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小売・事例2026年10月5日

ChatGPTがバーチャル試着「Try on」とお気に入り保存を開始:Googleとの違いとアパレルECへの影響

OpenAIがChatGPTのショッピングに、自撮り写真で服を試着できる「Try on」と商品を保存する「Favorites」を追加しました。Googleの試着機能との違い、決済撤退後の戦略、アパレルEC事業者が見直すべき商品画像と返品対策を解説します。

ChatGPTがバーチャル試着「Try on」とお気に入り保存を開始:Googleとの違いとアパレルECへの影響

この記事のポイント

  1. OpenAIは2026年10月1日、ChatGPTのショッピングに、自撮りや全身写真で衣類・アクセサリーを試着できる「Try on」ボタンと、商品を保存する「Favorites」を追加し、世界展開を発表しました。画像生成は新モデルのChatGPT Images 2.5が担います
  2. Instant Checkoutの終了で決済の囲い込みから退いたOpenAIが、購入前の「迷う時間」をChatGPTの中に取り込みにきた動きです。外部サイトのスクリーンショットからも試着できるため、ChatGPTに商品を載せていない事業者の商品も対象になります
  3. アパレルEC事業者にとっては、商品画像がAIの試着の素材になり、Favoritesが新しい検討リストになります。試着画像のサイズ再現性、利用実績、事業者が対象から外れる方法は未開示で、返品への効果も検証されていません

ChatGPTの商品一覧に「Try on」ボタンが付いた

「この黒のジャケット、自分が着たらどう見えるか」。これまでChatGPTに商品を探させても、最後の判断は商品ページのモデル写真を見て想像するしかありませんでした。OpenAIは10月1日、この最後の一歩をChatGPTの中で済ませられるようにしました。

ChatGPTのリリースノートによると、ChatGPTに表示される衣類とアクセサリーの商品リストに「Try on」ボタンが現れます。選ぶと自撮り写真の撮影かアップロードを求められ、ChatGPT Imagesがその人が商品を身に着けた画像を生成します。参照写真は次回以降の試着のために保存され、設定の「パーソナライズ」にある「参照写真」から変更や削除ができます。

もうひとつの機能が「Favorites」です。見つけた商品をChatGPTのLibraryに保存し、フォルダを作って整理できます。TechCrunchによれば、保存した商品は試着画像と並んで表示されます。提供はモバイルとウェブで、OpenAIは世界展開と説明しています。

画像生成を支えるのは、9月に公開されたChatGPT Images 2.5です。OpenAIは、光の表現が自然になり、生地の質感が豊かになり、編集指示に正確に従い、生成の待ち時間が短くなったと説明しています。ただし、いずれも同社の主張で、どれだけ速くなったかの数値は示されていません。

試着の入口は、ChatGPTの商品リストだけではありません。他のECサイトで見つけた服のスクリーンショットをアップロードし、試着させることもできます。好みのスタイルを文章で伝えて必要なアイテムを集めさせたり、有名人の服装の写真から購入できる商品を探させたりする使い方も、OpenAIは紹介しています。

決済から退いたOpenAIが取りにきた「迷う時間」

今回の発表は、ChatGPTのショッピングが1年でたどった道のりの上に置くと意味がはっきりします。

始まりは2025年11月のショッピングリサーチでした。条件を伝えると、ChatGPTが質問を重ねながら複数の小売サイトを調べ、購入ガイドを作ります。無料プランを含むログイン利用者に提供され、結果は公開されている小売サイトをもとにした自然な表示で、事業者は許可リストの手続きで掲載対象に入れると説明されていました。

その前後でOpenAIは、ChatGPTの中で支払いまで終える「Instant Checkout」にも力を入れていました。しかし2026年3月、同社はこの機能を終了し、小売企業のアプリ連携へ戦略を移しました。Walmartの幹部は、ChatGPT内の決済のコンバージョン率が自社サイトの約3分の1だったと明かしています。Walmartはその後、自社のAIアシスタント「Sparky」をChatGPTに組み込む形へ切り替えました。

決済をChatGPTに取り込む試みが思うように進まなかったあと、OpenAIが手を入れたのは購入の手前でした。6月にはL'Oréalとの提携を発表し、Maybellineのメイクのバーチャル試着をChatGPTに導入すると明らかにしています。これはブランドが自社の技術(ModiFace)を持ち込む形でした。今回のTry onは、OpenAIが自社の画像モデルで、ブランドを問わず衣類全般を試着させる点で一段踏み込んでいます。

アパレルの購入で客が迷うのは、似合うかどうか、手持ちの服と合うか、他の候補とどちらがよいかという点です。Try onが「似合うか」に、Favoritesが「候補を並べて比べる」に答える役割を担います。Digital Trendsは、ChatGPTの週間利用者が12億人を超え、その多くがすでに買い物の着想を得るために使っていると指摘し、OpenAIは新しい習慣を作るのではなく既存の習慣に乗っていると評しました。

ここで見落とせないのは、Favoritesが小売サイトの「お気に入り」と同じ役割をChatGPTの側に持つことです。これまで客が候補を保存する場所は、各ECサイトのウィッシュリストやカートでした。そのリストがChatGPTのLibraryに移れば、どの商品がどれだけ保存されたかを知るのは小売ではなくOpenAIになります。決済を手放しても、購入の意思決定を記録する場所は押さえにいく。そう読める組み合わせです。

Googleの試着と何が違うのか

AIによる試着そのものは新しくありません。Googleは2025年7月に米国で服のバーチャル試着を始め、10月にはオーストラリア、カナダ、日本へ広げ、靴にも対応しました。日本の消費者は、すでにGoogleで同種の体験に触れられる状態にあります。

項目ChatGPTGoogle
提供開始2026年10月1日(世界展開と発表)2025年7月に米国、同年10月にオーストラリア・カナダ・日本へ拡大
使う写真自撮りまたは全身写真全身写真
試着できる商品ChatGPTに表示された衣類・アクセサリー。外部サイトのスクリーンショットも可Googleの商品リストに並ぶ衣類。2025年10月から靴も
保存Favorites(Library内でフォルダ分け、試着画像と並べて保存)生成画像の保存・共有
対象プラン・料金未開示(モバイルとウェブで提供とだけ記載)Google検索の機能として提供

違いが出るのは入口の広さです。Googleの試着は、Googleの商品リストに並んだ商品が対象で、全身写真を使います。ChatGPTは自撮りでも始められ、どのサイトの商品でもスクリーンショットさえあれば試着の対象にできます。TechCrunchは、有名人の服装から商品を探す使い方について、PinterestとGoogleが握ってきたファッションの着想と発見の領域に入る動きだと位置づけています。

一方で、同メディアは、Googleが1年先に試着を始めている以上、ChatGPTがこうした用途の第一候補になるかはまだ分からないとも書いています。試着が使えること自体は差別化にならず、会話の中で候補を集め、試着し、保存するまでを途切れずにつなげられるかどうかが比較の軸になります。

掲載していない商品も試着される:スクリーンショット経路の意味

EC事業者にとって最も影響が大きいのは、スクリーンショットからの試着です。

ChatGPTの商品リストに載るには、公開されている商品ページが読み取られるか、事業者が掲載のための手続きを踏む必要がありました。ところがスクリーンショット経路では、客が自社サイトの商品画像を切り取ってChatGPTに渡すだけで試着が始まります。事業者がChatGPTと何の関係も持っていなくても、自社の商品画像がAIの試着の素材として使われることになります。

これは事業者にとって二面性があります。良い面は、ChatGPTに掲載されていない中小ブランドの商品でも、客の検討の土俵に乗れることです。悪い面は、試着画像の出来を事業者が管理できないことです。生地の落ち感や色味が実物と違って描かれても、客はそれを商品の印象として受け取ります。事業者がこの経路で試着の対象から外れる方法は、今回の発表では示されていません。

商品画像の撮り方も問われます。平置きの写真1枚しかない商品と、正面・側面・着用の写真や素材の接写がそろった商品では、AIが読み取れる情報量が違います。生成の仕組みは公開されていませんが、試着の素材として使われる以上、商品画像はモデル写真としてだけでなく、AIへの入力データとしての役割も担い始めています。

留保:試着画像はサイズを保証しない

推進側の説明だけでは見えない論点もあります。

最も大きいのは精度です。OpenAIが示したのは光や質感、編集指示への追従といった画像としての品質で、試着画像がサイズやフィットをどこまで正しく再現するかは示されていません。自撮り写真から体型をどう推定するのか、サイズ表を参照するのかも未開示です。Digital Trendsは、買い物客がAIの描いた自分の姿を信頼するかどうかこそが本当の問題だと指摘しています。

返品の観点では、この点が重くなります。全米小売業協会(NRF)とHappy Returnsの2025年の推計では、オンライン売上の19.3%が返品されるとされ、Zalandoは欧州のオンラインファッションで返品率が50%前後に達し、その最大半分がサイズとフィットに起因すると説明しています。見た目の確認だけで購入の後押しが強まり、サイズの不一致が解消されなければ、返品は減らないどころか増える余地もあります。THG IngenuityのAI Stylistの事例でも、コンバージョンの数字は示されながら返品削減の数値は出ていませんでした。

利用者との信頼の問題もあります。TechCrunchは同じ週に、AIスタートアップInstinctの先回りの商品推薦が、広告のようで行き過ぎだと受け止められた例を紹介しました。自分の写真を保存し、保存した商品の傾向を学習するショッピング体験は、便利さと気味の悪さの境目が近くにあります。参照写真が試着以外の用途に使われるかどうかについて、リリースノートは保存と削除の方法を示すにとどまっています。

利用規模も分かっていません。試着の利用回数や、試着から購入に至った割合といった数字は発表されていません。

アパレルEC事業者が今見直したいこと

まず、商品画像と商品データです。着用写真の有無、角度の数、素材や色の表記、サイズ表とモデルの身長・着用サイズの記載を見直します。AIが試着画像を描くときにも、客が試着後に購入を判断するときにも、同じ情報が使われます。

次に、ChatGPTからの流入の見え方です。Instant Checkoutの終了後、ChatGPTで見つけた商品の購入は小売のサイトで行われる流れが基本です。アクセス解析でChatGPTからの参照を分けて計測し、その流入の返品率を他の経路と比べる準備をしておくと、試着の効果を自社のデータで判断できます。

最後に、掲載の手続きです。ChatGPTの商品リストに確実に載るための許可リストの手続きは、ショッピングリサーチの開始時から案内されています。スクリーンショット経由で試着されるのを待つより、自社が管理する商品ページの情報で表示される方が、価格や在庫の誤表示を避けやすくなります。

まとめ

ChatGPTのTry onとFavoritesは、決済の囲い込みから退いたOpenAIが、購入前の検討の時間をChatGPTの中に取り込む動きです。試着の入口をスクリーンショットにまで広げたことで、ChatGPTと関係を持たない事業者の商品も、その検討の中に入り込みます。

次に注目すべきは、試着がサイズやフィットの判断にまで踏み込むのか、そしてFavoritesに保存された商品のデータが価格通知や広告とどう結びつくのかです。JD.comが618商戦で試着を全面展開したように、試着は各プラットフォームの標準機能になりつつあります。その中で事業者が握れるのは、AIに読ませる商品画像とデータの質です。