この記事のポイント
- Googleは2026年6月のOpen Source Summit North Americaで、AIエージェントがあらゆる店舗と取引するためのオープン標準「UCP(Universal Commerce Protocol)」のアーキテクチャを公開しました。
- UCPはShopifyと共同開発され、決済はAP2、通信はA2AやMCPと組み合わさる「層」として設計されており、特定のプラットフォームに依存しない相互運用性が核心です。
- OpenAI・StripeのACPがプラットフォーム委譲型なのに対し、UCPはマーチャントが自社ドメインで主導権を握る分散型です。EC事業者は両方への対応を前提に検討する段階に入りました。
オープンソースの舞台でGoogleが示した「商取引の共通言語」

Universal Commerce Protocol (UCP) builds open rails for agentic commerce. See our architecture walkthrough from Open Source Summit North America.
opensource.googleblog.com買い物の主体が、人間からAIエージェントへと移りつつあります。Googleはこの変化を見据え、Open Source Summit North America 2026でエージェンティックコマースの「オープンレール」としてUniversal Commerce Protocol(UCP)のアーキテクチャを詳しく解説しました。
エージェンティックコマースとは、AIエージェントが利用者に代わって商品の検索・比較・購入・決済までを自律的に進める購買形態を指します。コンサルティング大手Bainの予測では、こうしたエージェント経由の買い物は2030年までに米国EC全体の10〜25%に達するとされています。市場が現実味を帯びるほど、エージェントとマーチャントをどうつなぐかという基盤の問題が前面に出てきます。
Googleが繰り返し指摘したのは、現在の商取引が断片化しているという問題です。新しい購買面(サーフェス)が増えるたびに個別の連携が必要になり、接続のたびに複雑さが積み上がります。UCPはこの状況に対し、エージェントとシステムが共通の言語で対話するための標準を提供しようとしています。
UCPとは何か、なぜ「層」で考えるのか
UCPは、AIエージェントが事業者の機能を発見し、自分が扱える範囲を交渉したうえで取引を完了させるための仕組みです。Googleの技術解説記事によれば、設計の中心にあるのは「層(レイヤー)」による拡張性です。
最下層にはサービスがあり、ショッピングなどの領域を束ねます。その上にケイパビリティが並び、チェックアウト、カタログ、カート、注文といった商取引の基本動作を定義します。さらに拡張(エクステンション)が個別の要件を上乗せします。たとえば割引はチェックアウトを拡張する形で表現され、配送やロイヤリティ、購入後フローもこの層で吸収されます。
なぜこれほど層を分けるのか。共同開発したShopifyはエンジニアリングブログで、商取引のルールがカート内容・購入者の所在地・各国の規制によって大きく変わる点を理由に挙げています。一枚岩の巨大なAPIでは、この多様性を捌ききれません。層に分けて独立してバージョン管理することで、「マーチャントは必要な機能だけを実装し、エージェントは自分が扱える機能だけを交渉する」状態を実現します。
ここがUCPの思想を端的に示す部分です。すべての事業者がすべての機能を備える必要はなく、双方が公開した能力の重なり(intersection)を計算して取引を成立させます。
発見と交渉はどう動くのか
仕組みの要は、マーチャントが自社ドメインの /.well-known/ucp という決まった場所に、対応ケイパビリティと決済設定を記したJSONプロファイルを公開する点にあります。エージェントはこの宣言を読み取るだけで、ハードコードされた個別連携なしに利用可能な機能やエンドポイントを動的に発見できます。
決済の扱いも双方向の交渉として設計されています。マーチャント側は受け付ける決済ハンドラーを示し、エージェント側は利用できる決済情報を申告します。プロトコルがその場のカート内容と購入者の所在地に応じて、実際に使える選択肢を割り出します。
人間の関与が必要な場面、たとえば本人確認や追加入力が求められるケースには、Embedded Checkout Protocol(ECP)という仕組みが用意されています。continue_url を通じて処理を引き継ぎ、エージェントとマーチャントの間でJSON-RPC 2.0の双方向メッセージをやり取りすることで、完全自動と人間の介在をなめらかにつなぎます。
トランスポート層が特定の通信方式に縛られないことも重要です。UCPはRESTに加え、Googleが推進するA2A(Agent2Agent)やAnthropic由来のMCP(Model Context Protocol)といった複数のバインディングをサポートします。エージェントが既に使っている通信基盤をそのまま活かせる設計です。
AP2・A2A・MCPとの関係を整理する
UCPは単独で完結する標準ではなく、複数の仕様と組み合わさって機能します。混同しやすいので、役割の違いを押さえておきます。
決済を担うのがAP2(Agent Payments Protocol)です。2025年9月にMastercardやPayPal、Coinbaseなど60社以上のパートナーとともに発表された、決済手段に中立なオープン標準です。AP2が解くのは「利用者がこの購入を本当に許可したか」という問いで、その答えを暗号署名されたマンデート(権限の証明)の連鎖として標準化します。実際にお金を動かすレール、つまりカード網や即時銀行送金、ステーブルコインなどはその下で自由に選べます。
整理すると、UCPが「何を、どの条件で買うか」という商取引の文法を定め、AP2が「その購入が正当に承認されているか」を保証します。そしてA2AやMCPは、それらをやり取りするための通信路を提供します。役割が重ならず補完し合う関係にあるため、Googleはこれらをまとめてエージェンティックコマースのオープンレールと位置づけています。
ShopifyをはじめとするUCP連合
UCPはGoogleの単独プロジェクトではありません。Shopify、Etsy、Wayfair、Target、Walmartが共同開発者として名を連ね、さらに20社を超える企業が支持を表明しています。Adyen、American Express、Best Buy、Flipkart、Macy's、Mastercard、Stripe、The Home Depot、Visa、Zalandoなど、決済ネットワークから大手小売まで顔ぶれは広範です。
なかでもShopifyの関与は象徴的です。同社は数百万のマーチャントと膨大な取引を抱える立場から、現実の商取引が持つ複雑さをプロトコル設計に持ち込みました。Googleの陣営に決済大手のStripeやVisa、Mastercardが並ぶ点も見逃せません。決済レールの担い手が標準づくりに加わることは、UCPが実運用に耐える基盤になりうるかを左右します。
UCPは、エージェントとシステムが消費者の接点・事業者・決済事業者の垣根を越えて協調動作するための共通言語を生み出します。
OpenAI・StripeのACPとの違い
エージェンティックコマースの標準はUCPだけではありません。OpenAIとStripeが主導するACP(Agentic Commerce Protocol)が、もう一方の有力な選択肢です。両者は競合しつつも設計思想が大きく異なります。
| 観点 | UCP(Google・Shopify) | ACP(OpenAI・Stripe) |
|---|---|---|
| カバー範囲 | 発見から決済まで購買ジャーニー全体 | チェックアウト会話を中心に標準化 |
| 仕組み | マーチャントが自社ドメインにプロファイルを公開 | カタログをプラットフォームに提出し運用を委譲 |
| 決済 | AP2と組み合わせ、決済手段は中立 | Stripeが決済を処理 |
| 主導 | Google・Shopify+20社超の連合 | OpenAI・Stripe(ChatGPT中心) |
| 主眼 | コントロールと相互運用性 | 導入の手軽さと流通 |
最大の違いは主導権の所在です。UCPは分散型で、マーチャントが自社ドメインにプロファイルを公開し、どのAIエージェントも事前登録なしにアクセスできます。一方ACPはプラットフォーム委譲型で、マーチャントはカタログをOpenAIに提出し、決済はStripeが処理し、ChatGPTが会話の中で商品を提示します。
導入の手軽さではACPに分があります。カタログを出してStripeをつなげば運用が始まるため、数時間で組み込めるとされます。対するUCPは自前でプロファイルを公開・運用する手間がかかりますが、その代わりにコントロールと相互運用性を手にできます。どちらか一方を選ぶというより、EC事業者にとっては両方への対応をどう設計するかが現実的な問いになっています。両者の詳細な比較はUCPとACPの徹底比較でも扱っています。
EC事業者は何を準備すべきか
Googleは現在、一部の大手小売パートナーとともに早期展開の段階にあり、2026年を通じて対象を広げる方針です。標準がまだ固まりきっていない今だからこそ、事業者には準備の余地があります。
まず押さえるべきは、商品情報やチェックアウトの仕様がエージェントから機械的に読み取れる形になっているかという点です。UCPは /.well-known/ucp のプロファイル公開を前提とするため、自社のカタログ・在庫・配送ルールを構造化データとして整理しておくことが出発点になります。プラットフォーム任せにできるACPと違い、UCP対応は自社側の整備が問われます。
加えて、決済まわりではAP2のマンデートに対応できる体制が将来的に必要になります。エージェントが代理で購入する以上、「誰がいつ何を承認したか」を検証可能な形で残す仕組みは避けて通れません。今は様子見でも、対応プロトコルの動向を追い、自社のデータと決済基盤を整えておくことが、エージェント経由の需要を取りこぼさない備えになります。
まとめ
GoogleがOpen Source Summitで示したUCPは、エージェンティックコマースを特定企業の囲い込みから解き放ち、オープンな共通基盤に乗せようとする試みです。決済のAP2、通信のA2AやMCPと層をなして補完し合う設計は、相互運用性を最優先する思想の表れといえます。ShopifyやVisa、Mastercardを巻き込んだ連合と、OpenAI・StripeのACPがどう共存していくか。標準が定まる過程そのものが、これからの商取引の形を決めていきます。





