2026年6月23日

ChatGPTでの買い物はどこで機能しどこで失敗するか、フランクフルト大学が973サイトを実証分析

この記事のポイント

  1. フランクフルト・ファイナンス&マネジメント大学が973のECサイト(合計売上200億ドル超)を1年間分析した結果、ChatGPT経由の流入は全体の0.2%未満にとどまり、コンバージョン率も大半の従来チャネルを下回った
  2. ただし商品カテゴリで結果は大きく分かれ、自動車や金融など複雑な購買では従来チャネルを上回る一方、単純な商品では価値が限定的という二極化が確認された
  3. コンバージョン率は調査期間を通じて上昇傾向にあり、Instant Checkoutやエージェンティックショッピングの登場で評価が変わる可能性が示されている

「Google killer」という見出しと、実証データのギャップ

ChatGPTが商品レコメンドを表示し始めたとき、「これでGoogle検索もアフィリエイトも置き換わる」という論調が一気に広がりました。EC事業者の間でも、AIアシスタント経由の購買が次の主戦場になるのではという期待と不安が入り混じっていたはずです。

その熱量に対して、フランクフルト・ファイナンス&マネジメント大学のChristian Schulze教授と、ハンブルク大学のMaximilian Kaiser氏による研究は、かなり冷静な数字を突きつけました。論文「ChatGPT Referrals to E-Commerce Websites: How Do LLMs Compare Against Traditional Channels?」は学術誌『Marketing Science』に掲載されており、973のECサイト、合計売上200億ドル超、2024年8月から2025年7月までの実データを土台にしています。比較対象には自然検索、ペイド検索、メールマーケティング、アフィリエイト、ペイドソーシャルといった確立したチャネルが並びます。

結論を一言でまとめると、ChatGPTは「すでにECを変えた」のではなく、「これから化けるかもしれない芽」という位置づけでした。ただしその芽は、すべての商品で一様に育っているわけではありません。

数字で見ると、ChatGPTはまだ「主役」ではない

研究チームが最初に示したのは、流入量の小ささです。オーガニックなショッピングリンクが公開されてから1年が経っても、LLM経由のトラフィックはサンプル全体の0.2%未満にとどまりました。自然検索と比べるとおよそ200分の1という水準で、量だけ見れば無視できる規模です。

質の面でも、まだ従来チャネルに見劣りします。ChatGPT経由のコンバージョン率とセッションあたり売上は、ペイドソーシャルこそ上回るものの、それ以外のチャネルには届きませんでした。報道によれば、自然検索よりおよそ13%低く、アフィリエイト経由と比べると86%も低い水準だったと整理されています。50,000件超のChatGPT経由の購買を、従来チャネルの1億6,400万件の取引と突き合わせた上での結果なので、サンプルの薄さによる偶然とは言いにくい数字です。

興味深いのは、エンゲージメント指標は比較的良好だった点です。直帰率の低さやセッションの深さといった「関心の強さ」を示す指標は悪くないのに、最後の購入に結びつきにくい。この乖離をSchulze教授は信頼の問題として説明しています。同氏いわく、人々はChatGPTを購入直前の最終手段としては使わず、他のソースで裏取りをしてから買う傾向がある、というわけです。AIの提案を「参考意見」として受け取り、決済はなじみのある場所で行う消費者像が浮かびます。

本当の論点は「商品カテゴリ」にある

ここまでだとChatGPTショッピングへの期待は過剰だった、という話で終わりそうですが、研究の核心はむしろここからです。Schulze教授自身が「本当のストーリーは商品カテゴリにある」と語っているとおり、平均値の裏で結果は鮮やかに二極化していました。

情報量が多く、比較検討が必要な複雑なカテゴリでは、ChatGPTはすでに相応の存在感を示しています。自動車、金融、保険、法人向けサービスといった領域では、単純カテゴリのサイトと比べて約4.6倍のLLM流入シェアを獲得し、ペイドソーシャル、リファラル、メール、自然検索、ダイレクトという5つの従来チャネルを上回りました。消費者が選択肢を構造化し、比較可能な形に整理し、意思決定そのものを支援してほしい場面で、ChatGPTは実際に役立っているということです。

一方、ニュースやスポーツ、エンタメのような即決型・低関与の商品では、ChatGPT経由の影響はごくわずかでした。考えてみれば自然な話で、迷う余地の少ない買い物でわざわざAIに相談する動機は乏しく、検索して直接買う方が早い。研究チームは、こうしたカテゴリで下層ファネルのマーケティング予算を組み替える根拠にはならない、と釘を刺しています。

観点機能する場面(複雑な購買)機能しにくい場面(単純な購買)
商品カテゴリ自動車、金融、保険、法人向けサービスなどニュース、スポーツ、エンタメなど即決型
ChatGPT経由の流入シェア単純カテゴリの約4.6倍ごくわずかで、ほぼ誤差の範囲
従来チャネルとの比較ペイドソーシャル、リファラル、メール、自然検索、ダイレクトの5つを上回るペイドソーシャルにしか勝てない
消費者の使い方比較・絞り込み・意思決定の支援として活用AIを介さず直接購入する方が早い
事業者への示唆情報設計とコンテンツ最適化で取り込む価値あり下層ファネルの予算配分を変える根拠にならない

商品が複雑であるほどChatGPTが効く、というこの関係は、裏を返せば「自社の商品が消費者にとって判断に迷うものかどうか」を見極めることが出発点になる、という実務的な示唆につながります。

「複雑さ」をどう自社に引き寄せるか

では情報集約的なカテゴリの事業者は何をすべきか。鍵になるのは、ChatGPTが得意とする「情報の構造化」を、自社のコンテンツ側であらかじめ用意しておくことです。

ChatGPTが比較や絞り込みを支援できるのは、参照できる情報がそもそも整理されている場合に限られます。スペックの違い、用途別の向き不向き、価格帯ごとの選び方といった判断軸が、テキストとして明示されている商品ほど、AIは推奨理由を組み立てやすくなります。逆に、画像と短いキャッチコピーだけで構成されたページは、LLMにとって「比較しようがない商品」になりがちです。これは従来のSEOとは少し異なる、AIに読ませて引用させるための情報設計という発想で、自然検索の最適化と並行して取り組む価値があります。

注意したいのは、この研究が「複雑な商品なら今すぐ予算を移せ」と言っているわけではない点です。流入量はまだ0.2%未満であり、主戦場は依然として既存チャネルにあります。Schulze教授も、企業は自社の商品がこの種のガイダンスから恩恵を受けるタイプかどうかを慎重に見極めるべきだ、と述べています。過度な楽観で投資を前倒しするのも、頭から無視して準備を怠るのも、どちらも筋が悪いというバランス感覚が求められます。

Adobeの調査との食い違いをどう読むか

ここで一つ補助線を引いておきます。Adobe Analyticsは2025年を通じて、AIアシスタント経由の流入が前年比で爆発的に伸び、コンバージョン率も非AI流入を上回ったと繰り返し報告しています。年末商戦では非AI流入よりコンバージョンが30%以上高かったという数字も出ており、一見するとフランクフルト大学の研究と正反対の結論に見えます。

両者は矛盾しているわけではなく、見ている断面が違います。Adobeの数字は成長率と相対比較が中心で、伸び率が大きいことと、母数が小さいこと(0.2%未満)は両立します。また計測対象や時期、AI流入の定義も異なります。フランクフルト大学の研究は学術査読を経た上で「絶対量はまだ小さく、従来チャネルには及ばない」という保守的な像を描き、Adobeは「立ち上がりの勢いは本物だ」という別の真実を伝えている。経営判断としては、勢いの大きさ(Adobe)と現在の規模感(フランクフルト大学)の両方を頭に置くのが安全です。

まとめ

フランクフルト・ファイナンス&マネジメント大学の研究が示したのは、ChatGPTショッピングをめぐる議論を「使える/使えない」の二択で語ること自体が雑だ、という事実です。流入量はまだ全体の0.2%未満で、コンバージョンも大半の従来チャネルに届かない。それでも自動車や金融のような複雑なカテゴリでは、すでに従来チャネルを上回る成果が出ている。平均値ではなくカテゴリ別に見て初めて、自社にとっての意味が見えてきます。

EC事業者が今すべきは、過剰投資でも黙殺でもなく、自社商品が「判断に迷う複雑なもの」かどうかを見極め、複雑な側にいるなら比較や選び方の判断軸をテキストで整備しておくことです。コンバージョン率は調査期間を通じて上昇を続けており、Instant Checkoutやエージェンティックショッピングといった購入体験の改善が進めば、この評価は今後数年で書き換わる可能性があります。今は来たるべき本番に向けて、情報設計という地味な準備を進めておく局面だと言えます。