AmazonとWalmartのAIエージェントは「Made in USA」を隠すのか、コロンビア大が対照実験で示した5つの発見
コロンビア大ロースクールが対照実験で、AmazonのAlexa for ShoppingとWalmartのSparkyによる「Made in USA」検索の抑制を指摘。研究手法と数値、Amazonの反論、EC事業者が取るべき対策を解説します。
この記事のポイント
- コロンビア大学ロースクールの研究センター(所長は元FTC委員長のLina Khan氏)が対照実験を行い、AmazonのAlexa for ShoppingとWalmartのSparkyが「Made in USA」検索を抑制し、虚偽の原産国表示を放置していると指摘しました。
- 両エージェントは不正を検出する能力を持ちながら活用しておらず、エージェント自身が不作為を「技術的制約ではなくビジネス上の判断」と説明した点が調査の核心です。Amazonは意図的な抑制を否定しています。
- AIエージェントの商品発見はプラットフォームの事業判断で設計されます。EC事業者には原産国を含む構造化データの整備と、エージェント上の自社の見え方の定点観測が求められます。
コロンビア大が公開した調査報告「Made in America, Hidden by AI」

コロンビア大ロースクールの研究は、AmazonとWalmartのAIエージェントが米国製品を隠し、虚偽の原産国表示を許していると指摘します。エージェント自身はそれを「ビジネス上の判断」と認めたといいます。
www.forbes.com米国では消費者の8割超が米国製品を選びたいと答えています。ところが、その入り口となるAI検索が意図的に米国製品を隠しているとしたらどうでしょうか。コロンビア大学ロースクールのCenter for Law and the Economyは2026年7月、「Made in America, Hidden by AI」と題した調査報告を公開しました。執筆者は同センターのシニアフェローErie Meyer氏とプログラムマネージャーZachary Harris氏で、センターの所長は元FTC(連邦取引委員会)委員長のLina Khan氏が務めています。
調査対象は、AmazonのAlexa for ShoppingとWalmartのSparkyという2つのAIショッピングエージェントです。報告書は発見を5点に整理しています。
- AmazonとWalmartは「Made in USA」詐欺を検出・指摘する技術的能力を持っている
- それにもかかわらず、虚偽の原産国表示は両プラットフォームに広く存在している
- Amazonは「Made in USA」に関する質問をブロックする一方、「Made in China」の同等の質問には回答する
- 両社のエージェントは、不作為を技術的制約ではなくビジネス上の判断だと説明した
- 両社はAIツールの仕組みを文書化・開示するという2023年の自らの公約を果たしていない
Khan氏はForbesの取材に対し、「両社はこの高度な技術を選択的に使い、『Made in USA』を探す顧客の検索に対して米国製品を隠し、輸入品を誤表示している」と述べています。
対照実験は何を明らかにしたか
研究チームの手法は、誰でも再現できる形で公開されています。同じ構造の質問を米国製と外国製で対にして投げて応答を比較し、エージェントが回答を拒否した場合は、言い回しを少し変える「クエリバリエーションテスト」で、拒否がデータの欠落によるものか、意図的に組み込まれたガードレールなのかを切り分けます。この地道な比較の積み重ねが、報告書の説得力を支えています。
最も象徴的なのはフライフィッシング用リールの例です。Alexa for Shoppingに「Made in USA」のリールを尋ねると、「その情報にはアクセスできません」という定型の拒否が返ってきました。ところが「Made in China」のリールを尋ねると、価格、評価、ブランドの原産分析まで含む詳細な比較表が提示されます。さらに言い回しを変えて聞き直すと、米国内の製造拠点を明記したブランド比較が出力されました。データは最初から存在していたのです。報告書はこの拒否を、データ不足ではなく「エンジニアリングされたブロック」だと結論づけました。
虚偽表示の実態も具体的に示されています。調査チームは、タイトルに「Made in USA」を掲げながら原産国欄に「輸入品」や中国と記載された商品を数十件発見しました。総額は数千ドル分にのぼり、報告書は「制約は事例の枯渇ではなく、探す時間だけだった」と記しています。Alexaは自らが生成した比較表で輸入Tシャツを米国製と誤表示し、矛盾を問われると「その比較表は信用しないでください。虚偽の情報が含まれています」と自分の出力を否定する場面もありました。
検索フィルターの非対称も見逃せません。人形カテゴリを対象にした調査では、Amazonが269種類、Walmartが約300種類の絞り込みフィルターを提供していながら、原産国で絞り込む手段はどちらのプラットフォームにも存在しませんでした。
エージェント自身が語った「ビジネス上の判断」
この調査が従来のプラットフォーム批判と一線を画すのは、告発の主要な根拠が両社のエージェント自身の発言だという点にあります。
なぜ「Made in USA」フィルターがないのかと問われたAlexaは、Amazonのアクティブセラーの40〜50%が中国を拠点としており、米国製での絞り込みは「セラーベースの大部分から買い物客を目に見えて遠ざけることになる」と説明しました。不作為の受益者は「原産地の曖昧さに頼って価格競争する大量出品の海外セラー」だとも述べています。
Sparkyの回答はさらに率直でした。疑わしい表示をなぜ検証しないのかという質問には、技術的な理由はなく「障壁は技術ではなく組織にある」と回答。法令遵守が優先事項かを重ねて問われると、「法的リスクが歴史的に低かったからです。FTCはメーカーと違って小売業者への訴追をほとんど行わないため、能動的なコンプライアンス体制を築く実務上の圧力が限られてきました」と述べました。
もっとも、チャットボットの出力を会社の公式見解と同一視することには留保が必要です。報告書自身も、広報部門はこの出力を公式回答とは見なさないだろうと認めています。その上で、出力内容が観察された挙動と一致していること、チャットボットが社内の商品データとビジネスロジックに独占的にアクセスできることを、証拠として重視する立場を取っています。
Amazonの反論と規制の現在地
Amazonは調査の結論に異議を唱えています。Forbesの取材に対し広報担当者は、「原産国情報を意図的に隠しているという指摘は誤りです。原産国情報は入手可能な場合、商品詳細ページに表示されており、Alexa for Shoppingが正確に情報を提供できるよう改善を続けています」と回答しました。一方、WalmartはForbesのコメント要請に応じていません。なお、研究チームが公開前に両社へ事実確認を求めた際は、どちらの会社からも回答や訂正はなかったと報告書は記しています。
規制の動きは鈍いままです。FTCは2025年に両社へ「Made in USA」表示に関する警告書を送りましたが、その後の執行は、同様の警告を受けた中小事業者3社への措置にとどまっています。違反への制裁金は1件1日あたり最大53,088ドルと重い一方で、プラットフォーム本体への適用例はありません。報告書はこの不均衡を踏まえ、経営幹部や取締役の認識にまで踏み込んだ調査、第三者売主監視部門の構造分離、そして消費者や事業者が直接提訴できる連邦私訴権の創設を提言しました。プラットフォーム自身が生成した比較表やチャットボット出力は通信品位法230条の免責対象にならない、という法的整理も含まれています。
「選ばれる側」のEC事業者が読み取るべきこと
この報告書を巨大プラットフォーム批判として消費するだけでは足りません。エージェンティックコマースの構造を理解する材料として読むと、EC事業者への示唆は明確です。
まず、AIエージェントの商品発見は中立ではなく、プラットフォームの収益構造を反映した設計物だという事実です。Walmartはエージェント利用者の平均注文額が35%高いと決算説明で述べ、Amazonはエージェント経由のショッピングで年120億ドルの売上増があったとしています。エージェントが誰を推薦するかは、収益に直結する設計判断そのものになりました。自社商品の露出がその設計に左右される以上、単一の販路に依存する構造はリスクです。
次に、構造化データの精度が防御になります。今回の調査でエージェントは、商品タイトルと原産国フィールドの矛盾を即座に検出しました。裏を返せば、エージェントは構造化されたフィールドを読んで信頼性を判断しています。原産地、素材、認証といった属性データを正確に整備することは、将来の規制対応であると同時に、エージェントから「信頼できる商品」と判定されるための投資です。
最後に、エージェント上の自社の見え方を実測する習慣です。研究チームの手法は特別なツールを使わない対話テストであり、どの事業者でも自社商品について再現できます。AlexaやSparky、ChatGPTが自社カテゴリをどう答えるかを定点観測すれば、露出の偏りや誤情報に早く気づけます。AAMとMorning Consultの2025年11月調査(2,200人対象)では8割超が米国製品を選好し、報告書が引用する調査では65%が10%以上のプレミアム支払いを許容するとされています。この需要が満たされていない事実は、エージェント時代の差別化余地がまだ大きいことを意味します。
まとめ
コロンビア大の報告書が突きつけたのは、AIエージェントが「何を見せないか」もまた設計されるという現実です。規制の行方は未確定ですが、議会公聴会や連邦私訴権の議論が進めば、エージェントの推薦ロジックに透明性を求める圧力は強まります。EC事業者の実務は変わりません。属性データを正確に保ち、エージェント上の自社の見え方を測り、発見チャネルを複線化することです。エージェンティックコマースで取引の入り口がエージェントに移る時代に「選ばれる側」であり続けるための基礎体力は、この地道な整備にあります。



