Amazonの「About You」が話題に、買い物AIの記憶を利用者が見て直せる仕組みと出品者への影響
AmazonのAbout Youは、Alexa for Shoppingが購入履歴や会話から推定した好みを一覧にし、利用者が編集できる機能です。SNSで「調書」と呼ばれた理由と、AIショッピングの推薦を左右する個人データがEC事業者に与える影響を解説します。
この記事のポイント
- Amazonが2026年5月に始めた「About You」は、購入履歴やAlexa for Shoppingとの会話から推定した好みを1か所に並べ、利用者が編集・削除できる機能で、10月に入りSNSで「個人の調書」として一気に拡散しました
- About Youの本質は、AIショッピングアシスタントの記憶を利用者に見せる画面であり、エージェンティックコマースでは推薦の質を決めるのが利用者の文脈データだという事実を可視化しました
- 出品者は個々の買い物客のプロファイルを見られないため、家族構成・食事制約・用途など、プロファイルの項目と突き合わせられる属性を商品データに明記しておくことが推薦に載る前提になります
5月に始まった機能が、10月に「調書」と呼ばれた

Amazonのショッピング体験を個人に合わせるための情報を、より簡単に更新・編集できるようになります。
www.aboutamazon.comAmazonの「About You」は新しい機能ではありません。Amazonは2026年5月13日、AIショッピングアシスタント「Alexa for Shopping」の提供開始と同じ日に、About Youの紹介記事を公開しています。それが5か月近くたった10月、急に注目を集めました。
きっかけはSNSへの1件の投稿です。Futurismによると、ある利用者がAmazonのアカウント画面の奥でこのページを偶然見つけ、自分について推定された内容のスクリーンショットを投稿しました。投稿は100万回を大きく超えて閲覧され、ほかの利用者も次々に自分のページを公開し始めます。
並んだ推定の中身はさまざまでした。体型に関する記述、性別や年齢の取り違え、交友関係についての決めつけのように本人が不快に感じる記述もあれば、読書の習慣やお気に入りのブランドのように、言い当てられて驚いたという記述もありました。New York Postはこれを「個人の調書(dossier)」と呼ぶ声があると紹介し、Futurismは企業による顧客データの蓄積を改めて意識させる例だと論じました。
About Youに何が載り、どう直せるのか
Amazonの説明では、About Youに使われる情報は5種類です。Alexa for Shoppingとの会話、本人が書いた商品レビュー、購入履歴、リストに保存した商品、検索です。これらから推定した好みや属性が、文章の形で一覧になります。公式記事の画面イメージでは「Brands」「Diet & Nutrition」「Interests & Hobbies」といった分類があり、「プロテインバーが好き」「自宅でエスプレッソを淹れる」のような項目が並んでいます。
利用者ができることは3つあります。望む情報を書き足すこと、特定の項目を修正すること、個人化に使ってほしくない情報を消すことです。確認の入口はアプリ、モバイルWeb、デスクトップのアカウント画面に加え、Alexa for Shoppingに「What do you know about me?」と聞く方法も用意されています。
Amazon自身が挙げる例はわかりやすいものです。飼い猫の好物を会話で伝えておけば、その味のおやつを勧める。園芸用品をリストに入れれば、土壌改良材や相性のよい植物を提案する。植物性ミルクを買い続けていれば、食料品の買い物で乳製品を使わない商品を勧める。以前から推薦設定や閲覧履歴の編集はできましたが、それらを1か所で見て直せるようにした点が新しいところです。
これはAIショッピングエージェントの「記憶」の公開です
About Youを単なる設定画面として見ると、この話の重みを取り違えます。これは、AIショッピングアシスタントが利用者について何を覚えているかを、そのまま見せる画面です。
背景には、5月のRufusからAlexa for Shoppingへの統合があります。AmazonのAlexa for Shoppingの発表によると、Rufusは2025年に3億人を超える顧客の調べもの・比較・購入を支えました。統合後のAlexa for Shoppingは、Echoで話した内容がAmazonでの買い物に生かされ、Amazonでの会話や閲覧、購入がAlexaの応答にも生かされるという、双方向の記憶を前提に設計されています。担当VPのRajiv Mehta氏は、この体験を「すでにあなたを知っている」専門のパーソナルショッパーにたとえています。
この設計の下では、同じ質問をしても答えが人によって変わります。Amazon向けツールを提供するZonGuruは、自社CEOが「swingball」とだけ検索したところ、購入履歴にあったピックルボール用品を踏まえてピックルボール版の商品が先頭で勧められた事例を報告しています。検索結果ページなら数十の商品が並びますが、AIの回答に名前が挙がるのは数点です。どの数点に入るかを、プロファイルが左右しているということです。
この記憶は、ほかの機能の土台にもなっています。9月に加わったUpdate Me Whenは、利用者が気にしている事柄の新しい動きをAIが先回りして知らせる機能です。About Youに並ぶ「関心・趣味」と、Update Me Whenに登録される関心事項は、どちらも「この人が何を気にしているか」という同じ種類の情報です。
広告もこの流れの上にあります。Amazon Adsが9月に発表したBranded Conversationsは、ブランドが提供した製品知識をもとにAIが会話を進める広告で、2027年1月に米国で始まります。ブランドの説明がAIの回答に入り、その回答はさらに利用者ごとの記憶で個人化されます。ただし、About Youの情報が広告の配信先選びに使われるのかどうかは、公式発表では未開示です。
エージェンティックコマースでは、AIが商品を探し、比べ、ときに購入まで進めます。そのときに推薦の質を決めるのは、モデルの賢さだけではありません。その人の家族構成、食事の制約、好きなブランド、過去に何を買って何を返したかという文脈データです。About Youは、その文脈データを利用者の目に見える形にしました。今回の騒ぎは、AIの推薦が何に基づいているかを多くの人が初めて具体的に見た結果だと言えます。
ChatGPT・Geminiのメモリと比べると
汎用AIにも、利用者を覚える機能はすでにあります。OpenAIのヘルプ記事によると、ChatGPTのメモリは過去のチャットや保存済みメモリ、連携アプリの内容などを参照し、要約画面で確認・訂正・削除ができます。Googleは2025年8月のブログで、Geminiが過去のチャットから好みを学ぶ設定を初期状態でオンにし、記憶に使われないTemporary Chatを用意すると発表しました。
| 項目 | Amazon About You | ChatGPTのメモリ | Geminiの過去チャット参照 |
|---|---|---|---|
| 主な情報源 | 購入履歴、Alexa for Shoppingとの会話、レビュー、リスト、検索 | 過去のチャット、保存済みメモリ、カスタム指示、Library内のファイル、Gmailなど連携アプリ(プラン・地域による) | 過去のチャット |
| 確認の方法 | About Youページ、またはAIに「What do you know about me?」と聞く | メモリの要約画面、ChatGPTへの質問、回答下のSources表示 | 設定の「Personal context」 |
| 直し方 | 追加・修正・削除 | 訂正、言及しないよう指示、削除してメモリをオフ | 設定でオン・オフ、会話履歴の管理と削除 |
| 記憶を残さない会話 | 公式発表に記載なし | 一時チャット(Temporary Chat)はメモリに使われない | Temporary Chatは個人化に使われない |
| 記憶の主な使い道 | 商品の推薦と買い物支援 | 回答全般の個人化 | 回答全般の個人化 |
見比べると、Amazonの特徴は情報源にあります。汎用AIの記憶は、利用者が会話で話した内容が中心です。Amazonの記憶には実際に何を買ったかという取引データが入っています。本人が一度も口にしていない属性まで、購買の積み重ねから推定されるのはこのためです。今回の投稿で不快感が強く出たのも、本人が言っていないことを書かれていた項目でした。
一方で、記憶を見せて直させるという方向は各社とも共通しています。AIが利用者を覚えるほど推薦は鋭くなりますが、間違った記憶や知られたくない記憶も増えます。確認と修正の手段を用意することが、記憶を使うAIの最低条件になりつつあります。
出品者とブランドは商品データに何を書くべきか
まず押さえておきたいのは、出品者は個々の買い物客のAbout Youを見ることができないという点です。ZonGuruの解説もこの前提に立っています。出品者の側で手を入れられるのは、プロファイルと突き合わされる側、つまり自社の商品ページです。
Amazonの資料からは、プロファイルの項目の方向性が読み取れます。Alexa for Shoppingの発表は、確認・更新できる情報として家族構成、ペット、関心、食事の制約を挙げています。About Youの画面にはブランド、食事・栄養、関心・趣味の分類があります。商品ページがこれらの軸で何を満たすのかを明記していなければ、AIは利用者の記憶と商品をつなぐ手がかりを持てません。
Amazon出品者の間では、この変化を「プロファイルとの照合」と捉える見方が広がっています。PPC Landは、EC戦略家のVanessa Hung氏の分析として、「小さな子どもがいる家庭向け」「小さなホームオフィス向け」のような用途や対象を書いた表現が、プロファイルと照合される手がかりになるという見方を紹介しています。仕様だけを並べた箇条書きは、誰のための商品かを示さないということです。
ただし、プロファイルが推薦の中でどれだけの重みを持つかを、Amazonは公表していません。上の見方は実務家の観察であり、Amazonの公式な説明ではない点に注意が必要です。とはいえ、乳製品不使用、対象年齢、対応するペットの種類、使う場面といった事実を、曖昧な形容詞ではなく具体的な属性として書いておくことは、どの推薦の仕組みに対しても損になりません。
日本のEC事業者にとっては、提供範囲も確認しておきたいところです。Alexa for Shoppingは米国向けの提供で、About Youを日本のAmazonで提供する予定は公式発表に記載がありません。
プライバシーの留保
今回の反応は、記憶を見せることの難しさも示しました。推定の中には、体型や交友関係のように本人が明らかにしていない、しかも外れていれば失礼になる内容が含まれていました。編集できるとはいえ、まず不快な推定が作られ、それを利用者が見つけて消す順番になっています。
Amazonの音声データの扱いには前例もあります。米連邦取引委員会(FTC)と司法省は2023年5月、Alexaが子どもの音声記録を保護者の削除要求後も保持していたなどとして、Amazonに2,500万ドルの民事制裁金を求める措置を発表しました。Alexa+とAmazonの買い物データが一つの記憶でつながった今、どの情報をどれだけの期間保持し、何に使うのかの説明が一段と重要になります。
About Youの公式記事は、推定に使うデータの保持期間、広告への利用の有無、記憶そのものを止める設定の有無、推定から除外する情報の種類について触れていません。いずれも現時点では未開示です。
まとめ
About Youは、AIショッピングの推薦が利用者の記憶の上に成り立っていることを、誰にでも見える形にしました。今回は推定の粗さが笑いと反発を呼びましたが、記憶を使う方向そのものは変わらないはずです。
次に注目すべきは、Amazonが保持期間や広告利用について説明を足すかどうか、そして2027年1月にBranded Conversationsが始まったとき、ブランドの説明と個人の記憶がどう組み合わさるかです。EC事業者にとっては、AIが覚えた「この人」に自社の商品を結びつけられるだけの具体的な属性を、商品データに書けているかが問われます。


