AIコマース2026年7月31日

AIコマース ニュースダイジェスト(2026年7月31日)

Glovoが商品発見をChatGPTとClaudeに開放し決済は自社に残した設計、Mastercardの「エージェント時代もカードが勝つ」宣言、zerohashのエージェント向け決済基盤など、7月31日のAIコマース関連ニュースをまとめました。

この記事のポイント

  1. Glovoが商品発見をChatGPTとClaudeに開放し、決済は自社に残した
  2. Mastercardが決算で「エージェント時代もカードが勝つ」と明言
  3. 発見側の開放と決済側の囲い込みが同時に進んだ二日間

7月31日のAIコマース関連ニュースをお届けします。前回のダイジェストから二日分を対象にしているため、本日は件数が多めです。全体を貫くのは「どこまでをAIに開放し、どこから先を自社に残すか」という線引きの話でした。Glovoは商品発見をChatGPTとClaudeに開き、チェックアウトは自社アプリに留めています。決済側ではMastercardとVisaが揃って決算でエージェンティックコマースを成長ドライバーに位置づけ、zerohashはエージェント自身が資金を持って動かすための基盤を出しました。前回はMichaelsが自社サイトの中での使い方を示し、GoKwikとPayUがChatGPTの中で決済まで完結させました。今回はその中間にあたる、どこまでを外部のAI面へ出すかという線引きが主題です。

今日の注目ニュース

Glovoが商品発見をChatGPTとClaudeへ開放、チェックアウトは自社に残す

バルセロナ発のオンデマンド配達プラットフォームGlovoが、ChatGPTとClaudeの両方に対応した「Shopping Assistant」の展開を進めています。7月30日にはナイジェリアでの提供が案内されました。スペインでの提供開始は5月28日、ケニアでは7月中旬と、市場ごとに順次広がってきた機能です。

使い方はプラグイン接続後に@Glovoをタグ付けし、必要なものを自然文で書くだけです。「コーヒー好きへの贈り物を予算内で」といった曖昧な依頼に対し、近隣の店舗で実際に在庫がある商品を最大5件提示します。各候補には商品写真、店舗名、ユーザー評価、価格、在庫状況が並びます。会話は過去のやり取りと予算上限を記憶します。

設計上の要点は決済の置き場所です。「View on Glovo」を選ぶとGlovoのアプリまたはWebへ遷移し、支払いと注文確定は自社側で完結します。エージェント面の中で決済まで終えるACP型とは対照的で、顧客関係と決済データを手放さない代わりに、会話からの離脱を受け入れる選択と言えます。

もっとも、AIに購入判断まで委ねる消費者はまだ限られます。Gartnerの調査では購入決定までAIに任せると答えた層は1割前後にとどまり、AI経由の情報を裏取りする消費者が多数派です。発見だけを開放する今回の線引きは、その現実に合わせた設計とも読めます。

詳細記事: GlovoがChatGPTとClaudeに商品発見を開放、決済を自社に残す設計の狙い

Mastercardが決算で「エージェントの世界でもカードが勝つ」と明言

7月30日の6月期決算説明会で、Mastercard CEOのMichael Miebach氏がエージェンティックコマースへの姿勢を明確にしました。「エージェンティックコマースは決済の次の進化であり、Mastercardにとって重要な機会だ」「それは取引が増えることを意味する」と述べ、エージェントの世界でもカードが勝つと見ていると続けています。

数字の裏づけも同時に示されました。6月期のグローバル取引額は2.88兆ドルで前年同期比9%増、純収益は93億ドルです。暗号資産の取扱高は過去2年で3倍になったとしています。

ステーブルコイン側の打ち手がBVNKの買収です。買収額は15億ドル、最大3億ドルのアーンアウト付きで、年内のクロージングを見込みます。加盟店がチェックアウトでステーブルコインを受け取り、現地の法定通貨へ変換できるようにする狙いで、Miebach氏は「法定通貨への変換は依然として必要で、それをBVNKが担う」と説明しました。

同じ週にはVisaも決算でエージェンティックコマースを成長ドライバーに挙げています。中抜きを警戒する議論が続くなか、カードネットワーク2社が揃って「エージェント経由の取引はむしろ増える」という立場を取った点が、この一週間の決済側の論点でした。

詳細記事: Mastercard決算「エージェント時代もカードが勝つ」、取引数が増える論理とEC事業者への影響

エージェンティックコマース

NielsenIQ調査、AIに購入完了まで任せる消費者は8%にとどまる

NielsenIQが7月30日、グローバルレポート「The Commerce Revolution: Where East Meets West」の内容を公表しました。エージェンティックコマースが実験段階から日常のインフラへ移りつつあるという整理です。

引用された数字のうち目を引くのは中国の実績です。Ant Groupによると、AlipayAI Payは2026年2月5日から11日の一週間で1億2,000万件超の取引を処理しました。米国側ではAdobe Analyticsの集計として、生成AI経由の小売サイト流入が2024年7月から2025年2月にかけて1,200%増加したとしています。

一方で消費者の慎重さも同じレポートに並びます。AIに購入完了まで委ねている消費者は8%にとどまり、市場機会の大きさと実際の委任度合いには依然として開きがあります。中国での取引規模と欧米での委任率の低さを同じ資料で並べた点に、このレポートの読みどころがあります。

Amazon Businessが年換算600億ドルに到達、B2B調達もエージェント前提へ

Digital Commerce 360の報道として、Amazon Businessの年換算総流通額が600億ドルを超えたことが伝えられました。設備管理、IT調達、医療用消耗品まで、法人購買のデジタル化が既定路線になったことを示す規模です。

この数字と並行して進むのが調達フローへのAIエージェント導入です。承認ワークフローや支出分析といった従来の法人向け機能に加え、エージェントが自律的に発見・評価・取引する動きが実証段階から実運用へ入りつつあります。

供給側にとっての含意ははっきりしています。人間の目視を前提に書かれた商品説明、ERPに閉じた価格ロジック、バッチ更新の在庫データでは、エージェントの問い合わせに応えられません。カタログデータの品質が取引先としての適格性そのものになるという指摘は、B2Bに限らずEC全般に当てはまります。

決済・フィンテック

zerohashがAgentic Finance Suiteを発表、エージェントが資金を保有・送金・従量課金

オンチェーン決済基盤のzerohashが7月30日、AIエージェント自身が金融取引を開始できるようにする「Agentic Finance Suite」を発表しました。決済企業やカードネットワークが、プログラマブルな資金移動やステーブルコイン残高をAIプロダクトへ組み込むための土台という位置づけです。

機能はオンチェーンの資金を保有する、移動する、ストリーミングするの3系統に整理されています。ストリーミングには従量課金、パブリッシャー向けペイウォール、AIエージェント向けの公開API収益化が含まれます。CEOのEdward Woodford氏は、プラットフォームから繰り返し届く問いが「エージェントに資金を動かさせるにはどうするか」と「そのエージェントが名乗り通りの存在だとどう確認するか」の2つだったと説明しています。

同社は7月14日にLinux Foundationが立ち上げたx402 Foundationのメンバーでもあります。1件あたりの単価が極小になるAPI課金やコンテンツ課金は、カード決済の最低手数料構造と噛み合いません。その隙間を埋める層として、この領域に資金が集まっています。

詳細記事: zerohash「Agentic Finance Suite」発表:AIエージェントが資金を保有・送金・従量課金する決済基盤とKnow Your Agent

Visaも決算でエージェンティックコマースを成長ドライバーに位置づけ

Visaも第3四半期の決算説明会で、AI駆動の決済を中核テーマに据えました。CEOのRyan McInerney氏は、その普及曲線をECやモバイルコマースの立ち上がりに匹敵するものとして説明しています。

対象となる取扱可能額として3兆から5兆ドルという規模感が示されました。同社はIntelligent CommerceやTrusted Agent Protocolといった枠組みを先行して整備しており、決算での言及はその延長線上にあります。

Mastercardの発言と合わせて読むと、カードネットワーク2社が同じ週に同じ方向の宣言をした形になります。エージェント経由の取引でカードが中抜きされるという見方への、両社からの回答という側面もあります。

FlipkartがBNPL「Flipkart Pay Later」を投入

インドのFlipkartが7月30日、チェックアウトに統合した後払いサービス「Flipkart Pay Later」を開始しました。支払いの繰り延べと分割に対応し、同社の各プラットフォームで利用できます。

インドではEC各社がBNPLの提供範囲を広げており、決済手段の選択肢が購入完了率に直結する市場構造があります。チェックアウトへ組み込まれた与信は、カート放棄の抑制策として位置づけられます。

広告・リテールメディア

PatternがChatGPT広告をキャンペーン管理基盤に統合

ECテクノロジー企業のPatternが、ChatGPT上の広告を自社のキャンペーン管理基盤に追加しました。これまでGoogle、Meta、Snap、TikTokやマーケットプレイスを対象にしていた運用ツールの適用範囲が、AIサービスへ広がった形です。

基盤面では、商品単位の広告運用と効果測定を担うROI Hunterの買収が土台になっています。検索、ソーシャル、マーケットプレイス、ChatGPTを単一のインターフェースで運用・計測できることが同社の訴求点です。

AIアシスタント上の広告在庫が実際の運用ツールへ組み込まれ始めたことは、リテールメディアの枠組みが会話面へ拡張していく流れを示しています。

企業動向・提携

GR0がUltimate Deploymentを買収、EC向けAI収益基盤「GR0 AI」を設立

デジタルマーケティング企業のGR0が、Ultimate AIのエンタープライズ部門であるUltimate Deploymentの買収と、新会社GR0 AIの設立を発表しました。

統合の狙いは、GR0が持つ運用型マーケティングの実行力と顧客基盤に、Ultimate DeploymentのAIエージェントと企業向けインテリジェンス技術を接続することにあります。ECブランド向けの収益基盤として展開する構想です。

集客支援とAIエージェント運用が一社にまとまる動きは、ブランド側が「広告代理」と「AI実装」を別々に調達しなくてよくなる方向を示しています。

物流・フルフィルメント

サプライチェーンAIのFreehandが7,500万ドルを調達、MetaやDunkin'と協業

企業のサプライチェーン支出をAIエージェントが管理するFreehandが、シードラウンドで7,500万ドルを調達しました。Battery VenturesとNewRoad Capital Partnersが共同リードを務め、元米商務長官Penny Pritzker氏のPSP Growth、Nexus Venture Partnersも参加しています。

シードとしては異例の規模で、すでにMetaやDunkin'との協業が進んでいる点が評価されたとみられます。創業者はAbhijeet Manohar氏とNitin Jayakrishnan氏です。

投資家の関心が商品発見や接客だけでなく、調達と支出管理という後方の業務にも向かっていることを示す一件です。

UNIT AIが1,200万ドルを調達、フルフィルメントと返品の自動化へ

フィジカルAI企業のUNIT AIが1,200万ドルを調達しました。小売事業者と3PL(サードパーティ・ロジスティクス)事業者に向けて、企業水準の倉庫自動化をより導入しやすくすることを掲げています。

対象領域はフルフィルメントと返品処理です。返品はEC事業者にとってコスト構造上の重荷であり続けており、人手依存の工程が残りやすい領域でもあります。

前段のFreehandと合わせると、この二日間だけでサプライチェーンと物流のAI領域に8,700万ドルが入った計算になります。

Wildberriesの倉庫がドローン攻撃で被災、出店者の在庫に打撃

ロシア最大のECプラットフォームWildberriesの物流拠点が、ウクライナの長距離ドローンによる攻撃を相次いで受けました。ここ数日で十数件の着弾があったと報じられています。

被害は倉庫設備にとどまりません。出店者の在庫が焼失し、数百社が融資条件の見直しを申し入れる状況になっています。同社は物流能力の一部を失ったとされ、隣国での代替拠点の確保も取り沙汰されています。

単一のプラットフォームに在庫を集中させることの脆弱性が、極端な形で表面化した事例です。

消費者動向

AIへの期待と不信が同居、決済段階で止まる実態

美容とファッションのECサイトがAIツールへの投資で先行している一方、その効果がチェックアウトの手前で頭打ちになっているという調査結果が出ました。

技術的な制約と顧客側の心理的な抵抗が同時に働いている構図です。商品発見や接客の場面では受け入れられても、支払いの確定という段階で消費者が主導権を手放さない傾向が繰り返し確認されています。

本日のNielsenIQ調査で示された8%という数字とも符合します。発見の自動化と決済の自動化は、事業者側が思うほど地続きではありません。

美容ブランドがAIショッピング対応で小売を先行

Google Trendsのデータをもとに、AI活用のショッピング対応で美容ブランドが小売事業者を上回っているという分析が示されました。

美容カテゴリは肌質や好みといった個別条件が購入判断を左右するため、対話型の絞り込みと相性が良い領域です。パーソナライズの精度が売上に直結しやすい構造が、投資の前倒しにつながっています。

前項のファッション・美容のAI投資が厚いという調査と重なる内容で、カテゴリごとにAI対応の進度差が生まれ始めていることがうかがえます。

Salesforce調査、AIが顧客期待を押し上げる速度にブランドが追いつけず

SalesforceのState of Commerceレポートが、AIによって顧客の期待水準が上がる速度に、ブランド側の提供能力が追いついていないと指摘しました。

ボトルネックとして挙げられたのがデータの分断です。在庫、顧客履歴、価格が別々のシステムに散っている状態では、対話型の接客が期待通りに応答できません。

AI導入の障壁が技術そのものではなくデータ基盤にあるという指摘は、Amazon Businessのカタログ品質の話とも重なります。

グローバルEC動向

CERRE、EU消費者法がエージェンティックAIに対応できていないと指摘

欧州の政策研究機関CERREが、EUの現行消費者法がエージェンティックAIを前提にしていないと指摘する論文を公表しました。

争点はAIエージェントが誤った購入をしたときの責任と救済です。既存の枠組みは人間が自ら判断して契約すること、あるいは事業者が直接勧誘することを前提としており、その中間にある自律エージェントの行為を想定していません。

7月29日に取り上げたニューヨーク州金融サービス局の関心表明に続く動きで、大西洋の両側で同じ論点が立ち上がっています。

デラウェア州が自律型エージェント向けの新しい法人形態を提案

米デラウェア州が、自律型AIエージェントのために設計された新しい法人形態を提案しました。米国の法人設立の中心地からの提案という点で、実務への影響が大きい動きです。

論点は責任の帰属先です。エージェントが取引主体として振る舞うとき、誰が契約の当事者となり、誰が賠償責任を負うのかという問いに、既存の法人格は明確に答えられません。専用の器を用意することで、取引相手が誰と契約しているかを特定できるようにする狙いがあります。

規制側が禁止や警告ではなく、受け皿の整備に動き始めた点で、CERREの問題提起とは対照的なアプローチと言えます。

まとめ

この二日間で目立ったのは、AIに開放する範囲を事業者が意識的に区切り始めたことです。Glovoは発見を開放して決済を残し、MastercardとVisaは取引の入口が変わっても決済レイヤーは自社に残ると主張しました。開放と囲い込みは対立するものではなく、同じ設計判断の裏表として扱われています。

数字の面では、中国での1億2,000万件という実績と、購入完了まで委ねる消費者が8%という現実が同じレポートに並びました。この差が縮まるかどうかが、来年に向けた最大の変数です。

規制の側では、責任の所在をめぐる議論が欧州と米国で同時に立ち上がりました。デラウェア州のように受け皿を用意する動きが他州や他国へ広がるかどうかを、次の注目点として見ておきたいところです。