージェントがつながる構造は、他国にあまり例がありません。
モールの中で完結するという選択
ここまでの2社に共通するのは、外部のプロトコルを待っていないことです。
UCPやACPといった規格は、複数の事業者が同じ手順で会話するために作られています。しかし楽天もYahoo!ショッピングも、自社サービスの中でエージェントを動かし、自社の決済と物流で完結させています。外部の規格に合わせる必要が、そもそも生じていません。
プラットフォーム事業者が、自社サービスの内側でAIエージェントによる購買を成立させる形。商品データ、決済、物流、会員基盤をすべて自社で持っているため、外部プロトコルへの対応が必要になりません。日本のモールが取っている構えを説明するために、当社が用いている呼び方です。
これは合理的な判断です。集客力があり、決済も物流も内製している事業者にとって、外部のAIに商品を開く動機は薄いままです。開けば手数料の交渉が生まれ、顧客との関係も間接的になります。
米国の構図とは対照的です。Shopifyは自社を「AIエージェントから買える状態」にすることで、加盟店の商品を外部のAIに流通させる方向へ進みました。一方で日本のモールは、エージェントを自社の中に閉じ込めることで、既存の経済圏を守っています。
ただしこの構えには、当社の実測で見えた限界もあります。国内EC42社を調べたところ、楽天市場もYahoo!ショッピングも、外部のAIエージェントから見れば構造化データまでの段階で止まっていました。モールの中では動いていても、外側からは他社と変わらない状態です。
ChatGPTの中に入った日本企業
一方で、まったく別の道を選んだ企業も出てきました。
ZOZOは2026年3月9日、「Apps in ChatGPT」で公式アプリの提供を始めています。WEAR by ZOZOがコーディネートを提案し、ZOZOTOWNがアイテム情報を出す構成です。WEARに蓄積された1,400万件を超えるコーディネート投稿を使い、シーンや天気、会話の流れから提案します。会員登録は不要で、ChatGPTを使っていれば誰でも触れられます。
メルカリも同年6月23日に続きました。ChatGPT上の会話から商品を検索でき、出品時の説明文の下書きも作れます。多言語での検索にも対応しており、海外からの購入を意識した設計です。同社は3月にも、生成AIを使った絞り込み検索を提供開始していました。
この2社がやっていることは、SephoraやWalmartがChatGPT上でやっていることと同じパターンです。自社サイトに来てもらうのではなく、消費者がすでにいる場所へ商品を持っていく。「日本企業は動いていない」という前提が、ここで崩れます。
ただし性質は理解しておく必要があります。これは自社サイトを機械可読にしたわけではありません。ChatGPTという特定の面に、アプリという形で入っただけです。GeminiやClaudeから同じように買えるわけではなく、汎用のAIエージェントに開いたことにもなりません。
日本では、2つの動きが並行している
整理すると、国内の主要プレイヤーは異なる方向へ進んでいます。
| 観点 | モール内完結(楽天・Yahoo!) | 外部AI面への進出(ZOZO・メルカリ) |
|---|---|---|
| どこで買わせるか | 自社サービスの内側 | ChatGPTの中 |
| 外部プロトコルへの対応 | 不要。自社の決済と物流で完結する | 不要。ChatGPTのアプリ枠組みに乗る |
| 活かしている資産 | 集客力・決済・物流・会員基盤 | コーディネート投稿、出品者のロングテール |
| 外部AIから見た状態 | 構造化データまで。取引はできない | ChatGPT上でのみ利用可能。他のAIからは不可 |
| 出店・出品者への影響 | 商品データの粒度が提案されるかを左右する | 自社の商品が外部AI面に露出する |
「日本=モール内完結」という説明では、もう足りません。 モールは自社の中を固め、ZOZOとメルカリは外部のAI面へ出ています。この2つは対立しているわけではなく、それぞれの資産の置き方が違うだけです。
楽天とYahoo!は、集客力と決済と物流を自社で持っています。だから中で完結させたほうが得です。ZOZOとメルカリは、WEARの投稿データや出品者のロングテールという、外に出したときに価値が際立つ資産を持っています。だから外へ出したほうが得になります。
米国と中国と並べると、この構図はさらにはっきりします。米国はUCPやACPといったオープンな規格の主導権を争っています。中国はDoubaoのようなスーパーアプリが複数プラットフォームを横断して数十秒で購買を完結させる方向へ進みました。日本はそのどちらでもなく、プレイヤーごとに答えが分かれている状態です。
自社ECを運営している事業者はどうすべきか
ここまではプラットフォームの話でした。では、自社ECを持つ事業者にとって何が問題になるのか。
モールに出店しているだけでは、外部のAI面には出られません。楽天やYahoo!のエージェントに拾われることと、ChatGPTやGeminiに拾われることは別の話です。前者はモールの中の競争であり、後者はモールの外の競争です。
当社が国内EC42社を実測したところ、自力でAIエージェントに取引させられる状態を作った企業は1社もありませんでした。段階を上げるために必要なのは、次の3つです。
商品ページの価格が、JavaScriptなしで読めるか。ブラウザのJavaScriptを切って商品ページを開き、価格と在庫が見えるか確認します。多くのAIクローラーはJavaScriptを実行しません
Product / Offer の構造化データが入っているか。商品名・価格・在庫・型番が構造として記述されていれば、AIは推測せずに読み取れます
ボット対策が、AIエージェントも弾いていないか。転売対策のWAFがAI検索のクローラーを遮断していないか確認します。robots.txtで許可していても、WAFが手前で切れば結果は同じです
robots.txt でAIクローラーへの意思表示をしているか。許可も拒否も、明示していない事業者が国内の大半を占めます。まず自社の方針を決めます
商品URLを含むサイトマップを出しているか。AIクローラーが商品ページの存在に気づく経路になります
構造化データの整備は、価格が読める状態になってからです。順序を逆にすると、読まれないページに構造化データを足すことになります。プロトコルやフィードの検討は、そのさらに後で構いません。
出店者は何ができるか
モールに出している事業者にも、できることはあります。
楽天のAIエージェントは、サービス横断のデータを使って商品を提案します。つまり商品データの粒度が、提案されるかどうかを左右します。属性が埋まっていない商品は、条件を絞った相談の候補に入りません。
Yahoo!ショッピングの「AIおまかせ比較」は、複数商品を自動で比較して最適なものを選ぶ機能です。比較される以上、比較の材料になる情報が揃っていなければ勝てません。スペック、レビュー、在庫の正確さがそのまま効いてきます。
在庫精度も見落とされがちです。エージェントが提案した商品が品切れだった場合、その体験の責任はプラットフォームに向かいます。在庫の不整合を繰り返す店舗は、提案の優先度が下がると考えるのが自然です。
国内のEC基盤はどうなっているか
自社ECを支える基盤側の対応も気になるところですが、ここは公開情報では確認できませんでした。
futureshop、EC-CUBE、MakeShop、カラーミーショップといった国内の主要基盤について、UCP・ACP・MCPへの対応を示す公式の発表を見つけられていません。当社が実測した42社にも、これらの基盤で運営されている店舗は含まれていませんでした。
対照的に、Shopifyは2026年3月24日にAgentic Storefrontsを対象マーチャント全体で有効化しています。しかもオプトアウト方式です。当社が日本語店舗17件を調べたところ、Shopifyで運営している6店はすべてUCPプロファイルを持ち、それ以外の11店は1店も持っていませんでした。
つまりどの基盤に乗っているかが、事業者の投資判断より強く効いている局面です。基盤ごとの違いはコマース基盤の比較で整理しています。
よくある質問
モールの中の話としては、モール側の仕組みに乗ることになります。ただしChatGPTやGeminiのような外部のAIに拾われるかは別問題です。自社ECを持っているなら、そちらは別途対応が必要になります。
「Apps in ChatGPT」は誰でも申請できる枠組みではなく、OpenAI側の審査と技術要件があります。規模の小さい事業者にとって現実的な第一歩は、自社サイトをAIが読める状態にすることです。
層によって答えが変わります。モール内でのエージェント購買という点では、Yahoo!ショッピングの15%という数字は国際的に見ても高い水準です。一方で自社サイトを外部AIに開くという点では、実測で確認できた事業者はいませんでした。
LINEヤフーが2026年4月に立ち上げたAIエージェントのブランドです。Yahoo! JAPANのAIアシスタントとLINEのLINE AIを統合したもので、Yahoo!ショッピングのAIエージェントもこの枠組みに位置づけられています。
時期は予測できません。ただしShopifyのように基盤側が一括で有効化する動きがあるため、事業者の判断とは無関係に対応済みの店舗が増える展開はありえます。自社の基盤が何を予定しているかを確認しておくと、後から慌てずに済みます。
まとめ
日本のAIコマースは、「まだ始まっていない」段階をすでに過ぎています。楽天とYahoo!ショッピングはモールの中でエージェント経由の売上を作り、ZOZOとメルカリはChatGPTの中に居場所を作りました。
ただし、その2つはどちらも自社サイトを外部のAIに開いたわけではありません。国内EC42社を実測しても、そこへ進んだ事業者は見つかりませんでした。
自社ECを運営しているなら、まず商品ページをJavaScriptなしで開いてみてください。価格が見えなければ、そこが出発点です。エージェンティックコマース全体の構造はエージェンティックコマースとはにまとめています。
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