Gmarket CEOが「AI時代の卸売業者」構想を表明、オープンマーケットプレイス優位論と上半期取引額14%増の中身
韓国GmarketのJames Chang CEOがAIコマース時代はオープンマーケットプレイスが優位と主張。手数料モデルの「AIエージェント親和性」、卸売業者構想、G Mall計画の狙いと、EC事業者が読み取るべき論点を解説します。
この記事のポイント
- 韓国GmarketのJames Chang CEOが、AIコマース時代はオープンマーケットプレイスが優位に立つとの見解を表明した。上半期の取引額は前年比14%増と4年ぶりに反転している
- 根拠は「AIエージェントには膨大な商品多様性とデータが必要」かつ「広告依存のプラットフォームはエージェントの訪問を歓迎できない」という2点で、手数料中心の収益構造を「AIエージェント親和的」と位置づけた
- EC事業者にとっては、収益モデルがエージェント受け入れ姿勢を規定するという構図の指摘が重要になる。自社の収益構造がAI経由の取引とどう衝突するかの点検が示唆となる
4年ぶりの反転、Gmarketで何が起きているのか

GmarketのJames Chang CEOは、AI時代にはオープンマーケットプレイスが優位に立つと語る。上半期の取引額は14%増と4年ぶりの反転を記録した。
en.sedaily.com韓国のECプラットフォームGmarketを率いるJames Chang(張承歓、チャン・スンファン)CEOが、Seoul Economic Dailyのインタビューで自社の再建状況とAIコマース戦略を語りました。就任から1年足らずで、上半期の取引額は前年比14%増と4年ぶりの増加に転じています。顧客あたり月間支出は12%増、購入転換率は14%増、出品者数は5%増の66万に達しました。
Changというリーダーの経歴自体が、この記事の読みどころのひとつです。2012年に東南アジアECのLazadaをフィリピンで共同創業し、シンガポールとインドネシアの責任者を歴任した人物で、Lazadaは2016年にAlibabaに買収されました。そのAlibabaが2024年末に新世界グループとGmarketへの共同投資で合意し、Changは2025年9月にGmarketのCEOに就任しています。両グループの合弁会社Grand Opus Holdingsは韓国公正取引委員会の条件付き承認を経て2025年9月に発足しており、GmarketとAliExpress Koreaを50対50の持株会社の下に収める構造です。
再建の文脈も押さえておく必要があります。韓国EC市場はCoupangとNaverの2強が市場の過半を占める構図が続いており、Gmarketは長く停滞していました。Chang自身、インタビューで「モバイル化とアルゴリズムによるパーソナライゼーションという2つの変曲点で、Gmarketは基盤技術を作らずサービスレベルの調整で対応し、それが技術的負債として残った」と率直に認めています。最近までアプリにパーソナライズされた推薦がなく、ジーンズを検索すると年齢や性別に関係なく全員に同じ商品が表示されていたといいます。
「オープンマーケットプレイスがAI時代に勝つ」という主張の構造
今回のインタビューで最も踏み込んだ論点は、AIコマース時代の勝者はどの事業モデルかという問いへの回答です。Changの主張は、Coupangに代表される直仕入れ型(自社が在庫を持って販売するモデル)が主導する韓国市場の現状に真っ向から反するものです。
第一の根拠は品揃えとデータです。「AIエージェントが顧客の体験にとって正確に適切な商品を提示するには、裏側に膨大な商品多様性とデータが必要になる」とChangは述べ、出品者66万を抱えるオープンマーケットプレイス(多数の出品者が自由に商品を販売する場を提供するモデル)の構造がAI時代にこそ活きると論じました。長い歴史で蓄積した商品・出品者・顧客データも優位性として挙げています。
第二の根拠が収益構造です。Changは、取引手数料を中心とし広告依存度が低いGmarketの収益モデルを「AIエージェント親和的(AI agent friendly)」と表現しました。広告収入が主力のプラットフォームは、人間の代わりにAIエージェントが訪問することを歓迎しにくい。広告を見ない訪問者は収益を生まないからです。守るべき広告収入が少ないGmarketは、複数のショッピングエージェントに扉を開き続けられるという理屈です。
この延長線上にあるのが「AI時代の卸売業者(wholesaler of the AI era)」という構想です。AIエージェントがGmarketのデータを活用できる統合構造を作り、卸売業者のようにエージェントへ商品を供給する。そうすればGmarketアプリ単体で戦うのではなく、無数のAIエージェントと並走して競争できるという考え方です。自社アプリへの集客を前提としてきたECプラットフォームの発想からの転換といえます。
一方でChangは、AIエージェントが普及しても消費者が自分で買い物をする領域は残るとみています。「AIが用事的な買い物を担い、消費者が楽しい買い物を担う構造に分かれる」とし、楽しい買い物の領域としてファッション、美容、食品、レジャー、趣味を挙げました。美容カテゴリを戦略的に強化する方針で、来年初めには「G Mall」(仮称)というGmarket保証付きキュレーションを開始する計画です。G Mallには、出店を迷うブランドに安心を与えることと、顧客体験の幅を広げることの2つの狙いがあると説明しています。なお、この再建を支える投資として、Gmarketは年間1,000億ウォンをAI技術開発に投じる計画を公表済みです。
広告モデルとの緊張は、すでに現実になっている
Changの「広告依存プラットフォームはエージェントを歓迎しない」という指摘は、抽象論ではありません。米国ではAmazonがPerplexityのショッピングエージェントCometを提訴し、2026年3月に連邦地裁で差し止め命令を勝ち取りました。Amazonの2025年の広告収入は約686億ドルに達しており、エージェントが検索から購入まで直行すればスポンサー枠は素通りされます。Amazonは自社エージェントRufusに投資しつつ、外部エージェントを広範に遮断してきました。収益構造がエージェント受け入れ姿勢を規定するという構図は、この係争が具体的に示した通りです。
ただし、Changの主張をそのまま受け取ることには留保が必要です。エージェント経由の購買自体がまだ立ち上がっていません。OpenAIはChatGPT内で購入を完結させるInstant Checkoutを推進しましたが、2026年3月に方針を転換し、小売事業者のサイトへ誘導する方式へ改めています。エージェントに扉を開いても、流れてくる取引量が事業を動かす規模になる時期は不確かです。
もうひとつの留保は、オープンマーケットプレイスの構造的弱点です。多様な出品者を抱えるモデルは品質や信頼性のばらつきを避けられず、AIエージェントが購買を代行する世界では、配送の確実性や商品情報の正確さがむしろ選定基準として厳しく問われます。在庫と物流を自社で握る直仕入れ型は、この点で有利に働く余地があります。G Mallという保証付きキュレーションの構想は、Chang自身がこの弱点を認識していることの裏返しとも読めます。パーソナライゼーションすら最近までなかったという技術的負債の告白を踏まえれば、構想と実装の間にはまだ距離があります。
EC事業者への示唆
日本のEC事業者がこのインタビューから引き出せる論点は、収益モデルの点検です。自社の売上のうち、広告や送客に依存する部分がどれだけあるか。AIエージェント経由の訪問が増えたとき、その収益はどうなるか。Changの「AIエージェント親和的」という言葉は、エージェント時代の競争力が収益構造の設計段階で決まることを示しています。
卸売業者という自己規定にも参照価値があります。自社サイトやアプリへの集客を唯一の経路とせず、エージェントが読み取れる形で商品データを整備し、外部のAIに商品を供給する経路を持つ。これは大手プラットフォームに限らず、商品データの構造化やフィード整備という形で中小のEC事業者にも実践の余地がある方向性です。同時に、ファッションや美容のような「楽しい買い物」領域では人間向けの体験投資が引き続き必要だという整理は、AI対応と既存のCX投資の配分を考える際の実務的な補助線になります。
まとめ
Gmarketの復調は始まったばかりで、オープンマーケットプレイス優位論もまだ仮説の段階です。それでも、広告収入とエージェント受け入れの緊張関係を軸に事業モデルを再定義し、卸売業者という立ち位置まで言語化した点で、このインタビューはAIコマース時代のプラットフォーム戦略の座標を示しています。G Mallが始動し、AlibabaのAI基盤との統合が進む来年、この賭けの成否を測る最初の数字が出てくるはずです。


